女神様の啓示の通り、魔王城で戦闘が始まった。
情報のすり合わせと作戦は充分に練られた。戦力は女神の加護も充分であり、過去最強と褒まれ高い僕たち勇者パーティは勝利を狙えるだろう。
一方で、サトシの転移魔法で地上に戻ったぼく。
勇者サトシとの命令……いや打ち合わせの通り、ぼくは王都へ向かって走る。女神様の啓示の通り、勝利のメッセージを届けるために。出口では魔物も戦闘員もおらず、寧ろ魔王との決戦での緊張感という波動で誰も近寄ってはいなかった。
一瞬、魔王城へ戻ろうか迷った。ポーターとしてパーティに帯同していたとはいえ、ぼくの実際の戦闘力はかなりのレベルにある。新技の『拡散エクスプロージョン』という花火の様な攻撃魔法も、まだ完成してはいないけど充分役に立つと思う。
いや、拡散エクスプロージョンはユアイと一緒に開発したから、彼女がいれば充分だったな……。
悩んだものの、大丈夫だと踏んで王都へ向かうことにした。理由は嫉妬もある。少し独りになって心を鎮めたいという気持ちがあったのだ。
ジャキ村で騎士の馬を一頭借りて、かなり遠くまで来た頃、物凄い音がした。
ガガーーーーン
かなり遠くから聞こえてきた衝撃音のよう。地響きがする。馬もゆっくりになった。
……おっ、これは魔王を倒した波動だね。
やったね皆。おめでとう。
長かった努力が、人類の平和がようやく訪れたんだ。これって物凄い事だよね。ぼくは嬉しいよ。
★★★★★
王都に着いたぼくは、早馬のごとく王城へ行き、勇者パーティを代表して仮の書簡を作り、宰相へ提出した。
その後、みんなと合流するために安宿に泊まっていた。合流したらワンランク上の宿にしよう。ふふ、ワクワクする。まずは、勝利パレードと国王様に全員で謁見、褒章、お金も沢山もらえそうだ。
みんな疲れているだろうから少し労力的に大変だろうけど、魔王退治よりかは楽勝だよね。
★★★★★
【3日経った】
しかし皆は帰ってこなかった。魔王の波動は消えているのに、皆は帰って来ていない。早くミズハやユアイ、サトシ、ミキオに会いたい。早く帰って来て欲しい。迎えに行こうかな? すれ違ったら大変だけど。
王城からは何も連絡はない。聖付与師では格が落ちるから、他の誰かが来ない限り、このままかも知れない。
【2週間が経った】
途中で療養しているのかもと考えて待っていたが、もう待ちきれない。行こう、迎えに。
こうしてエルソン街、ジャキ村へ向かって急いだ。
しかし、どこの冒険者ギルドで聞いても、酒場で聞いても、宿を全て当たっても、勇者パーティの足跡は無かった。
「来てないのか……?」
思えば最後の皆との挨拶、変だったけど敢えて気にしないようにスルーした。
「今まで、ありがとう」とかポロっと言ってたな。普通、そんな台詞を言うのはお別れの時だよね。
なぜだろうと思ってはいたが、まさか、まさか。
ぼくは急いで地下に魔王城があった場所へ行った。馬がへとへとになっても急いだ。
早く着きたい。すごく嫌な予感がする。
見えてきた。でも山がないぞ? 道を間違えたのかな……
道は正しかった。
魔王城の付近では大きなすり鉢状になっており、全体が凹み、山が消えていた。
これは……?
ヤバい、もう直感がどうのこうの、サトシらが道を間違えただの、別場所に寄ってるだの、心への誤魔化しは効かない。
ぼくは騎士爵…はさておき、元勇者パーティの一員として緊急依頼を冒険者ギルドへ出した。冒険者や頑強な炭鉱労働者を集めて、すり鉢状の砂泥・岩を掬い出し、魔王城に繋がるトンネルを奇麗にする依頼だ。
作業員のリーダーから言われた。一週間~十日は掛かりそうなので、ぼくはどこかでスタンバイしていて欲しいと。
ふぅ~、どうしよう。
そうだ、教会。ミズハとユアイと約束した加護を授かった教会に行って、強く祈ろう、女神様に皆を助けてくれと。
聖女の結界魔法で周囲の崩れを防御し、マジック・バックの食料や水は小分けして食べていれば、まだ助かる可能性がある筈。
生存を女神様に祈ろう。
【教会:真相ミズハの遺書】
かつて住んでいた街の教会、加護を頂いたところにやってきた。懐かしい。
まずは祈りをささげる。シスターがぼくを見て「あらあら聖付与師のヨシタカ様じゃないですか?」と声を掛けられ、司祭様に面会が叶った。聖女様の件で話しがあると、すぐにレポートを取り出してぼくに見せてくれた。
この報告書を兼ねた書簡は記憶がある。悪霊の街で、聖女ミズハのエクスプロ―ジョンまがいの浄化魔法で退治後、なぜか彼女自身が報告書を書いて提出したものだ。領主さま宛ではなく教会に届いていたのか。「加護の教会に一緒に行こう」といったのは、この件のことだろうか?
その報告書をじっと読む。
「悪霊を一掃する破邪の魔法の一種である”浄化”を使った」云々のあと、女神様の啓示について書かれていた。目を通すと驚きを禁じ得なかった。
要約すると。
”魔王を倒すと問題が起きる。それは魔王城の崩壊も一つだが、魔王の魔力が消えると、一瞬でブリザードが吹き、周辺を《極寒の地》へと変える。魔王自体が存在してこそ、魔王城周辺は平温に保たれ、極寒の地は絶対零度に近くなる。脱出して生存できる可能性は著しく低い。報告者:聖女ミズハ”
聖女ミズハの言葉をそのまま記すと……
「女神様の啓示は、魔王は倒すことが出来る、ということです。しかし啓示の正確なイメージでは、私達が氷漬けになって魔王城に残っておりました。私たちも脱出に努力しますが、もし魔王の波動が消えたにも拘らず、私たちが戻らなかった場合は、お察しくださり、神官や職員らに動揺が広がらないよう後の対処をお願いいたします」
司祭様はもうひとつ、封印された手紙を渡してくれた。聖女様から直接ぼく宛だという。
★★★★★
【ミズハのメッセージ】
ヨシタカ君、何も話さずにいて、ごめんなさい。この手紙は通称・悪霊の街で私がエクスプロージョン(嘘ですゴメンナサイ)改め浄化魔法改を放った後で、レポートを書くと偽って書いています。
そして貴方が助かるよう、離脱しやすいように嘘をつきました。みんなで。氷漬けになって死んでしまうという女神様の啓示に直面し、何回も話し合いました。
私はサトシ君とは何もしていません。打ち合わせから部屋から出た時にヨシタカ君と鉢合わせしてしまったのです。エッチな関係はありません。わたしはいつも、あなた一筋です。
これをヨシタカ君が読まれているという事は、きっと私やユアイちゃんとは一緒でないのですよね?私はすごく残念です。結婚……、一緒になれなかったのだから。結婚して幸せになりたかった。あなたと一緒に、暖かい家庭を作りたかった。
先に旅立つ私をお許しください。あ、プレゼントしてくれたペンダントありがとう。魔王決戦の時もしっかり付けて行くからね。あなたの付与魔法は本当にすごいんだから。だから自信をもってこれからの人生を楽しんでください。人々を助けてあげてね。
一緒に歩めなくなったのはユアイちゃんも一緒。ユアイちゃん、いっぱい泣いていました。
あなたへのメッセージを書こうと言ったら、書くことを想像するだけで涙が止まらなくから書けないって。だから私が代わりにメッセージを伝えるね。
「お兄ちゃん、今夜、この後で部屋へ行くよ。してくれなかったら可愛い妹はお怒りします! お兄ちゃんのばかっ。ペンダント大事にするね。教会に一緒に行ってお祭りも行こうね! 私とミキオ君との結婚は嘘だよ~~ゴメンネ。お兄ちゃん大好き」
ヨシタカ君、ユアイちゃんが部屋に行ったら何をするんですか! 未婚の男女が婚前に、あんなことやこんなことをしちゃダメですよ! 血の繋がった兄妹なんですから。私と早く結婚したら、すぐにあなたの好きなことが出来……ごめんなさい。
あ、長くなっちゃった。愛してるよ。
★★★★★
「そ、そんな……」
ミズハ、ごめん。君の愛と信頼を疑ってしまってたよ。
ユアイ……、ハグと頭なでなで…の時か。
キスしてってねだってきたよね、ごめん。
サトシとミキオも帰ってこれなくなることを分かった上で普通の態度で過ごしていたのか。
何てことだ。
それをぼくは知りもせずに宿で『サトシたち遅いなぁ、寄り道してるのか』とか考えていた。
更にはイチャイチャしすぎて遅くなってるのではとも、心の中で嫉妬していた。
「……」
司祭
「聖女様はなんと?」
ヨシタカ
「……。埋まった魔王城にて生存してるかもしれません、希望を持ちたいです!」
ぼくは何も答えられなかった。
情報のすり合わせと作戦は充分に練られた。戦力は女神の加護も充分であり、過去最強と褒まれ高い僕たち勇者パーティは勝利を狙えるだろう。
一方で、サトシの転移魔法で地上に戻ったぼく。
勇者サトシとの命令……いや打ち合わせの通り、ぼくは王都へ向かって走る。女神様の啓示の通り、勝利のメッセージを届けるために。出口では魔物も戦闘員もおらず、寧ろ魔王との決戦での緊張感という波動で誰も近寄ってはいなかった。
一瞬、魔王城へ戻ろうか迷った。ポーターとしてパーティに帯同していたとはいえ、ぼくの実際の戦闘力はかなりのレベルにある。新技の『拡散エクスプロージョン』という花火の様な攻撃魔法も、まだ完成してはいないけど充分役に立つと思う。
いや、拡散エクスプロージョンはユアイと一緒に開発したから、彼女がいれば充分だったな……。
悩んだものの、大丈夫だと踏んで王都へ向かうことにした。理由は嫉妬もある。少し独りになって心を鎮めたいという気持ちがあったのだ。
ジャキ村で騎士の馬を一頭借りて、かなり遠くまで来た頃、物凄い音がした。
ガガーーーーン
かなり遠くから聞こえてきた衝撃音のよう。地響きがする。馬もゆっくりになった。
……おっ、これは魔王を倒した波動だね。
やったね皆。おめでとう。
長かった努力が、人類の平和がようやく訪れたんだ。これって物凄い事だよね。ぼくは嬉しいよ。
★★★★★
王都に着いたぼくは、早馬のごとく王城へ行き、勇者パーティを代表して仮の書簡を作り、宰相へ提出した。
その後、みんなと合流するために安宿に泊まっていた。合流したらワンランク上の宿にしよう。ふふ、ワクワクする。まずは、勝利パレードと国王様に全員で謁見、褒章、お金も沢山もらえそうだ。
みんな疲れているだろうから少し労力的に大変だろうけど、魔王退治よりかは楽勝だよね。
★★★★★
【3日経った】
しかし皆は帰ってこなかった。魔王の波動は消えているのに、皆は帰って来ていない。早くミズハやユアイ、サトシ、ミキオに会いたい。早く帰って来て欲しい。迎えに行こうかな? すれ違ったら大変だけど。
王城からは何も連絡はない。聖付与師では格が落ちるから、他の誰かが来ない限り、このままかも知れない。
【2週間が経った】
途中で療養しているのかもと考えて待っていたが、もう待ちきれない。行こう、迎えに。
こうしてエルソン街、ジャキ村へ向かって急いだ。
しかし、どこの冒険者ギルドで聞いても、酒場で聞いても、宿を全て当たっても、勇者パーティの足跡は無かった。
「来てないのか……?」
思えば最後の皆との挨拶、変だったけど敢えて気にしないようにスルーした。
「今まで、ありがとう」とかポロっと言ってたな。普通、そんな台詞を言うのはお別れの時だよね。
なぜだろうと思ってはいたが、まさか、まさか。
ぼくは急いで地下に魔王城があった場所へ行った。馬がへとへとになっても急いだ。
早く着きたい。すごく嫌な予感がする。
見えてきた。でも山がないぞ? 道を間違えたのかな……
道は正しかった。
魔王城の付近では大きなすり鉢状になっており、全体が凹み、山が消えていた。
これは……?
ヤバい、もう直感がどうのこうの、サトシらが道を間違えただの、別場所に寄ってるだの、心への誤魔化しは効かない。
ぼくは騎士爵…はさておき、元勇者パーティの一員として緊急依頼を冒険者ギルドへ出した。冒険者や頑強な炭鉱労働者を集めて、すり鉢状の砂泥・岩を掬い出し、魔王城に繋がるトンネルを奇麗にする依頼だ。
作業員のリーダーから言われた。一週間~十日は掛かりそうなので、ぼくはどこかでスタンバイしていて欲しいと。
ふぅ~、どうしよう。
そうだ、教会。ミズハとユアイと約束した加護を授かった教会に行って、強く祈ろう、女神様に皆を助けてくれと。
聖女の結界魔法で周囲の崩れを防御し、マジック・バックの食料や水は小分けして食べていれば、まだ助かる可能性がある筈。
生存を女神様に祈ろう。
【教会:真相ミズハの遺書】
かつて住んでいた街の教会、加護を頂いたところにやってきた。懐かしい。
まずは祈りをささげる。シスターがぼくを見て「あらあら聖付与師のヨシタカ様じゃないですか?」と声を掛けられ、司祭様に面会が叶った。聖女様の件で話しがあると、すぐにレポートを取り出してぼくに見せてくれた。
この報告書を兼ねた書簡は記憶がある。悪霊の街で、聖女ミズハのエクスプロ―ジョンまがいの浄化魔法で退治後、なぜか彼女自身が報告書を書いて提出したものだ。領主さま宛ではなく教会に届いていたのか。「加護の教会に一緒に行こう」といったのは、この件のことだろうか?
その報告書をじっと読む。
「悪霊を一掃する破邪の魔法の一種である”浄化”を使った」云々のあと、女神様の啓示について書かれていた。目を通すと驚きを禁じ得なかった。
要約すると。
”魔王を倒すと問題が起きる。それは魔王城の崩壊も一つだが、魔王の魔力が消えると、一瞬でブリザードが吹き、周辺を《極寒の地》へと変える。魔王自体が存在してこそ、魔王城周辺は平温に保たれ、極寒の地は絶対零度に近くなる。脱出して生存できる可能性は著しく低い。報告者:聖女ミズハ”
聖女ミズハの言葉をそのまま記すと……
「女神様の啓示は、魔王は倒すことが出来る、ということです。しかし啓示の正確なイメージでは、私達が氷漬けになって魔王城に残っておりました。私たちも脱出に努力しますが、もし魔王の波動が消えたにも拘らず、私たちが戻らなかった場合は、お察しくださり、神官や職員らに動揺が広がらないよう後の対処をお願いいたします」
司祭様はもうひとつ、封印された手紙を渡してくれた。聖女様から直接ぼく宛だという。
★★★★★
【ミズハのメッセージ】
ヨシタカ君、何も話さずにいて、ごめんなさい。この手紙は通称・悪霊の街で私がエクスプロージョン(嘘ですゴメンナサイ)改め浄化魔法改を放った後で、レポートを書くと偽って書いています。
そして貴方が助かるよう、離脱しやすいように嘘をつきました。みんなで。氷漬けになって死んでしまうという女神様の啓示に直面し、何回も話し合いました。
私はサトシ君とは何もしていません。打ち合わせから部屋から出た時にヨシタカ君と鉢合わせしてしまったのです。エッチな関係はありません。わたしはいつも、あなた一筋です。
これをヨシタカ君が読まれているという事は、きっと私やユアイちゃんとは一緒でないのですよね?私はすごく残念です。結婚……、一緒になれなかったのだから。結婚して幸せになりたかった。あなたと一緒に、暖かい家庭を作りたかった。
先に旅立つ私をお許しください。あ、プレゼントしてくれたペンダントありがとう。魔王決戦の時もしっかり付けて行くからね。あなたの付与魔法は本当にすごいんだから。だから自信をもってこれからの人生を楽しんでください。人々を助けてあげてね。
一緒に歩めなくなったのはユアイちゃんも一緒。ユアイちゃん、いっぱい泣いていました。
あなたへのメッセージを書こうと言ったら、書くことを想像するだけで涙が止まらなくから書けないって。だから私が代わりにメッセージを伝えるね。
「お兄ちゃん、今夜、この後で部屋へ行くよ。してくれなかったら可愛い妹はお怒りします! お兄ちゃんのばかっ。ペンダント大事にするね。教会に一緒に行ってお祭りも行こうね! 私とミキオ君との結婚は嘘だよ~~ゴメンネ。お兄ちゃん大好き」
ヨシタカ君、ユアイちゃんが部屋に行ったら何をするんですか! 未婚の男女が婚前に、あんなことやこんなことをしちゃダメですよ! 血の繋がった兄妹なんですから。私と早く結婚したら、すぐにあなたの好きなことが出来……ごめんなさい。
あ、長くなっちゃった。愛してるよ。
★★★★★
「そ、そんな……」
ミズハ、ごめん。君の愛と信頼を疑ってしまってたよ。
ユアイ……、ハグと頭なでなで…の時か。
キスしてってねだってきたよね、ごめん。
サトシとミキオも帰ってこれなくなることを分かった上で普通の態度で過ごしていたのか。
何てことだ。
それをぼくは知りもせずに宿で『サトシたち遅いなぁ、寄り道してるのか』とか考えていた。
更にはイチャイチャしすぎて遅くなってるのではとも、心の中で嫉妬していた。
「……」
司祭
「聖女様はなんと?」
ヨシタカ
「……。埋まった魔王城にて生存してるかもしれません、希望を持ちたいです!」
ぼくは何も答えられなかった。



