自宅の部屋のベットで寝転んで、ハルちゃんのことを色々と考えていた。思春期の時間は濃い。一か月もの間、毎晩ハルちゃんのことを考えていたのだから、損失感も半端ではない。
俺の心にぽっかりと穴が開くなんてレベルではなく、体中からエネルギーが抜けていく感じで、救いようのない虚無の感覚が全身を襲っていた。
小林は、嘘告の時点から何も教えてなかったせいで、俺が「片想いした女の子が彼氏を作った」程度で察していた。
「片想いを潔く諦めろ、そもそもお前の周りには美女が多いんだから、贅沢し過ぎで一回死んで来い」という優しいお言葉だけだった。
もう二度と俺に向けられないであろうハルちゃんの笑顔を思い出し、また、二度と出来ないであろう彼女とのキスを思い出し、黄昏に拍車をかけていた。
「キスから先に進みたかったな……」
頭の中では、未だ仲良しだった頃のハルちゃんが微笑みを向けてくれるし、キスした後の俯き恥ずかしがる彼女を思えば、枕をぎゅっと抱き締めて悶々としていた。
ピンポーン
今、家には俺以外いないので、玄関に降りて扉を開けた。外には幼馴染の瑞葉がいて、ほっぺが膨らんで拗ねていた。
彼女を自分の部屋に連れていき、お茶を出して「よく来たね」と歓迎する。
瑞葉 ↓

「ねぇ、義孝君、どういうことなの?」
「えっ、何が?」
「ハルちゃん」
「ええっ」
「隣のクラスの稲垣華さんことハルちゃん」
「彼女とは……なんでもないよ」
「毎週、毎週、私とのデートをなくして、ハルちゃんと会ってたでしょ? 会うを逢うにした方が好いかしら?」
「み、瑞葉さん、いったい何のことでしょうか?」
最早、具体的な話をされているのに、どもってしまって会話が出来ない。俺、絶体絶命のピンチ?
「義孝君、はぁ……、ハルちゃんが毎日休み時間にうちのクラスの廊下に立って貴方を見つめていれば分かるわよ。貴方のことが大好きだって」
「いや、そうか。正直に話す方が好いな。瑞葉、もう二度と週末に、ハルちゃん、彼女と出かけることはない。実はな、彼女から嘘告されていたんだよ俺」
「何ソレ」
「いやさ、一か月ちょっと前に彼女からラブレター貰ってさ。校舎裏で告白されたんだよ。好きです、付き合ってくださいってさ」
「ふんふん、それで、続けて」
「それが嘘告と分かって、彼女は俺の事なんて好きでも何でもなかったんだ。それがショックでさ、寝込んでた。だから彼女とは今後、出かけることもないよ」
「そうなの?」
「うん、そう」
【瑞葉と由愛が嘘告を斬る】
瑞葉は続ける。
「嘘告かぁ、それは義孝君、災難だったね」
「涙が止まらないぞ、悲しすぎて」
「うちのクラスでも少し流行ってたなぁ。何人かは実際にやってしまって、後悔やら喜びやらの悲哀が駆け巡っていたわ」
「へぇ、うちのクラスでも被害者っていたんだ。怖いな」
「私も嘘告しなよって言われたことあるよ。当然、彼氏いるんだからやれるわけないって断ったし」
「瑞葉が告白したら、みんながOKしちゃうから、被害者でまくりだな。やらずに済んで良かった。彼氏だって、そんな彼女いやだし、心配するし、嘘告したら一週間か一か月か仮でも付き合うんだろ、彼氏だってヒヤヒヤで不安で。よくそんな遊び思いつくよな。クラスの連中もさ」
「私だって彼氏を心配させるだなんてしたくないわよ。嘘告してる子は皆、彼氏や彼女がいないからね」
「お前はいいヤツだなぁ。さすが学校で一番の可愛い美女って言われてるだけはあるな」
「フフ、ありがと。嬉しいよ、義孝君」
「どういたしまして。瑞葉」
「ねぇ、義孝君、なんだか会話がズレてるんだけど、変じゃない?」
「えっ、変か?」
「……」
「家に帰るわ。じゃ、また明日。おやすみ」
部屋を出ていく際、瑞葉は振り返り、俺を見て言葉を残した。
「私の彼氏は、いえ、大切な恋人は義孝君、貴方よ。あ・な・た。忘れてない? 中学から恋人四年目なんだけど」
俺
「……」

実は義孝と瑞葉は恋人同士であった。
★★★★★
コンコン
「お兄ちゃん、いる?」
「ああ、いるよ、入って」
「瑞葉ねえちゃん、泣いていたよ。喧嘩でもしたの?」
「由愛、恋愛って理不尽だよな。思うようには決していかない。コントロールしようなどとは、おこがましい程だ」
「混乱して意味不明だよ、お兄ちゃん」
「由愛は嘘告ってしたことあるか?」
「あるわけないじゃん。好きな人いるのに」
「そうだよな」
「どうしたの?」
「お兄ちゃんな、嘘告されちゃったんだよ。瑞葉はそれで怒っちゃって」
「彼氏が馬鹿にされたら怒るわよ。私だってお兄ちゃんバカにされて今聞いた瞬間に怒ってるもん」
「瑞葉が言ってたけど、嘘告って本当に好きじゃないと出来ないから、俺が受けた嘘告も本気だったのかなぁ。どう思う?」
「女の子に好きな人がいる時は、嘘告はやれと言われても全員が断るよ。恋愛経験の少ない程、純真無垢だから嘘告はしないの。だって、そんな勇気があるなら、好きな人に告白したいじゃん?」
「私だったら嘘告を断れない状況に陥ったのなら、嘘告と称して好きな人に告白するよ」
そうか……
この由愛の話だと、ハルちゃんは経験豊富とは言えないから、実は嘘告と偽って、本当の好きという気持ちを告白をしてくれたのかも、……しれないのか。
ハルちゃんの謝罪の時、続きをいつも聞かずにその場を離れたな。最後まで聞くのが怖かったんだが、今度、機会があったら聞こう。
もし本当に俺のことが好きなんだったら、また考えたいな。だって、キス一回してサヨナラじゃ、寂しいもんな。
特に彼女はファーストキスって言ってたし、言動もそれを示してたし。もっと先に進めるかもしれないしな。
「お兄ちゃん、瑞葉ねえちゃんが彼女だという事、忘れてない? それは瑞葉ねえちゃんが泣いちゃうよ」
なぜ俺の考えてることが分かった?
「好きな人のことは何でも分かるんですぅ~」
「うむ、いずれにせよ由愛には大切なことを教えてもらった。ありがとな、凄く助かった。さすが我が妹だ。感謝する」
俺はキスより先に進みたいというチャンスを逃さない気持ちだけがメインに膨れ上がっていた。正直、瑞葉や由愛には聞かせられない性欲優先男が頭をもたげ始めていただけという……。
うむ、格好つけながら誠に恥ずかしい。
俺の心にぽっかりと穴が開くなんてレベルではなく、体中からエネルギーが抜けていく感じで、救いようのない虚無の感覚が全身を襲っていた。
小林は、嘘告の時点から何も教えてなかったせいで、俺が「片想いした女の子が彼氏を作った」程度で察していた。
「片想いを潔く諦めろ、そもそもお前の周りには美女が多いんだから、贅沢し過ぎで一回死んで来い」という優しいお言葉だけだった。
もう二度と俺に向けられないであろうハルちゃんの笑顔を思い出し、また、二度と出来ないであろう彼女とのキスを思い出し、黄昏に拍車をかけていた。
「キスから先に進みたかったな……」
頭の中では、未だ仲良しだった頃のハルちゃんが微笑みを向けてくれるし、キスした後の俯き恥ずかしがる彼女を思えば、枕をぎゅっと抱き締めて悶々としていた。
ピンポーン
今、家には俺以外いないので、玄関に降りて扉を開けた。外には幼馴染の瑞葉がいて、ほっぺが膨らんで拗ねていた。
彼女を自分の部屋に連れていき、お茶を出して「よく来たね」と歓迎する。
瑞葉 ↓

「ねぇ、義孝君、どういうことなの?」
「えっ、何が?」
「ハルちゃん」
「ええっ」
「隣のクラスの稲垣華さんことハルちゃん」
「彼女とは……なんでもないよ」
「毎週、毎週、私とのデートをなくして、ハルちゃんと会ってたでしょ? 会うを逢うにした方が好いかしら?」
「み、瑞葉さん、いったい何のことでしょうか?」
最早、具体的な話をされているのに、どもってしまって会話が出来ない。俺、絶体絶命のピンチ?
「義孝君、はぁ……、ハルちゃんが毎日休み時間にうちのクラスの廊下に立って貴方を見つめていれば分かるわよ。貴方のことが大好きだって」
「いや、そうか。正直に話す方が好いな。瑞葉、もう二度と週末に、ハルちゃん、彼女と出かけることはない。実はな、彼女から嘘告されていたんだよ俺」
「何ソレ」
「いやさ、一か月ちょっと前に彼女からラブレター貰ってさ。校舎裏で告白されたんだよ。好きです、付き合ってくださいってさ」
「ふんふん、それで、続けて」
「それが嘘告と分かって、彼女は俺の事なんて好きでも何でもなかったんだ。それがショックでさ、寝込んでた。だから彼女とは今後、出かけることもないよ」
「そうなの?」
「うん、そう」
【瑞葉と由愛が嘘告を斬る】
瑞葉は続ける。
「嘘告かぁ、それは義孝君、災難だったね」
「涙が止まらないぞ、悲しすぎて」
「うちのクラスでも少し流行ってたなぁ。何人かは実際にやってしまって、後悔やら喜びやらの悲哀が駆け巡っていたわ」
「へぇ、うちのクラスでも被害者っていたんだ。怖いな」
「私も嘘告しなよって言われたことあるよ。当然、彼氏いるんだからやれるわけないって断ったし」
「瑞葉が告白したら、みんながOKしちゃうから、被害者でまくりだな。やらずに済んで良かった。彼氏だって、そんな彼女いやだし、心配するし、嘘告したら一週間か一か月か仮でも付き合うんだろ、彼氏だってヒヤヒヤで不安で。よくそんな遊び思いつくよな。クラスの連中もさ」
「私だって彼氏を心配させるだなんてしたくないわよ。嘘告してる子は皆、彼氏や彼女がいないからね」
「お前はいいヤツだなぁ。さすが学校で一番の可愛い美女って言われてるだけはあるな」
「フフ、ありがと。嬉しいよ、義孝君」
「どういたしまして。瑞葉」
「ねぇ、義孝君、なんだか会話がズレてるんだけど、変じゃない?」
「えっ、変か?」
「……」
「家に帰るわ。じゃ、また明日。おやすみ」
部屋を出ていく際、瑞葉は振り返り、俺を見て言葉を残した。
「私の彼氏は、いえ、大切な恋人は義孝君、貴方よ。あ・な・た。忘れてない? 中学から恋人四年目なんだけど」
俺
「……」

実は義孝と瑞葉は恋人同士であった。
★★★★★
コンコン
「お兄ちゃん、いる?」
「ああ、いるよ、入って」
「瑞葉ねえちゃん、泣いていたよ。喧嘩でもしたの?」
「由愛、恋愛って理不尽だよな。思うようには決していかない。コントロールしようなどとは、おこがましい程だ」
「混乱して意味不明だよ、お兄ちゃん」
「由愛は嘘告ってしたことあるか?」
「あるわけないじゃん。好きな人いるのに」
「そうだよな」
「どうしたの?」
「お兄ちゃんな、嘘告されちゃったんだよ。瑞葉はそれで怒っちゃって」
「彼氏が馬鹿にされたら怒るわよ。私だってお兄ちゃんバカにされて今聞いた瞬間に怒ってるもん」
「瑞葉が言ってたけど、嘘告って本当に好きじゃないと出来ないから、俺が受けた嘘告も本気だったのかなぁ。どう思う?」
「女の子に好きな人がいる時は、嘘告はやれと言われても全員が断るよ。恋愛経験の少ない程、純真無垢だから嘘告はしないの。だって、そんな勇気があるなら、好きな人に告白したいじゃん?」
「私だったら嘘告を断れない状況に陥ったのなら、嘘告と称して好きな人に告白するよ」
そうか……
この由愛の話だと、ハルちゃんは経験豊富とは言えないから、実は嘘告と偽って、本当の好きという気持ちを告白をしてくれたのかも、……しれないのか。
ハルちゃんの謝罪の時、続きをいつも聞かずにその場を離れたな。最後まで聞くのが怖かったんだが、今度、機会があったら聞こう。
もし本当に俺のことが好きなんだったら、また考えたいな。だって、キス一回してサヨナラじゃ、寂しいもんな。
特に彼女はファーストキスって言ってたし、言動もそれを示してたし。もっと先に進めるかもしれないしな。
「お兄ちゃん、瑞葉ねえちゃんが彼女だという事、忘れてない? それは瑞葉ねえちゃんが泣いちゃうよ」
なぜ俺の考えてることが分かった?
「好きな人のことは何でも分かるんですぅ~」
「うむ、いずれにせよ由愛には大切なことを教えてもらった。ありがとな、凄く助かった。さすが我が妹だ。感謝する」
俺はキスより先に進みたいというチャンスを逃さない気持ちだけがメインに膨れ上がっていた。正直、瑞葉や由愛には聞かせられない性欲優先男が頭をもたげ始めていただけという……。
うむ、格好つけながら誠に恥ずかしい。



