◯数百年前の火鷹村・明け方
人と妖があるきっかけで憎しみ合い、激しく争った後の荒れ果てた村。周りには人と妖の死体が転がっており、霧が立ち込めている。
その中に氷狼神・切籠(きりこ)が番である火の巫女・陽菜の亡骸と共に倒れている。
切籠「陽菜…」
陽菜の胸に深い傷口から血が滲んで着ていた白い巫女装束が赤く染まっている。切籠も力を使い果たし命の灯火が消えかけていた。
切籠(大丈夫だ。陽菜。俺ももうすぐお前の元に行く…)
冷たくなった陽菜の目から涙が落ちる。
⭐︎切籠の過去回想
陽菜「切籠様は私(わたくし)が守ります。それが火の巫女として、そして、氷狼神の妻としての役目ですから…」
陽菜は優しく微笑み運命を受け入れている。切籠は愛おしそうに彼女の頬に触れる。
だが、その途端現実に引き戻される。
⭐︎現在に戻る
切籠はそっと冷たくなった陽菜の頬に触れる。
もう思い残すことはないとゆっくりと目を閉じようとした時に2人を探していた火神・時乃が現れ、切籠と陽菜の元に駆けつける。
時乃「切籠…!!陽菜…!!」
悲鳴に近い声で2人の名を呼ぶ時乃。
駆け寄ってきた時乃は悲痛な面持ちで陽菜の頭を撫でる。
時乃「すまない…!!!もっと早く助けに来れたら…!!」
切籠「いいんだ。でも…もう…」
切籠は陽菜の方に目をやる。時乃も陽菜の方に目を向けた。
時乃は陽菜が亡くなっている事を知り愕然とする。
時乃「遅過ぎた…!!何もかも…」
切籠「……俺はもう助からない。このまま陽菜の元に行かせてくれないか?彼女がいないこの世を生きるなんて俺には耐えられない」
時乃「切籠…!!」
死を受け入れている切籠を憐れむ時乃。
時乃は少し考えた後、決意を固め切籠と冷たくなった陽菜に手をかざす。
時乃(だめだ。人間と神と妖を繋いでくれたお前達をこんな形で失わせてたまるか!!!!)
残っている全ての力を使い2人を転生させる能力を施す。
時乃の身体から暖かな朱色の光が瞬き始める。
切籠「時乃…?」
時乃「私の輪廻の鎖をお前達に託す!!もう一度お前達が出会えるように…!!」
切籠「よせ!!そんなことしたら…!!」
身体が消え始める時乃は優しく微笑む。
時乃「氷狼神と火の巫女はお互いなくてはならない存在。ここで途絶えさすわけにはいかない。だからお前達を転生させる。今度こそふたりの力で憎しみ合わない世界にしてくれ。人間と神と妖に永遠の平穏が訪れるように…」
切籠「っ…!!すまない…時乃…!!」
涙を流す切籠に時乃は微笑む。その笑みと自身の末路に後悔はない。
時乃「なに…少しばかり眠りにつくだけさ」
朱色の光は3人を優しく包み込む。殺伐とした戦場は火神の最期の力により光に飲み込まれていった。
◯ 火神が消えた数百年後の火鷹村の辻邑家の屋敷
の蔵の中
とっくに平和を取り戻し火神の伝説が語り継がれた村に建てられた大きな屋敷。
そこに住む主人の女房の怒鳴り声が響き渡る。
娘の奈々は理不尽に叱られ頰に張り手を喰らい顔を赤く腫らす。
母「この愚図!!また私の可愛い瑠璃子を泣かせたね!!!」
奈々「うぅ…!!ち、違います、私は何も…!!」
母「アンタが瑠璃奈の大事な髪飾りを盗んだじゃない!!」
奈々「私は何もしてない…!!」
母親の隣には奈々の双子の妹の瑠璃奈が涙を流していた。
実は瑠璃奈がわざと仕掛けたことで、髪飾りを奈々の部屋に置いて盗まれたと嘘を吹き込んでいた。
彼女の虚言を信じて母親は奈々の意見を聞かず彼女を叱りつける。
母「何も持たずに生まれただけじゃなくて盗みも働くなんて!本当家の恥だよ!!アンタは!!」
瑠璃奈「お母様。もうそれぐらいにしてあげて。ちゃんと私の髪飾りは戻ってきたのだから」
母「でも…貴女を悲しませたのよ?」
瑠璃奈「いいの。きっと珍しかったのよ。お姉様はこんなに美しい物を貰ったことないのだから」
瑠璃奈は奈々に近付き、そっと腫れた頰に触れ黒い笑顔を浮かべる。
瑠璃奈「異能を持って生まれてくればよかったのに。本当に可哀想なお姉様」
頰に触れていた手を奈々の肩に滑るように移り、瑠璃奈の異能である電撃を喰らわす。
激しい痛みが全身を襲い奈々は悲鳴を上げる。
瑠璃奈「キャハハハ!!情けないお姉様!!ちょっと遊んであげただけなのにきゃーなんて♪」
母「本当ね。フフ」
ボロボロの奈々は痛み蝕まれながら涙を流す。
奈々(どうして。どうして私だけ…)
母は奈々の髪を鷲掴む。
母「二度とこんなことするんじゃないよ?また瑠璃奈を泣かせるようなことをしたら今度こそアンタをここから追い出すからね」
奈々「は…い…お母様…」
瑠璃奈「お母様ぁ。それより早く新しいお着物を見に行きましょうよ?静流様にみっともないところなんて見せられないわ」
母「そうね。早くいきましょ。瑠璃奈ならなんでも似合うわ♪」
母は奈々の髪を乱暴に放し、瑠璃奈と共に奈々を置いて立ち去る。
奈々モノ『ここは火鷹村。火神が人間と妖の争いを鎮めたという伝説が残る村。この屋敷はその火神に異能を授かった一族。ここで生まれた者は異能を受け継ぐ筈なのだが私は何も受け継がれることなく生まれた』
⭐︎奈々の回想
異能を持たない奈々を蔑み、異能を持って生まれた妹の瑠璃奈を溺愛する両親の姿。
奈々モノ『無能の私は両親から我が子だと認められなかった。女中以下の扱いをし愛してくれたことなんてない。頭を撫でられ、欲しい物はなんでも与えられ、愛される瑠璃奈が羨ましかった』
両親に怒鳴られる様子と瑠璃奈が嘲笑う姿。
奈々モノ『私も異能を持って生まれたかった。愛されたかった。でも、もう無理だというのは分かってる。逃げたい時もある。でも、何も持たない私に行く宛なんてない。ここで生きるしかないのだ』
⭐︎回想終わり。
奈々は痛む身体に鞭を打ち仕事に戻る。
奈々(瑠璃奈の言う通り本当に情けない。逃げたいのに逃げる勇気もない。何も言い返せない自分に)
窓から見える青空を見て外の世界に思いを馳せる。
すると、背後から辻邑家の当主で奈々達の父親が話しかけてくる。
ニヤニヤしながら父親も同様で奈々を蔑む。
父「ふん。相変わらず情けない姿だな。瑠璃奈と大違いだ」
奈々「お父様…」
父「まぁいい。お前に用がある。夕飯の後、俺の部屋にちょっと来い。瑠璃奈も一緒だ」
奈々(きっと良い話ではないわね。でも、瑠璃奈も一緒ってどうゆうことかしら)
奈々は逆らうことなく不安げに父親に従う。きっと碌でもないことだろうと奈々は予想はしている。
日が暮れて夜になる。
◯夜。辻邑家の奈々の父親の部屋。
父親と母親の目の前に奈々と瑠璃奈が並んで正座している。奈々は少し不安げで瑠璃奈はめんどくさそうだった。
父「集まってもらったのは他でもない。瑠璃奈に静流様から縁談がきた。まぁ、これは必然でもあるがな」
瑠璃奈「まあ!!やっと来たのね!!これで私も雷神の花嫁になれるのね!!」
雷を操る金髪の男の姿。
奈々モノ「静流様とは人と妖を守る神の一人である雷神。雷を司る彼が同じ異能を持つ瑠璃奈を妻として選ぶのは必然だろう」
奈々は心の中でため息をつく。
奈々(瑠璃奈が雷神の元に嫁いでも私の生活はどうせ変わらない)
父「だが、ここで一つ問題が起きた」
母「なんですの?その問題とは?」
父「瑠璃奈を花嫁にする代わりに、火神から異能を継いだ一族の血を持つ者を一人、氷狼神の生贄に捧げよとお達しがきた」
奈々(……それって…)
父「雷神様の願いは立派な異能の一族から無能を排除しろと言うことだ」
父親はニヤリと笑う。
父「奈々。可愛い妹の幸せと村の平和の為に死んでくれないか?」
父から死刑宣告を告げられた奈々の姿。
人と妖があるきっかけで憎しみ合い、激しく争った後の荒れ果てた村。周りには人と妖の死体が転がっており、霧が立ち込めている。
その中に氷狼神・切籠(きりこ)が番である火の巫女・陽菜の亡骸と共に倒れている。
切籠「陽菜…」
陽菜の胸に深い傷口から血が滲んで着ていた白い巫女装束が赤く染まっている。切籠も力を使い果たし命の灯火が消えかけていた。
切籠(大丈夫だ。陽菜。俺ももうすぐお前の元に行く…)
冷たくなった陽菜の目から涙が落ちる。
⭐︎切籠の過去回想
陽菜「切籠様は私(わたくし)が守ります。それが火の巫女として、そして、氷狼神の妻としての役目ですから…」
陽菜は優しく微笑み運命を受け入れている。切籠は愛おしそうに彼女の頬に触れる。
だが、その途端現実に引き戻される。
⭐︎現在に戻る
切籠はそっと冷たくなった陽菜の頬に触れる。
もう思い残すことはないとゆっくりと目を閉じようとした時に2人を探していた火神・時乃が現れ、切籠と陽菜の元に駆けつける。
時乃「切籠…!!陽菜…!!」
悲鳴に近い声で2人の名を呼ぶ時乃。
駆け寄ってきた時乃は悲痛な面持ちで陽菜の頭を撫でる。
時乃「すまない…!!!もっと早く助けに来れたら…!!」
切籠「いいんだ。でも…もう…」
切籠は陽菜の方に目をやる。時乃も陽菜の方に目を向けた。
時乃は陽菜が亡くなっている事を知り愕然とする。
時乃「遅過ぎた…!!何もかも…」
切籠「……俺はもう助からない。このまま陽菜の元に行かせてくれないか?彼女がいないこの世を生きるなんて俺には耐えられない」
時乃「切籠…!!」
死を受け入れている切籠を憐れむ時乃。
時乃は少し考えた後、決意を固め切籠と冷たくなった陽菜に手をかざす。
時乃(だめだ。人間と神と妖を繋いでくれたお前達をこんな形で失わせてたまるか!!!!)
残っている全ての力を使い2人を転生させる能力を施す。
時乃の身体から暖かな朱色の光が瞬き始める。
切籠「時乃…?」
時乃「私の輪廻の鎖をお前達に託す!!もう一度お前達が出会えるように…!!」
切籠「よせ!!そんなことしたら…!!」
身体が消え始める時乃は優しく微笑む。
時乃「氷狼神と火の巫女はお互いなくてはならない存在。ここで途絶えさすわけにはいかない。だからお前達を転生させる。今度こそふたりの力で憎しみ合わない世界にしてくれ。人間と神と妖に永遠の平穏が訪れるように…」
切籠「っ…!!すまない…時乃…!!」
涙を流す切籠に時乃は微笑む。その笑みと自身の末路に後悔はない。
時乃「なに…少しばかり眠りにつくだけさ」
朱色の光は3人を優しく包み込む。殺伐とした戦場は火神の最期の力により光に飲み込まれていった。
◯ 火神が消えた数百年後の火鷹村の辻邑家の屋敷
の蔵の中
とっくに平和を取り戻し火神の伝説が語り継がれた村に建てられた大きな屋敷。
そこに住む主人の女房の怒鳴り声が響き渡る。
娘の奈々は理不尽に叱られ頰に張り手を喰らい顔を赤く腫らす。
母「この愚図!!また私の可愛い瑠璃子を泣かせたね!!!」
奈々「うぅ…!!ち、違います、私は何も…!!」
母「アンタが瑠璃奈の大事な髪飾りを盗んだじゃない!!」
奈々「私は何もしてない…!!」
母親の隣には奈々の双子の妹の瑠璃奈が涙を流していた。
実は瑠璃奈がわざと仕掛けたことで、髪飾りを奈々の部屋に置いて盗まれたと嘘を吹き込んでいた。
彼女の虚言を信じて母親は奈々の意見を聞かず彼女を叱りつける。
母「何も持たずに生まれただけじゃなくて盗みも働くなんて!本当家の恥だよ!!アンタは!!」
瑠璃奈「お母様。もうそれぐらいにしてあげて。ちゃんと私の髪飾りは戻ってきたのだから」
母「でも…貴女を悲しませたのよ?」
瑠璃奈「いいの。きっと珍しかったのよ。お姉様はこんなに美しい物を貰ったことないのだから」
瑠璃奈は奈々に近付き、そっと腫れた頰に触れ黒い笑顔を浮かべる。
瑠璃奈「異能を持って生まれてくればよかったのに。本当に可哀想なお姉様」
頰に触れていた手を奈々の肩に滑るように移り、瑠璃奈の異能である電撃を喰らわす。
激しい痛みが全身を襲い奈々は悲鳴を上げる。
瑠璃奈「キャハハハ!!情けないお姉様!!ちょっと遊んであげただけなのにきゃーなんて♪」
母「本当ね。フフ」
ボロボロの奈々は痛み蝕まれながら涙を流す。
奈々(どうして。どうして私だけ…)
母は奈々の髪を鷲掴む。
母「二度とこんなことするんじゃないよ?また瑠璃奈を泣かせるようなことをしたら今度こそアンタをここから追い出すからね」
奈々「は…い…お母様…」
瑠璃奈「お母様ぁ。それより早く新しいお着物を見に行きましょうよ?静流様にみっともないところなんて見せられないわ」
母「そうね。早くいきましょ。瑠璃奈ならなんでも似合うわ♪」
母は奈々の髪を乱暴に放し、瑠璃奈と共に奈々を置いて立ち去る。
奈々モノ『ここは火鷹村。火神が人間と妖の争いを鎮めたという伝説が残る村。この屋敷はその火神に異能を授かった一族。ここで生まれた者は異能を受け継ぐ筈なのだが私は何も受け継がれることなく生まれた』
⭐︎奈々の回想
異能を持たない奈々を蔑み、異能を持って生まれた妹の瑠璃奈を溺愛する両親の姿。
奈々モノ『無能の私は両親から我が子だと認められなかった。女中以下の扱いをし愛してくれたことなんてない。頭を撫でられ、欲しい物はなんでも与えられ、愛される瑠璃奈が羨ましかった』
両親に怒鳴られる様子と瑠璃奈が嘲笑う姿。
奈々モノ『私も異能を持って生まれたかった。愛されたかった。でも、もう無理だというのは分かってる。逃げたい時もある。でも、何も持たない私に行く宛なんてない。ここで生きるしかないのだ』
⭐︎回想終わり。
奈々は痛む身体に鞭を打ち仕事に戻る。
奈々(瑠璃奈の言う通り本当に情けない。逃げたいのに逃げる勇気もない。何も言い返せない自分に)
窓から見える青空を見て外の世界に思いを馳せる。
すると、背後から辻邑家の当主で奈々達の父親が話しかけてくる。
ニヤニヤしながら父親も同様で奈々を蔑む。
父「ふん。相変わらず情けない姿だな。瑠璃奈と大違いだ」
奈々「お父様…」
父「まぁいい。お前に用がある。夕飯の後、俺の部屋にちょっと来い。瑠璃奈も一緒だ」
奈々(きっと良い話ではないわね。でも、瑠璃奈も一緒ってどうゆうことかしら)
奈々は逆らうことなく不安げに父親に従う。きっと碌でもないことだろうと奈々は予想はしている。
日が暮れて夜になる。
◯夜。辻邑家の奈々の父親の部屋。
父親と母親の目の前に奈々と瑠璃奈が並んで正座している。奈々は少し不安げで瑠璃奈はめんどくさそうだった。
父「集まってもらったのは他でもない。瑠璃奈に静流様から縁談がきた。まぁ、これは必然でもあるがな」
瑠璃奈「まあ!!やっと来たのね!!これで私も雷神の花嫁になれるのね!!」
雷を操る金髪の男の姿。
奈々モノ「静流様とは人と妖を守る神の一人である雷神。雷を司る彼が同じ異能を持つ瑠璃奈を妻として選ぶのは必然だろう」
奈々は心の中でため息をつく。
奈々(瑠璃奈が雷神の元に嫁いでも私の生活はどうせ変わらない)
父「だが、ここで一つ問題が起きた」
母「なんですの?その問題とは?」
父「瑠璃奈を花嫁にする代わりに、火神から異能を継いだ一族の血を持つ者を一人、氷狼神の生贄に捧げよとお達しがきた」
奈々(……それって…)
父「雷神様の願いは立派な異能の一族から無能を排除しろと言うことだ」
父親はニヤリと笑う。
父「奈々。可愛い妹の幸せと村の平和の為に死んでくれないか?」
父から死刑宣告を告げられた奈々の姿。



