嘘告と二股と妹と。

「おっはよ~」

 ハルちゃんが教室に来て皆に挨拶をしている。明るい。表情が豊かで幸せそうなオーラを振りまいている。

「おはよう、ハルちゃん、今朝は元気だね?」

「聡君、だってね、ふふふ、いえ、秘密。秘密だよ~」

「ええ……えええ……」

 嘘告だよね? どうしてそんなに嬉しそうなの? 聡はそれから昼休みまで放心状態に陥っていた。動きがあったのはお昼休みだ。ハルちゃんの友達が席に近寄ってきてハルちゃんに声を掛けた。

「ハル~~~、西之原義孝(よしたか)君と放課後、どっか行くの? 詳しく聞きたいんだけど」

★仲のいい兄妹 ↓ 西之原義孝と妹の由愛(ゆあい)


「えー、なに、やめてよ~」

 すっごい可愛い顔でハルちゃんは応えている。

 なんだと! 嘘告の相手は西之原義孝くんだと! 隣のクラスの男子だ。口は悪いが、なかなかいいヤツという噂だ。これはマズい。どこにハルちゃんと接点があったんだ、どうして彼に嘘告したんだ、ハルちゃん、どうして僕じゃなかったんだ!

 それからというもの、ハルちゃんは心ここにあらずといった感じで幸せそうに頬を染め、毎日、嬉しそうに過ごしていた。

「ハルちゃん、何か好い事でもあった? 幸せそうな顔をしているよ」

 カマをかける僕。

「え、幸せそうに見える? 聡君、嬉しいこと言ってくれちゃって、もう」

 ニッコニコである。地味にダメージを喰らった聡は、ハルに対する片想いの気持ちが暴走し始めつつあった。

 僕が先に好きだったのに! 嘘告でぽっと出の西之原君にハルちゃんは渡さない、渡したくないっ!

 ◇

 自宅での夕食時。父・母・妹と四人が揃っていた。

「あら、聡、どうしたの暗い顔しちゃって。失恋したみたいじゃない」

「う、うん……」

「失恋なら私の知り合いの娘に村越瑞葉(むらこしみずは)ちゃんって娘がいるから紹介しようか? とても可愛くて優しいらしいわよ。他に由愛(ゆあい)ちゃんって可愛い子もいるわ。聡の一つ下の」

「いや、知らない子とはいいよ。やっぱり知り合ってから友達になって、親しくなってからの恋が、僕はしたいな」

 その時、居間にあるTVから女の子グループのドラマの話が流れた。

「あらあら、あの子、今度私の娘役よ。現場で可愛くって。あの子、お勧めね。どう? 聡」

「だからさ、母さん、初めての子は……って、何、え、あの子ってアイドルじゃん、いいの? ねえ良いの? 母さん、だったら是非……」

「お兄ちゃん、サイテー!!」

 的確なツッコミが妹の由衣(ゆい)から入るのであった。

 ◇

 さて、準備は整った。今日は土曜日。昨日、ハルちゃんが昼休みに僕に自慢しながら言った件で僕はとうとう決起した。

「私ね、今度、遊園地に行くんだ。いいでしょ。むふーっ」

 嘘告なんかで幸せにはなれないよハルちゃん。きっと。僕じゃないと。

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 リュックに食料と水筒、変装用のメガネ、帽子、マスク、何かあった場合に備えてカメラ(スマホ)を収納し準備万端に整えた。おっと財布は忘れちゃダメだ。ぼくは今日の大切なミッションを無事にこなさなければならない。成功に導くのは必須だ。

 朝早くから遊園地の出入り口に陣取り、ゆっくりと出入りのお客さんたちを眺める。家族、幸せそうなカップル、友人同士の女の子、楽しそうだ。なぜかゴツイ男子学生のグループ……。

「ハルちゃん、西之原君と一緒に来るのかなぁ。もしかして家族と来るのだったら少しはホッとできるんだけど。遊園地ってさ、手を繋いだりして移動、お昼ご飯はお箸で幻のアーン、互いのストローで飲みあっこ。付き合いたてのフレッシュなカップルにとっては、非常に関係が近くなる大イベントだよね」

「ハルちゃんが嫌がってそうならすぐにでも介入するよ、僕はヒーローのように彼女を守るんだ! いずれにしてもカレと一緒ではなく、家族や友達と一緒だったらいいな」

 激しく空回りする聡だった。

「あ、来た! うう、ハルちゃんと西之原君だ。望みは消えた。でもハルちゃん、嫌がってないかな?」

 ハルは寧ろ腕を組みたいとか恋人つなぎをしたいかのように近い距離で一緒に歩いていた。義孝(西之原)の方が近すぎて嫌がっているようにも見える。

「これでは僕が介入したら、僕の方が悪者だな。後をつけよう」

 ヒーローどころかお邪魔虫、悪者というか見事にストーカー化していることには残念ながら彼は気づいていなかった。

 ◇

 時は流れ、若干、涼しい夕方になってきた。これまでにハルちゃんは恋人つなぎがあった。腕を組むこともあった。幻のアーンもあった。聡は敗北者になりかけていた。

 そして二人は大観覧車へ仲良く向かった。

「とうとう来たか。帽子、メガネ、マスクの出番が」

 アメリカの捜査官のごとく気合の入った聡は大観覧車に続く。可能であれば直後のケージに乗りたい。なぜなら大観覧車では頂点位置が最も危険なイベントのタイミングだからである。見届けたい。二人が相思相愛だなんて信じられない。嘘コクなのに。僕の方が先に好きだったのに!

 上手い具合に彼らに見つからず直後のケージに乗ることが出来た。

「ハルちゃん……まさかキスなんてしないよね、断るよね、僕は信じてるよ、神様お願いします、彼女の唇をお守りください」

 スタートしてからチラチラと前のケージ内の二人を見る。二人っきりになったら直ぐニコニコした幸せそうなハルちゃんが西之原君に話しかけている。何を言っているのかは分からないが、幸せな笑顔が内容を表していた。ボディタッチも多いぞ。

 まるで片想いを処刑するように聡の眼には接近する二人が映った。ハルちゃんの頭を撫でる西之原君。ハルちゃんはニコニコしながら「もう~」っていう仕草をしている。そして西之原君の手がほっぺたに移動してスリスリ触り始めた。

「や、やめろぉ~~~~っ、やめてくれぇぇぇ」

 ハルちゃんが顔を真っ赤にして西之原君の指を噛む。甘噛みでニコニコだ。

「あ~~~、ハルっ、ハルちゃん……嫌がってくれ……キスだけは断ってくれ」

 大観覧車の籠がいよいよ頂点に迫る。西之原君が手でハルちゃんの顎に触れる。

「あ、アゴクイだ、顎クイ、ああ、ダメだ、危険だよハルちゃん!」

「あ~~~~~っ!!!」

「ハルちゃんにそんなことまでして、に、西之原君は、君は彼女をちゃんと責任を取ってハルちゃんを幸せにしてくれるんだよなっ? 今ならストップしてもいいよ、間に合うよ、やめてくれ、頼む、やめて……」

 いよいよ興も頂点だ。西之原君がハルちゃんの顎クイをして上向かせ、顔を近づける。

「や、やめろぉぉぉ~~~っ! やめてくれ~~~~~!」

「ハルちゃんの唇を奪わないでくれぇぇ~~~ほんとは僕がぁぁぁ」

 そして、ハルちゃんの背中に手を回した西之原君は、ハルちゃんの尊く美しい唇を奪った。奪ってしまった。ぎゅっと僕の愛しいハルちゃんを抱き締めている。今、僕からはハルちゃんの後頭部しか見えない。

「これじゃ、BSSというよりもNTRみたいなものじゃないか! 止めてくれ、本当に止めてくれ。僕の大切なハルちゃんを、ハルちゃんを早く解放してくれ。こんなの耐えられない。もう止めて……」

 聡にとって長い、長い地獄だった。

「まさか舌を入れるような恋人キスをしているんじゃないだろうね、恋人同士がするディープな甘いキス、そんなの耐えられないよ、ハルちゃん、ぼくのハルちゃんが……」

 こんなことを言っているが、別に聡とハルは付き合ってはいない。学校以外では会ったこともない。ゆえにNTRでもないわけだが、聡には思春期ゆえそのNTR気分を存分に味わってしまった。長い間の片想いを拗らせ、妄想で脳内恋人同士になっていたからだった。

 いわゆる思春期の恐るべき大失恋というヤツである。