魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 「えぇ~~い!!」
 『むぅうううん!!』

 結界内に女子2人の気合が響く。
 エレナの力と私の魔力を常に充填させて、氷の結界内に冷気を大量放出する。

 結界を張ることで、バートスの炎が広がることは防げた。しかし、肝心の本人は依然真っ赤に燃え盛っている。

 ……相変わらずとんでもない炎ですね。

 無我夢中で結界を発動してから数分が経ったが、相変わらずバートスは真っ赤だ。

 女子二人(1人は杖)に抱き着かれてるんだから、いい加減に消火されてください!

 『リズ~なんか頭がプスプスするのじゃ~』

 え? 聖杖から煙が出始めています!
 エレナももう限界が近い……

 そしてさらに事態は悪化する。

 ―――!?

 ウソ……結界の氷が溶け始めている!

 これではバートス自身を鎮火するどころか、再び炎が拡大してしまう。


 やっぱり無理なのですか……


 そう呟いたとたんに、かつての負の感情が荒波のように押し寄せて来た。

 〖そうよ、無理に決まっているでしょ。出来損ない〗

 頭の中に声が響く。

 私の目の前にいるのは、出来損ない聖女として全てを失っていた頃の自分。過去の私。
 ああ……バートスと出会う前に良くでてきた私だ。

 そういえば法衣もこんなにボロボロでしたっけ。

 「でも、あれから私は頑張ってきた」
 〖頑張ったて、なにをよ〗
 「魔物もたくさん討伐したし……」
 〖それあんたの力? バートスに討伐させて手柄を横取りしてるだけじゃないの〗

 過去の私が、口角を引き上げてニヤついた視線を送ってくる。

 「で、でも。結界もはれるようになったし……」
 〖アハッ! それだって天使を無理やり使役させてるからでしょう。こんなに酷使しちゃって~あんた鬼だね~〗
 「そんなことない! エレナと力を合わせたからこそできたんだから!」
 〖だから~~それってあんたの力じゃないの。わかるかなぁ?〗

 否定の言葉を並び立てる過去の私。
 たしかに私だけの力ではない。

 〖出来損ないは出来損ないらしく早く諦めなよ〗

 諦める……

 その心がよぎった瞬間―――


 ずっと心の奥底にフタをしていたナニカが吹き出してくる。

 ぐっ……

 〖あんただけじゃ、ここまで近寄ることも出来なかったの。ほら~~早く諦めなよ~熱いしさぁ〗

 もう無理なの? 諦める? やっぱり聖女の力なんて元々無かった?

 聖杖を握る手から力が抜けていく。

 「リズ!」
 〖ちょ……なに?〗
 「おい、リズ!」
 〖なによ! おっさん邪魔しないでよおぉぉぉ……〗

 ……誰?
 揺さぶられている感覚……過去の私が消えていく。


 ―――バートス?


 わたしの肩を揺さぶっているのはバートスでした。

 「あれ? 私……いったい?」

 「しっかりしろリズ」

 どうやら大量の魔力消費と熱さで、意識が飛びそうになっていたようです。

 「バートス、やっぱり私は―――」

 「凄いぞリズ!」

 「ええっと……なにがですか?」

 結界もボロボロだし、いよいよもって打つ手がない状態なのに。

 「俺が灰になってないじゃないか」

 そ、それはそうかもしれませんが。

 「でも時間の問題ですよ……」

 そう、もう魔力が尽きる。
 そうしたら、おしまいです。

 「こんな私でごめんなさい……もっとちゃんとした聖女の方が良かったですよね」

 言ってしまった。
 こんなこと言って、なにになるのだろう。

 でも言わずにはいられない。
 また自分が嫌いになってきました。


 「―――俺はリズの方がいい」


 ええ?

 こんな私がいいんですか?

 「そうだ、リズの治癒魔法は世界一だぞ」

 ああ、そうだった。
 この人は、私の全てを肯定してくれる。

 「ドーンとかまえて仕事しろ。悩む必要はないぞ」

 バートスはいつでも私を受け入れてくれる。

 ふぅ……

 ちょっとだけ楽になった。

 「バートス……実は言っていないことがあります」
 「なんだリズ?」
 「ちょっと頭が焦げはじめています」

 「うお!? マジで! どこ? いかん全部焦げてしまうのはマズイ!」

 なんですかこの緊張感のない人。

 もう……なんだかできそうに思えてきたじゃない……

 弱気とは別の感情がわいてきました。

 この人とずっと一緒にいたい。

 だったら―――

 やるしかないじゃない!


 っていうか、やる!!


 「バートス! 頭の焦げを止めてあげますから。ちょっと大人しくしていてください」

 まずは崩れかかった結界の再構築です! 

 「エレナ! 気合入れますよ~~~!」
 『おっしゃ~~こうなりゃなんでもこいなのじゃ!!』

 さあ、聖女の力でも、火事場の馬鹿力でもなんでもいいです!
 ありったけのフルパワーですよ!

 バートスと私を囲う青い結界が新たに生まれ変わり、全方向から冷気を放出する。

 うっ……魔力が凄い勢いで消えていく。

 でも、同時にバートスの炎が弱まっていく。

 今しかない。ここで消火できなければ……もう二度とチャンスはありません!

 いまやらなければ、一緒にいられないんだから!

 体の隅々から魔力を絞り出して、その全てをバートスにぶつける。
 ピキピキと湖面に氷がはりだした。


 聖女リズロッテ! ここ一番の気合っ!!


 それからどれだけ力を振り絞っただろうか。

 記憶が所々飛んでいるようで時間の経過もよく分からないです。
 視界もぼやけて周りの様子もハッキリ見えない。

 なんだか体がフワリと持ち上がったような。

 あれ? 結界が……ない!?

 それに熱くないです。炎がない? ということは……

 ボンヤリとしていた視界が鮮明になっていく。
 私の目の前にある影。

 「あ、バートスですか……」

 良かった。バートス無事だった。
 髪の毛もちゃんとあります。

 ところで……なんか私、さっきから浮いているような気がします。

 ―――え! ちょっと待って! 

 もしかして私、バートスに抱っこされません?

 しかもこれ、お姫さま抱っこというものでは!!

 いや、まあ消火のためにバートスに抱き着いてたけど……これはこれで……

 嬉しいけど……


 ――――――すっごい恥ずかしいです!


 私はビックリするぐらいドキドキ鳴る胸を抑えて、バートスの腕の中にうずくまるのであった。