嘘告と二股と妹と。

 朝、下駄箱の中に可愛い封筒の手紙が入っていた。

 字は可愛らしく、女の子のものと推測できた。小林に見られると「一緒に封を開けてみるぞ」とか言いながら、介入してくるだろうから、速攻でカバンの中に仕舞う。

 教室で席に着くと、感慨が押し寄せてきた。俺がラブレターなんて貰うとは。名前が書いてなかったから、誰からかは分からなかった。

 クールにしていても、心は嬉しさで踊っていた。恥ずかしながら、生まれて初めてのラブレターだったからだ。

 放課後、校舎裏で待ち合わせ。

 どんな娘かな?

 外見・容姿は俺の好みかな?

 性格は、真面目で、大人しくて優しいといいな。

 ギャル系はちょっと苦手だ。

 背は高すぎなければいい。172㎝の俺に合えばいいな。

 贅沢は言わない。普通に可愛い子なら十分だ。

 授業そっちのけで、丸一日、妄想が止まらなかった。いいじゃないか、初めてのラブレターだもん。

 放課後、校舎裏に向かうと、そこには隣のクラスの稲垣華(いながきはる)ちゃんがいた。彼女は成績優秀で、真面目系、丸顔で、下半身がふっくらしたゆるふわ美少女として男子に人気な娘だった。

 ◇

「あ、ヨシくん!……いえ、西之原君、来てくれてありがとう。私は稲垣(はる)、隣のクラスです」

 恥ずかしがりながら彼女は声を出す。俺も緊張しながら言葉を発する。

「あ、ああ、こんにちは。手紙くれたの君だったんだね」

「貴方のことを陰ながら見ていました」

「ありがとう。正直なところ、嬉しいよ」

 最初の挨拶はクリアーできたようだ。稲垣さんは大変可愛らしく、真面目そうで、体型も好みだ。はにかんだ顔は、男子に人気だという事を証明し、大きな目がしっかりと好意を伝えてくる。

「義孝君が好きです。もし良かったら、私とお付き合いをしてくれませんか?」

「もちろん、俺からもよろしく頼むよ」

「ほんと? 嬉しい。とても嬉しい……」

 ぱっと両手で頬と口元を隠す仕草がとても可愛らしかった。清楚なイメージがしっくりする。

「信じられない、夢じゃないかしら?」

「俺も嬉しいな。君みたいな子と付き合えるなんて嬉しい」

「あ、ありがとう、ございます、ヨシくん、義孝君っ!」

「こちらこそ」

 ヤッター! 初めてラブレターを貰って、それがこんなに可愛い娘で、嘘だろ俺、なんか悪いもん食ったんじゃないだろうな?

「ねぇ、スマホでID交換しよ、行きたいところあったら、今週末のお休みに行こうよ」

「ああ、そうだな。行きたいとこ、いっぱいあるぜ」

 もうニヤニヤが止まらない。俺、今夜、死んじゃったりして。明日、交通事故に遭ったりしないよな、二度と彼女に会えない事になったりするかも。

 それから趣味の事、好きな芸能人、よく聴く歌、音楽、過去に付き合ったことがあるか等々、初対面とは思えないほど、すんなりと盛り上がり、思った以上に楽しい時間を過ごすことができた。

「俺が初めての彼氏かぁ、嬉しいな」

 時々、あくまでも時々だが、彼女がふっと寂しそうな顔をした。なにせ初対面なので、そんな悲しそうな顔も、普段の顔つきの一つだと考え、もし事情を聞くとしても又今度と思った。

 彼女は自分のことを「ハル」と呼んで欲しいとお願いしてきた。友人知人は皆そう呼ぶらしい。

 いきなり親しくなった友人、いや、彼女となったハルちゃんと名残惜しさを感じながら校門で別れ、心の中でスキップしながら家に帰った。俺は自分の部屋のベッドで寝転んだ。

「ハルちゃんか……可愛い子だったな」

 週末どこ行こう。まずはショッピングモールで初々しいデートからだな。早速、スマホでメッセージを送る。他に行きたいところが多々あるので、デートの行き先で苦労することもないだろう。

 俺はバイトもやってるし、デート代は俺が出してやろう。ふふっと笑みを浮かべる。

 ◇

【お兄ちゃんのばかっ】

 コンコン

「ん、何?」

「お兄ちゃん、わたし」

 まだ寝るには早い時間だというのに、黄色いパジャマに着替えた由愛が扉を開いて入ってきた。そしてベッドに寝転ぶ俺の傍、ベッドの端に腰かけて俺の目を見る。

「お兄ちゃん、嬉しそうね。何か、いい事でもあったの?」

「ん、何もないぞ。どうした由愛」

「あのね、ちょっと相談したいことがあって」

「うん、それで」

「今日ね、クラスメイトから告白されちゃったの」

 ぶっ、ぶーーーっ! お前もか、由愛。

 相談内容を聞くと、同じクラスの男子で告白を断ったら気まずくなるかも……という事、どうしたら無難に済ますことが出来るか、といった内容だった。

「うーん、そればかりは、どうしようもないな。男子だって断られたら気まずくなるぐらい承知の上だろ。お前に責任はないぞ」

「そう、どうしようもないのかな……」

「それ以前に、どうして断るんだ?」

「だって好きな人がいるんだもん」

「え、何だって?」

「私、もう好きな人がいるんだってば」

 俺の心になぜか衝撃が走った。とても辛い何らかの衝撃だ。初めて受けるその衝撃の正体は分からなかった。口は大きくアングリとしてボ~っと由愛の顔を見るばかりであった。

 可愛い妹……思い出がフラッシュバックする。

 少し沈黙が流れた。由愛は突然ベッドに寝転んできた。

「お兄ちゃん、ぎゅっとして」

「えっ?」

「ぎゅっとして」

 俺はベッドの奥に身体を移動させ、背中を向けて寝転んでいる由愛のスペースを広くとると、背中から俺がくっつき、髪を撫でる優しいお兄ちゃんバージョンを作り上げた。

「なぁ由愛、お前、片想い中だったんか?」

 つい耳元で囁いてしまう。由愛は耳が真っ赤である。由愛のやつ、恋煩いで自分が制御できなくて、一杯いっぱいだな。

 こういった時にお兄ちゃんとして俺が隙間を埋めてやらないとな。母さんから義理の妹? 宣言があったんだ。もう一歩、進んでいい筈だ。何を? とは言うまい。妹だから安心して抱きしめた。

 由愛の頭をぽんぽんし、ちょっとだけ、ちょっとだけだからと背中をさする……と、由愛が凄いスピードで振り返り、正面から抱き着いてきた。

「しまった、今のはまずい」

 無意識にドキッとした。

 驚愕して動けない俺に向かって由愛は言う。

「お兄ちゃんのばかっ」

 ムム……なんだ『お兄ちゃん大好き』の間違いじゃないのか?

 少し残念に思う俺だった。



 ただ……、このホンワカしたムードが今後も続くとは限らなかった。