嘘告と二股と妹と。

 ハルの嘘告の成功から西之原義孝くんとはラブラブだった。

 一方、聡とハルは未だに知人以上、友人以下(親しいけど学校外では会えない間柄)の関係を維持していた。

 今、聡は失恋を乗り越えようとしていた。しかしハルの顔が徐々に暗くなってきた。挙動不審も加わった。それで聡は心配する。そろそろ嘘告お別れ期限じゃないかと。ただただ願うのはハルの幸せだった。特に寝取られ属性の扉を開けたわけではない。

 余りにも様子がおかしいハルに対し、心配性になった聡は声を掛ける。

「ハルちゃん、元気ないよね最近。大丈夫かい?」

「ううん、ダメみたい。ぐすん、ぐすん」

 声を掛けたタイミングで(すすり)り泣きが始まってしまった。

「話を聞くよハルちゃん。誰かに聞いてもらうと気持ちが楽になると聞いたことがあるから。今の気持ちを話してごらんよ」

「ありがとう。優しいのね聡くん。一緒に帰ろ。駅まで歩きながら聞いて欲しい」

「ああ……聞くよ」

(僕の初放課後デートがコレか……嬉しいけど)

 聡はハルの話を聞いた。的確に相槌を打ち同意しながら。ハルは義孝と付き合い始めてから幸せだった。我が世の春を謳歌するかの如く。

 なぜならハルは、入学式の登校時に道に迷ってしまって困っていた折、義孝がハルに「じゃ学校まで案内するよ、一緒に行こう」と幼馴染の女の子(むらこしみずは)と一緒に丁寧に応対したことがあったからだ。

 また他校の男子生徒たちがナンパでハルを囲んでいた際、ハルを救ったのも義孝であった。ハルの不安を除きながら優しく介抱し、名も名乗らずにさっと笑顔で「気をつけてな」と去っていった。まるで白馬の王子様だったという。

 どうやら聡がハルを好きになるよりもずっと前から、ハルは義孝に惚れてしまっており、嘘告でさえも付き合いが出来た奇蹟と思って喜んでいた。聡が見る幸せオーラより、実際はもっと凄い幸せを噛み締めていたのである。

 それゆえ嘘告白の条件、迫りくる「私の告白は嘘告だった」という白状の日が来る事にハルは怯えていた。表情が暗くなっていた。挙動不審に陥るまでに。

 駅のローターリーまで来た。聡はもう少しハルと一緒に居たかった。そこでカフェか本屋か寄ろうよと提案した。本屋に行くことになった。

「ねぇ、ハルちゃん、嘘告の話、僕は賛成できないな。早く彼に知らせて謝らないと大変なことになるよ。隣のクラスの西之原君は悪い男子じゃない。許してくれる筈だよ。ハルちゃんだって罰ゲームでさせられたんだし、悪意がそんなにないことも判ってもらえるはず」

「うん、それは分かってる聡くん。でも……でも……わたしね……」

 急に本棚に手をついた誰かのはずみで商品の本がバサバサと落ち、音が盛大に鳴った。驚いたハルと僕。なぜかハルちゃんが目を開いて本棚から本を落とした男子生徒をみていた。僕はオロオロとしていた。

 ハルちゃんは唖然として座り込み、俯いて泣き始めた。僕はハルちゃんの背中に触れてさすり、慰めた。

「サトシ君もごめんね、巻き込んでごめんなさい、ごめんね、ごめんね……」

(あの同じ制服の男子生徒、隣のクラスの西之原君に似ていた。まさか僕たちの会話を聞かれていたのか!?)

 ★★★★★

 ハルside

 嘘告という事が義孝君にバレてしまった。
 本屋さんの場で私は涙が止まらず、泣き崩れ、嗚咽が止まらなかった。

 家に辿り着いてからも涙は止まらず酷かった。

 私の泣きわめく声がご近所さんに聞こえて迷惑にならないよう、ずっと声を押し殺しながら泣いた。枕やベッドのシーツが濡れるのも気にならなかった。そして力が抜けたように動けなかった。

 嘘告だと彼が知ったらどうなるのか分かっていた筈なのに、そんな甘かった自分にも悲しみがこみ上げる。彼は優しいから許してもらえるなどとは思ってはいなかったけど、期待していた部分はあったと思う。でも……

 ずっと、ずっと彼に対して真剣だったのに……こんな事になるなんて。
 ()()()()()()彼に一途だったのに、嬉しくて幸せで、これからも幸せに感じていたくて……

 ★★★★★

 あれからハルちゃんは毎日、隣の教室前の廊下に立って窓を通して西之原君を見ている。彼が出てきたら駆け寄って謝っている。まだ許されていないようだ。

 嘘告は辛い結果を招くことがある。くれぐれも本気の相手に対してやってはならない。

 聡
「ねぇハルちゃん、キスしたことってある?」

 (ハル)
「えっ!? 何、わたし? ええ、なんで、どうしてそんなこと聞くの?」

 聡
「いや僕も早くキスしたいなぁって思ってさ」

 華
「そんな……聞かないでよ、バカっ」

 真っ赤になってモジモジするハルちゃん、やっぱり君は可愛いよ。はぁ、どうして西之原君はこんな素敵な娘を許してあげないんだろう? 酷いよ。僕だったら直ぐに許して付き合いなおすのに。ハルちゃんのファーストキスを奪ったくせに!

 聡
「ああ、誰か嘘告してくれないかなぁ……」


 ふと顔を上げると、教室の窓から見える空の境界線が夕暮れに染まり始めていた。僕がこの高校に通い始めて二年間ずっと見続けていた光景だ。僕が失恋しようとしまいと世界はいつも美しく変わらぬ姿で続いている。

 僕の恋心も夕暮れ時の橙色の景色と同じ、いつまでも変わらないだろう。いつかきっとハルちゃんと結ばれてやると強く望むサトシであった。