「今日こそ、平和な一日を……」

瑠一は文化祭準備で騒がしい校舎の中、ひとり静かに祈った。明日は本番。今日さえ乗り切れば、穏やかな日常が戻ってくる——そう信じていた。

しかし、昼休み。屋上から響いた「ドンッ!」という音に、瑠一は凍りついた。

「……まさか」

駆け上がると、そこには蓮がいた。両手に花火、足元には段ボール箱——見慣れた光景だった。

「瑠一先輩! サプライズ花火大会、準備中っす!」

「やめろおおおおおお!!」

蓮は満面の笑みを浮かべて言う。

「文化祭って、思い出に残るイベントじゃないっすか? だったら最後にドーン!って打ち上げたら、みんな感動すると思って!」

「感動より停学だよ!!」

首をかしげる蓮。

「でも、みんな喜ぶと思うんすよ。夜空に花火、青春って感じじゃないっすか?」

「青春は火薬じゃない!!」

瑠一は頭を抱えつつ、段ボールを覗き込んだ。中には手作りの打ち上げ装置、火薬、導線——どこで手に入れたのか、聞くのも怖い代物だ。

「これ、誰かに相談したのか?」

「碧汰くんには『やめとけ』って言われました!」

「正しい判断だよ!!」

それでも蓮は引かなかった。

「瑠一先輩が協力してくれたら、安全にできると思うんすよ。俺、瑠一先輩のこと信じてるんで!」

その言葉に、瑠一は一瞬黙り込む。蓮の目は真剣そのものだった。ふざけているようでいて、「誰かの記憶に残る一日」を本気で願っている。

「……一発だけだぞ。しかも先生に見つかる前に撤収だ。わかったな?」

「はいっ! 瑠一先輩、最高っす!」

その後、二人は屋上でこっそり準備を始めた。導線をつなぎ、打ち上げ角度を調整し、風向きを確認する——まるで理科の実験のようだ。

ところが、準備中に先生の足音が近づいてきた。

「やばいっす! 先生来てます!」

「撤収だ! 蓮、火薬持って逃げろ!」

「了解っす!」

二人は屋上から非常階段へ猛ダッシュ。段ボールを抱えた蓮と、花火の設計図を握りしめた瑠一——文化祭前日の校舎を全力で駆け抜けた。

その夜、瑠一はベッドの中でため息をついた。

「……なんで俺、協力しちゃったんだろ」

それでも、蓮の「みんなの思い出に残したいっす!」という言葉が、頭から離れなかった。

今日も平和は訪れなかった。

しかし、それは——誰かのために動いた一日だった。