「今日こそ、平和な一日を……」

瑠一は、いつものように校門をくぐりながら小さく祈った。空は澄み渡り、風は心地よく、校庭には朝の光がやわらかく差し込んでいる。完璧な日常の始まり——のはずだった。

だが、その祈りが叶ったことは、入学式の日以来一度もない。

その日、瑠一は屋上から響いた「ドンッ!」という爆音を耳にした。慌てて駆け上がると、そこには花火を手にした一年生が立っていた。制服の袖をまくり、満面の笑みで空を見上げる少年——蓮である。

「すごくないっすか? 入学記念に打ち上げ花火!」

「すごくない! というか、何してんだお前は!」

それが、すべての始まりだった。

蓮は悪びれる様子もなく「瑠一先輩、止めてくれてありがとうございます!」と笑った。その笑顔は無邪気で、どこか憎めなかった。瑠一はその瞬間、悟った。

——この男は、放っておけない。

それ以来、瑠一は自ら「ブラック見張り番」を名乗り、蓮の行動を監視するようになった。校内での奇行、突発的なイベント、謎の企画——すべての火種は蓮から始まり、瑠一が消火する。

「なんで俺が……」とぼやきながらも、瑠一は今日も校内を見回る。

蓮は今日も、どこかで何かを企んでいる。

そして瑠一は、またその暴走を止めるために走り回る。

それが、彼らの日常だった。