「今日こそ、平和な一日を……」
瑠一は、朝のホームルーム前に教室の窓から校庭を眺めながら、いつものように祈った。春の風が吹き抜ける穏やかな朝。鳥のさえずり、遠くで響く部活の掛け声——完璧な日常の始まり、のはずだった。
「瑠一先輩! 大変っす!」
その声を聞いた瞬間、瑠一は悟った。
「……また蓮か」
振り返れば案の定、蓮が息を切らしながら教室へ駆け込んできた。制服のシャツは片方だけズボンに入っていて、手には大きな段ボール箱。中から「ニャー」という鳴き声が漏れた。
「……猫?」
「はいっ! 迷い猫っす! 校内で見つけたんで、保護センター作りました!」
「……どこに?」
「美術室っす!」
「なんで美術室!?」
蓮は満面の笑みで胸を張った。
「だって、あそこ陽当たりいいし静かだし、猫たちも落ち着くかなって!」
瑠一は頭を抱えた。美術室は今日、絵画コンクールの準備で使う予定だったはずだ。
「お前、許可取ったのか?」
「え? いや……でも、猫たちが寂しそうだったんすよ。誰かが守ってあげないと……」
その言葉に、瑠一は一瞬口をつぐんだ。蓮の目はまっすぐで、悪気など微塵もない。
「……はあ。とりあえず猫を美術室から出せ。先生に見つかったら、俺まで怒られる」
「了解っす! じゃあ校内に猫用の遊び場作るっす!」
「いや、そうじゃなくて!」
その後、猫たちは校内を走り回る大騒動となり、瑠一は碧汰と共に追いかける羽目になった。
「お前、また蓮に振り回されてんのか」と呆れる碧汰に、「俺だって好きでやってるわけじゃない!」と叫びながら、瑠一は段ボールを手に猫を追いかける。
放課後、ようやく猫たちは全員保護され、蓮は給食室のおばさんに牛乳をもらって猫たちへ振る舞っていた。
「この子たち、今日から俺の家族っす!」
「いや、家族増やすな!」
瑠一はため息をつきながら、蓮の頭を軽く叩いた。
「……なんでいつもこうなるんだよ」
蓮は笑った。
「でも、瑠一先輩がいてくれるから、俺は安心っす!」
その笑顔に、瑠一はまた何も言えなくなる。
今日も平和は訪れなかった。
それでも心の奥は、少しだけ温かかった。
瑠一は、朝のホームルーム前に教室の窓から校庭を眺めながら、いつものように祈った。春の風が吹き抜ける穏やかな朝。鳥のさえずり、遠くで響く部活の掛け声——完璧な日常の始まり、のはずだった。
「瑠一先輩! 大変っす!」
その声を聞いた瞬間、瑠一は悟った。
「……また蓮か」
振り返れば案の定、蓮が息を切らしながら教室へ駆け込んできた。制服のシャツは片方だけズボンに入っていて、手には大きな段ボール箱。中から「ニャー」という鳴き声が漏れた。
「……猫?」
「はいっ! 迷い猫っす! 校内で見つけたんで、保護センター作りました!」
「……どこに?」
「美術室っす!」
「なんで美術室!?」
蓮は満面の笑みで胸を張った。
「だって、あそこ陽当たりいいし静かだし、猫たちも落ち着くかなって!」
瑠一は頭を抱えた。美術室は今日、絵画コンクールの準備で使う予定だったはずだ。
「お前、許可取ったのか?」
「え? いや……でも、猫たちが寂しそうだったんすよ。誰かが守ってあげないと……」
その言葉に、瑠一は一瞬口をつぐんだ。蓮の目はまっすぐで、悪気など微塵もない。
「……はあ。とりあえず猫を美術室から出せ。先生に見つかったら、俺まで怒られる」
「了解っす! じゃあ校内に猫用の遊び場作るっす!」
「いや、そうじゃなくて!」
その後、猫たちは校内を走り回る大騒動となり、瑠一は碧汰と共に追いかける羽目になった。
「お前、また蓮に振り回されてんのか」と呆れる碧汰に、「俺だって好きでやってるわけじゃない!」と叫びながら、瑠一は段ボールを手に猫を追いかける。
放課後、ようやく猫たちは全員保護され、蓮は給食室のおばさんに牛乳をもらって猫たちへ振る舞っていた。
「この子たち、今日から俺の家族っす!」
「いや、家族増やすな!」
瑠一はため息をつきながら、蓮の頭を軽く叩いた。
「……なんでいつもこうなるんだよ」
蓮は笑った。
「でも、瑠一先輩がいてくれるから、俺は安心っす!」
その笑顔に、瑠一はまた何も言えなくなる。
今日も平和は訪れなかった。
それでも心の奥は、少しだけ温かかった。



