なんとか蘇生できないだろうか?

 復活の魔法であるリザレクションは聖女にしか使えないと聞いた。その聖女自身も蘇生対象なのだから、今のところはどうしようもない。

 勇者はに魔王が生誕した際に一度だけ誕生する。でも聖女は?

 聖騎士、大魔導士も耳にしたことはない。聖付与師なんて自分がなって初めて聞いた。付与術師は普通に冒険者ギルドにいる。

 剣聖の活躍はよく聞く。勇者パーティとの違いって何だろう。

 作業の方々に、みんなの遺体をエルソンに運んで頂き、冷凍庫へ保存した。ぼくは復活魔法の使い手を探すことにした。

 まずは王都にある教会本部へ行く。そこで次の聖女の生誕の情報を頂く。その後、聖女候補を見つけるため様々な地へ移動。トラブルを起こさないために冒険者になっておく。

 魔王討伐後、騎士爵から男爵に格上げされたぼくの社会的地位も利用できる。領地を貰って領主にならないかという話も丁重に辞していた。

★★★★★

 エルソンの噴水の周りにある岩に腰かけた。ぼーっと噴水を眺める。他に何かいい案はないだろうか。

(蘇生なんて考えたら駄目だぞ。世の中、ぐちゃぐちゃになる。)

 心の声が注意してくれる。分かってる。わかってるってさ。だから聖女だけの特権の能力なんだよね。知ってるさ。何人もポンポンと生き返らせたら大変なことだってぐらい。

 聖女様ですらリザレクションを使えば3か月は能力が消えてしまうらしい。

 噴水のエリアは広場になっており、《勇者様御一行》の像が建てられていた。騎士団を全滅まで追い込んだ強力な悪霊たちを、たった一発の浄化魔法で蹴散らした聖女様が中心に立って、周りに勇者たち仲間が微笑んでいる。ぼくもハバにはされず、予想を超えた格好良さで造形されていた。

 気づかないうちにヨシタカの瞳から一筋の大粒の涙が零れ落ちた。頬を伝ってポトリポトリと太ももの上に水滴の染みを作る。慌てながら手の平で水滴を払うが、涙は次から次にと溢れて止まらなくなった。

「……まさかアレがぼくだなんて誰も思わないだろうな」

「まさかアレがぼくだなんて誰も思わないだろうな」

 以前来た時には広場も噴水もなかった。今は住民たちの憩いの場だ。

 まずは冒険者になるか。

 ぼくはトボトボ歩いて冒険者ギルドへ向かった。今まで戦いの場に身を置いていた為か、手持ち無沙汰で、これから日々どうしようという漠然な感覚があった。存在しない蘇生魔法リザレクションの使い手を探すという新たな目標に翻弄されていたのかもしれない。

 勇者パーティのメンバーは冒険者の最上位よりもはるかに強い力を持つ。特別な存在、女神様の身内である存在、それゆえ、世界では”人の身体を持つ神様”と称されている。

 ヨシタカは人類史上初、魔王討伐後の世界に勇者パーティの能力を維持したまま存在していた。

【冒険者ギルド】

 大きな冒険者ギルドに着いた。エルソン支部だ。

 冒険者ギルドに入ると正面にカウンターがあり、広いロビーの横には食堂兼酒場が併設されていた。

 ぼく
「冒険者に登録したいのですが」

 受付嬢
「はい、お(うけたまわ)ります」

 ぼく
「ありがとうございます」

 受付嬢
「ではまずこの用紙にお名前、年齢、住所、連絡先、所持スキル、得意分野、社会的地位をお書きください。その後、自動判定装置で魔力と犯罪歴を診ます」

 ぼくは以下を記入した。

ヨシタカ18歳

出身:街の名前

住所:泊ってる宿の名前

スキル:付与術

得意分野:ポーター

社会的地位:男爵

 受付嬢
「あら、男爵さまでしたのね、これは失礼しました」

 ぼく
「いえ棚から牡丹餅で男爵を頂いただけで、形式だけです」

 受付嬢
「ご高配ありがとうございます。ではこちらの水晶球に触れて下さい」

 ぼく
「はい」

 受付嬢
「犯罪歴無し、男爵位の事実認定。はい。これで登録が終わりました。これで冒険者として仕事を請けることが出来ます。スタートのクラスはF級です、S級・A級目指して頑張ってください。あと訓練のご案内、禁止事項などの説明をいたします」

 そういいながら彼女はカードを水晶にかざして情報を読み取り、終わりましたとカードをくれた。

【冒険者ヨシタカ、男爵、冒険者階級F】スチィール製

 説明は受付嬢がしてくれるのではなく、二階にある講義室に予め何人か集められてから実施されるとのこと。

 ぼく
「ありがとうございました」

 受付嬢
「どういたしまして男爵様。これから頑張ってくださいね」

 ぼく
「はい!」

 フレンドリーな女性だった。ついミズハやユアイがいないという寂しさを覚え、受付嬢の笑顔に彼女らを重ねて妄想した。寂しさが逆に加速してしまった。

 説明会が始まるまで、ロビーにあるテーブル席に座ってコーヒーを頼んで飲んで待つ。その間、ギルド内の観察をした。

 近くのテーブル席から話し声が聞こえてくる。知った単語が出てきた。それで聞き耳を立ててみる。女性や男性の混成パーティだ。

「勇者パーティ、私だったら聖騎士ミキオ様が好いな」

「私も。ミキオ様は賢く優しそうで剣の腕前が飛び抜けてるし」

「俺は勇者サトシ様だな。万能で強くてイケメン。捨てがたい」

「僕はユアイ様。魔法の万能戦士なのに、あの庇護したくなる可愛さ。たまりません」

「可愛くて美人といったら聖女ミズハ様、オンリーワンの風格よね。憧れるわ~」

「聖付与師のヨシタカ様は、特に優しそうでスキ」

 おや? ぼくの名前まで出たぞ。嬉しいな。

 最も嬉しいのは、ぼくたち勇者御一行が人類の夢であった魔王討伐を実現し、過去に勇者が作った悪いイメージから脱却できたことだった。今は普通に世間から尊敬され憧れられている。

 昔に仕出かした勇者の魅了による悪いNTR噂が、今勇者に被って来ていたのを払拭できたこと、どんなに悪口を言われてもくじけず、命を賭して魔王を討伐したことが世間に知れ渡り、ぼくも鼻が高い、パーティメンバーとして胸を張れる。

 あらゆる事が上手く進んだ。でも肝心の彼らがいない。

 寂しい。

【S級冒険者を助けるF級】

 冒険者ギルドの初心者Fクラスの講義が終わり、二階から一階に階段を降りていった。

 ざわざわしている。何かあったらしい。

 ロビーへ行くと、怪我をした冒険者が座り込んでおり、仲間から回復魔法を受けていた。

 ぼくは近くにいた女の子に聞いた。

「どうしたのかな?」

「近くの炭鉱で強力な魔獣が出らしいの、今、S級のジャック様が時間を稼いでいて、ギルドの対策が発表されるのを待ってるわ」

「怪我している彼は?」

「A級のミッキー様。彼を知らないの?」

「あ、ごめんなさい。今日、冒険者登録したばかりの新米です」

 ぼくはミッキーさんに近づいて行った。

「あの、ミッキーさん、どこでS級のジャックさんが戦っているのかな? ぼくが退治に行くよ」

「第三坑道だ。だけど君が行くって、見かけない顔だが、大丈夫か?」

 やり取りを眺めていた傷だらけの大柄の冒険者が反応した。

「さっき登録したばかりのF級じゃねーか」

 周囲がざわめく。

 A級ミッキー
「Fクラスか……なぜ? Fに……」

 また別の冒険者たちが発言した。

「冒険者ゴロって言ってな、冒険者に成り立てのヤツの中には、調子に乗って無理したり、上手と喧嘩して死ぬことが多いんだ。止めておけ」

「F級で魔獣退治って何言ってるんだ、あほか、お前は大人しく黙ってろ!」

「命を大切にしろやFクラスの馬鹿野郎」

 ガヤガヤ…ガヤガヤ……

 ぼく
「うるさい! 黙れ!!」

「ええっ」

「「「えーーーっ」」」

 ぼく
「第三坑道だな、とにかく行ってくる!」

 A級ミッキー
「あ、待って……ください……」

★★★★★

 坑道の強力と謳われた魔獣を倒し、S級のジャックさんと話しながら並んで冒険者ギルドの建物に戻ってきた。S級だと顔を知ってる人が多いからね。

 S級ジャック
「以前、ヨシタカ様に助けて頂いて、また今回もご助力いただき、大変助かりました」

 ぼく
「ジャックさん、良かったですよ、間に合って」

 ジャックさんは40歳のベテランS級で、エルソンの冒険者ギルド筆頭だった。ギルドの扉を開け、報告をするために受付へ向かう。テーブル席で待っていたミッキーさんがジャックさんを見つけて立ち上がり近づいてきた。

「ジャック! 良かった、無事に戻って来てくれて」

「おうミッキー、おまえ怪我は回復魔法で治ったか。良かったな。俺はジリ貧でな、魔獣が思ったより手ごわくて、追い込まれつつあってヤバかった」

「あ、ジャック様が戻られた! ミッキー様もご心配になられてたから本当に良かったわ」

 ぼくは喜ぶ周囲の冒険者たちを見て、ジャックさんから少し離れた。みんな嬉しそうだ。同じパーティでもないのに冒険者という仲間意識を凄く感じるな。口が悪かったあの大柄の冒険者も「ジャック様、ご無事で!」って喜んでるし。ふふ、なんだかぼくまで嬉しくなっちゃうな。

 ぼくは先に受付に一人で行き、受付嬢に「ジャックさんが無事に魔獣を倒したから、注意喚起は取り下げていいと思います」と伝えた。

 そして踵を返して出口へ向かい、ジャックさんに向かって手を振り、一人外へ出て行った。

 ジャックさんが何か言っていたが聞こえなかった。でもぼくは無性に達成感みたいな、よく分からない幸せな気持ちに包まれていた。

★★★★★

 大柄冒険者
「おい、あの助けに行く~って出て行ったF級はどうした?」

「あ、そういえば、大丈夫だったのか?」

「追加で要救助者が出るって何だよ、だから行くなっつーて」

 ミッキー
「あ、そうだ、ジャック、見かけなかったかい?」

 ジャック
「F級の誰かが助けに来たって? うーん。英雄ヨシタカ様が来られて一瞬で魔獣倒して、二人して仲良くギルドに帰ってきたからな、見かけてないなぁ」

 ミッキー
「あ、やっぱり。あのF級の彼、悪霊退治の時、勇者パーティにおられたヨシタカ様だよな。F級って言ってたけど、いやなんでF級? って混乱して思ってたから。俺の怪我を見に来て、直ぐに助けに行ったんだよ。有難いことだな」

 大柄冒険者
「ヨシタカ様って英雄の? 来られてたんだ」

 ミッキー
「お前たちが暴言はいててビビったわ。バカ」

「「「ええーーーーーっっ」」」

 大柄冒険者
「あの方がヨシタカさまっ!」

 ジャック
「人類を救った英雄のお一人だからな。俺たちにすら手を貸してくださる。ありがたいな」

 こうして、あっという間に冒険者ギルド全体に認知されたヨシタカであった。