魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 す、凄い……凄いです!
 バートス達の炎が、あの巨大な化け物10本を押しています。

 魔界からきたバートスの元同僚さんたち。各自の能力が互いを補完し合って、バートスの力も相互作用でとんでもない力を発揮してます。

 10本の炎は完全に押さえ込まれて、確実にダメージを与えている。

 それにしても……

 今のバートスはとても生き生きしてますね。

 もちろん彼は今までの討伐でも頑張ってくれていました。
 でも、今のバートスは足りなかったものを得たような。

 そんな感じの表情です。


 ―――ちょっと悔しい。


 こんな時にそんな感情を抱くこと自体が、不謹慎なのはわかっていますが。


 〖ぐぬぅうう〗
 〖クズども〗
 〖ちょうしにのるなよ、おっさん〗

 10本の首が一斉にバートスへ怨嗟の声を叩きつけてきます。
 予想外の攻撃に怒りを露わにする巨大ヒドラ。


 〖やむおえん〗

 〖うむ、やむおえん?〗
 〖なんだ?〗

 〖わしのちからおもいしらせてくれる〗

 〖おう、おもいしらせる〗
 〖―――!?〗
 〖おい、なにやって……〗
 〖ぐあぁあ……やめろ!〗


 な、なんですか!?


 10本が共食いを始めましたよ!!
 中央の首が周辺の首を次々に食べていきます。

 1本食べるごとに、中央の首は太く大きくなって……

 「ば、バートス! あれは!!」
 「ああ、リズ。どうやら一つにまとまったようだな」


 バートスの言うとおり、9本の首をすべて平らげて1本の巨大な首になったカイザーヒドラ。


 〖さあごみども―――くらえ!!〗


 巨大化した大きな口から放たれるとてつもない炎。

 今まで10本の炎を押さえ込んでいたバートス達の炎が、徐々に押され始めました。


 〖ハハハ、やはりわれがさいきょう〗


 「うむ、やはり手強いな」

 バートスが唸ります。

 ……手強い。

 彼から「手強い」という言葉を初めて聞いたかもしれません。
 討伐前はとてもビビるバートスですが、いざ実戦となるとひょうひょうと魔物を倒してきました。

 やはり10本はバートスにとっても規格外なのでしょう。


 「バートスさん。こりゃ全力でいくしかないですよ」
 「だな。これじゃ埒があかねぇ!」
 「ガハハ~おっさん、きめちまえ!」

 同僚のみなさんが、声を揃えます。

 ていうか―――

 「バートス? 今まで全力じゃなかったんですか!?」

 「いや……そうだな」

 珍しくバートスが口を濁した。

 普段のバートスなら、こんな時ははっきり言い切るはずです。

 「お嬢ちゃん、バートスさんの力はこんなもんじゃない」
 「ああ、俺たちが勤める前の話だが、いちど焼却場が燃えたことがあるって聞いたぜぇ」
 「ガハハ~~おっさんやりすぎだ!」

 代わりに同僚の方たちが会話を紡いだ。

 「リズ……」

 ようやくバートスが口を開いた。

 「今の【焼却】は常時発動できる炎と、先ほど体内にためた炎を併用して発動している」
 「バートスが体内にためると言っていた炎ですね」
 「そうだ、ためた炎は一定の力で放出しているんだ」

 なるほど、だからいつもよりもより大きな炎を出すことができるのですね。

 「が、これをまとめて一瞬で放出することもできる」

 「え!? 一瞬で……」

 一定量の放出でもとんでもない威力だったのに。
 まとめて一気に放出すれば……もう想像がつきません。


 「これをやったのは、一度だけだ―――
 まだ【焼却】のことをよく理解していない頃に、やらかした。俺には扱えない炎だったんだ。親父が身を挺して俺を救ってくれたが」

 その瞳は少しいつもと違い、バートスらしい余裕が感じられない。

 「親父は元より体にガタがきていたが、俺のせいで大けがを負わせてしまった。そのまま復帰することなく清掃局を辞めることになったよ」

 「バートス……」

 「つまりだリズ。これは能力なんかじゃないんだ。単に暴走する制御不能の炎なんだ。使用すれば親父の時と一緒になってしまう」

 バートスがいつもと違う顔をしている理由がわかりました。


 ずっと悔いていたんですね。


 理由はどうあれ、父親を傷つけてしまったこと。
 もっといえば父親の大好きだった仕事を奪ってしまったことに。

 すぅ―――

 私は一呼吸おいて、バートスをしっかりと見た。


 「一緒じゃありません。その時と大きな違いがありますよ」

 「違いだって……?」

 バートスが少し首を傾げる。

 そりゃ違いますよ。なぜなら―――


 「――――――私が傍にいます」


 「しかし……【全力焼却】を使うとなると暴走が起こるぞ。しかもいまだかつてないほどの」

 この人は私のことを心配してくれているのですね。
 自身の父親にしたことが重なってるんだ。


 たしかに今回の暴走は、今までとは比べ物にならないでしょう。

 でももう大丈夫なんです。

 バートスと出会ってから、ずっと彼が助けてくれました。

 何度も心が折れそうになったけど、

 バートスはずっと私を肯定し続けてくれたから。

 バートスはずっと私の背中を押し続けてくれたから。


 だから、今度は私の番なんです。


 ―――彼の背中を押す!!


 「バートス! 思いっきりやってください!」
 「しかし、暴走が……」

 「大丈夫です! 全て私が受け止めます! 信じてください!」

 なんの迷いもない。
 彼がずっと傍にいてくれたから。

 「リズ……わかった」

 私の目をみたバートスは、ニッコリと微笑んでくれた。

 あ、いつものバートスになりました!?


 「ハハッ! さすが聖女リズだ! よしきた!」


 「フフ、そうですよあなたの聖女ですから」

 良かった。


 私はバートスの手をギュッと握る。
 バートスも同じくギュッと握り返してくれた。


 「エレナ、フルパワーです! いきますよ!」
 『らじゃー! どんとこいなのじゃ!!』

 聖杖のエレナが光り輝き、私の身体から青い結晶の輝きがバートスを包み込む。
 これでバートスは全力を出しても大丈夫。

 根拠はないけど、絶対に暴走させないから大丈夫です。

 私とバートスの視線が10本に向きます。


 〖グハハ~おっさんが、いまさらなにをしてもむだ〗


 そんなわけないでしょう。

 「バートス、あそこにふんぞり返っている魔物にガツンとかましますよ」
 「ああ、もちろんだ。リズ」

 バートスは凄いんだから。

 出会った時から、今までずっと。

 そんなバートスが、唯一の能力を思いっきり解放します。



 「――――――【焼却】全力発動!!」



 ―――――――――ボボボボボウっ!!!



 極大ブレスを吐く10本と、バートスの全力【焼却】の炎。


 想像を絶する2つの炎が衝突した。