放課後。
グラウンドからは、サッカー部や陸上部だろうか、威勢の良い掛け声が響き渡っている。
体育館の中の様子は見えないが、バスケットボール部やバレーボール部などの不規則な足音やホイッスルの音が聞こえる。
隣の校舎からは、合唱部の澄んだ歌声や放送部の発声練習の声などが聞こえて来る。
そして、隣の教室からはチューバの低く迫力ある音が聞こえる。
放課後の学校は、様々な音が響き合い、賑やかであると私はいつも感じる。
そんな賑やかな音の中、私はユーフォニアムを構え、音を奏る。
現在は部活中なのだ。
今日は個人練習が主なので、こうして一人でユーフォニアムを吹いている。
しかし部活中も、今朝の相川さんと石田さんの喧嘩を思い出してしまう。
私が個人練習で使っている教室が二年六組の教室だからだろうか?
ヘ音記号が書いてあるユーフォニアムの楽譜の音符達を迎えに行くように吹くが、いつもより集中出来ていないことが自分でも分かる。
私はふうっと一呼吸つき、一旦ユーフォニアムを教室の床に置いた。
そして、制服のスカートのポケットからスマートフォンを取り出す。
琴乃ちゃんが見せてくれたSNSの『暇つぶし』のアカウントはブラウザからも見ることが出来る。だから何となく開いてみることにした。
相川さんの秘密に関する書き込みで更新は止まっている。
更新日は九月の上旬。新学期が開始してから数日後。
しかし今日の件があり、琴乃ちゃんが見せてくれた時はゼロだったフォロワー数が数人に増えていた。
恐らく二年六組のクラスメイトが『暇つぶし』をフォローしたのだろうか。
今回の相川さんの件で、『暇つぶし』による情報の信憑性が増したのだろう。
「高辻さん、休憩中?」
突然背後から声をかけられ、私は驚いてしまう。
「涼成くん。びっくりした。驚かせないでよ」
私はスマートフォンを机の上に裏返しに置いた。
いつの間にか私が個人練習をしている二年六組の教室に、涼成くんが入って来ていたのだ。
「ごめんごめん」
涼成くんは申し訳なさそうに眉を八の字にしていた。
ちなみに、涼成くんは二年五組の教室で個人練習をしていたようだ。
確かに、チューバの音が聞こえた反対側の教室からは、コントラバスの音が聞こえていた。
「コントラバスも休憩中?」
「うん、まあ。ちょっと指が痛くなって来たから」
涼成くんは左手を握ったり開いたりしていた。
吹奏楽で唯一の弦楽器、コントラバス。
弦を左手で押さえるので痛くなることもあるらしい。
金管楽器の私からしたらよく分からない感覚ではある。
だけど、涼成くんも私達金管楽器の唇を震わせて吹く感覚は分からないだろう。
休憩しないと時々口がおかしくなりそうだ。
顎関節症になるリスクだってある。
「そういえばさ、高辻さんのユーフォって学校のじゃなかったよね?」
思い出したかのような口調の涼成くん。
その話は入部当初にもしたような気がした。
「うん。中学の時、親が買ってくれた」
吹奏楽部の大多数は、基本的に学校の楽器を借りている。
フルートやクラリネットのように小型の楽器担当の人達の中には、自前の楽器を持っている人もいる。
床に置いた銀色に輝くユーフォニアムは、学校から借りている楽器ではない。
中学生になり、吹奏楽部に入部してユーフォニアム担当になった時、私の親が買ったくれた楽器だ。
「そのユーフォ、値段どのくらいしたの?」
「え? 聞いてどうするの?」
どうして涼成くんが私のユーフォニアムの値段を聞くのだろうか。
「いや、何となく気になって」
涼成くんは私のユーフォニアムに目を向けている。
銀色のユーフォニアムには、涼成くんの立ち姿が映っていた。
「えっと、確か三十万円くらいだった気がするけど」
私は中学時代に両親と楽器屋に行った時の記憶を掘り起こした。
「おお、やっぱ結構するな。相川さんの偽ブランド品が本物だった場合とそのユーフォ、どっちが高いんだろう?」
涼成くんはクスッと笑っている。
「ええ、その話?」
思いがけず相川さんの話題になったので、私は苦笑してしまう。
「高辻さんはさ、俺達のクラスがどうなるのかとか、不安?」
声のトーンは変わらず、冷静そうな表情の涼成くんだ。
相変わらずグラウンドからは、サッカー部や陸上部の威勢の良い掛け声が聞こえる。
体育館からのバスケットボール部やバレーボール部の足音やホイッスルも相変わらず。
隣の校舎は放送部が休憩に入ったようで、合唱部の澄んだ歌声のみが聞こえる。
そして隣の教室からチューバの音が聞こえたり、他の教室からトランペットの高らかな音が聞こえたりしている。
それらの音が、やけに煩く聞こえた。
「うーん、まあ、クラスの空気が悪くなるのは嫌だけど、私や琴乃ちゃんに被害がなければ良いかな。相川さん達のゴタゴタは、誰かが何とかしてくれるでしょ。私達が出る幕はないと思うよ」
「……まあ、そっか」
涼成くんはやや苦笑気味だった。
二年六組の女王、相川さんの転落は、正直私達地味な三軍には関係ない話。
向こうで起こったトラブルは、向こうだけで解決して欲しいところではある。
グラウンドからは、サッカー部や陸上部だろうか、威勢の良い掛け声が響き渡っている。
体育館の中の様子は見えないが、バスケットボール部やバレーボール部などの不規則な足音やホイッスルの音が聞こえる。
隣の校舎からは、合唱部の澄んだ歌声や放送部の発声練習の声などが聞こえて来る。
そして、隣の教室からはチューバの低く迫力ある音が聞こえる。
放課後の学校は、様々な音が響き合い、賑やかであると私はいつも感じる。
そんな賑やかな音の中、私はユーフォニアムを構え、音を奏る。
現在は部活中なのだ。
今日は個人練習が主なので、こうして一人でユーフォニアムを吹いている。
しかし部活中も、今朝の相川さんと石田さんの喧嘩を思い出してしまう。
私が個人練習で使っている教室が二年六組の教室だからだろうか?
ヘ音記号が書いてあるユーフォニアムの楽譜の音符達を迎えに行くように吹くが、いつもより集中出来ていないことが自分でも分かる。
私はふうっと一呼吸つき、一旦ユーフォニアムを教室の床に置いた。
そして、制服のスカートのポケットからスマートフォンを取り出す。
琴乃ちゃんが見せてくれたSNSの『暇つぶし』のアカウントはブラウザからも見ることが出来る。だから何となく開いてみることにした。
相川さんの秘密に関する書き込みで更新は止まっている。
更新日は九月の上旬。新学期が開始してから数日後。
しかし今日の件があり、琴乃ちゃんが見せてくれた時はゼロだったフォロワー数が数人に増えていた。
恐らく二年六組のクラスメイトが『暇つぶし』をフォローしたのだろうか。
今回の相川さんの件で、『暇つぶし』による情報の信憑性が増したのだろう。
「高辻さん、休憩中?」
突然背後から声をかけられ、私は驚いてしまう。
「涼成くん。びっくりした。驚かせないでよ」
私はスマートフォンを机の上に裏返しに置いた。
いつの間にか私が個人練習をしている二年六組の教室に、涼成くんが入って来ていたのだ。
「ごめんごめん」
涼成くんは申し訳なさそうに眉を八の字にしていた。
ちなみに、涼成くんは二年五組の教室で個人練習をしていたようだ。
確かに、チューバの音が聞こえた反対側の教室からは、コントラバスの音が聞こえていた。
「コントラバスも休憩中?」
「うん、まあ。ちょっと指が痛くなって来たから」
涼成くんは左手を握ったり開いたりしていた。
吹奏楽で唯一の弦楽器、コントラバス。
弦を左手で押さえるので痛くなることもあるらしい。
金管楽器の私からしたらよく分からない感覚ではある。
だけど、涼成くんも私達金管楽器の唇を震わせて吹く感覚は分からないだろう。
休憩しないと時々口がおかしくなりそうだ。
顎関節症になるリスクだってある。
「そういえばさ、高辻さんのユーフォって学校のじゃなかったよね?」
思い出したかのような口調の涼成くん。
その話は入部当初にもしたような気がした。
「うん。中学の時、親が買ってくれた」
吹奏楽部の大多数は、基本的に学校の楽器を借りている。
フルートやクラリネットのように小型の楽器担当の人達の中には、自前の楽器を持っている人もいる。
床に置いた銀色に輝くユーフォニアムは、学校から借りている楽器ではない。
中学生になり、吹奏楽部に入部してユーフォニアム担当になった時、私の親が買ったくれた楽器だ。
「そのユーフォ、値段どのくらいしたの?」
「え? 聞いてどうするの?」
どうして涼成くんが私のユーフォニアムの値段を聞くのだろうか。
「いや、何となく気になって」
涼成くんは私のユーフォニアムに目を向けている。
銀色のユーフォニアムには、涼成くんの立ち姿が映っていた。
「えっと、確か三十万円くらいだった気がするけど」
私は中学時代に両親と楽器屋に行った時の記憶を掘り起こした。
「おお、やっぱ結構するな。相川さんの偽ブランド品が本物だった場合とそのユーフォ、どっちが高いんだろう?」
涼成くんはクスッと笑っている。
「ええ、その話?」
思いがけず相川さんの話題になったので、私は苦笑してしまう。
「高辻さんはさ、俺達のクラスがどうなるのかとか、不安?」
声のトーンは変わらず、冷静そうな表情の涼成くんだ。
相変わらずグラウンドからは、サッカー部や陸上部の威勢の良い掛け声が聞こえる。
体育館からのバスケットボール部やバレーボール部の足音やホイッスルも相変わらず。
隣の校舎は放送部が休憩に入ったようで、合唱部の澄んだ歌声のみが聞こえる。
そして隣の教室からチューバの音が聞こえたり、他の教室からトランペットの高らかな音が聞こえたりしている。
それらの音が、やけに煩く聞こえた。
「うーん、まあ、クラスの空気が悪くなるのは嫌だけど、私や琴乃ちゃんに被害がなければ良いかな。相川さん達のゴタゴタは、誰かが何とかしてくれるでしょ。私達が出る幕はないと思うよ」
「……まあ、そっか」
涼成くんはやや苦笑気味だった。
二年六組の女王、相川さんの転落は、正直私達地味な三軍には関係ない話。
向こうで起こったトラブルは、向こうだけで解決して欲しいところではある。



