「おい、また『暇つぶし』の書き込みが更新されてるぞ」
クラスの中心で相川さん、石田さん、宮野くんの修羅場が繰り広げられる中、クラスの誰かがそう言った。
「ええ? また?」
「あ。本当だ! 更新されてる!」
「しかも更新時間見てみろよ! ついさっきになってるぞ!」
クラスメイト達がスマートフォンを確認しながらざわざわとしている。
「あ、優子ちゃん、これ」
琴乃ちゃんが私に更新されたという『暇つぶし』の書き込みを見せてくれた。
@himatsubushi
現在絶賛渦中の中にいるM野、実は中学時代の彼女を妊娠させたことがある
避妊してなかったんだね
I田は大丈夫?
妊娠してない?
@himatsubushi
Y岡ネタもあるよ
今絶賛ヒーロー気取りだけどY岡、裏垢で他人の悪口書き込みまくり
M野、A川、I田だけでなくクラスや部活の奴の悪口も書き込んでる
これがY岡の裏垢
@○○○×××
更新時間を確認すると、ついさっきになっている。
確かに先程クラスメイトが言った通りである。
「え!? マジかよ!? 宮野が中学時代の彼女を妊娠させてたって!」
「嘘! 最低!」
「相手の子マジで可哀想!」
「宮野くんって顔だけじゃん! もう今回の件で見損なった!」
男子生徒の声に、女子生徒がそう反応した。
学生時代の妊娠は女子生徒にとってかなりセンセーショナルな内容らしい。
特に女子生徒達は宮野くんに軽蔑の目を向けていた。
「宮野、避妊しなかったのかよ」
「同じ男として何か恥ずかしい」
男子生徒の中にはそれなりの倫理観を持ち合わせている人もいるようだ。
「てか吉岡……裏垢酷過ぎるな」
吉岡くんの裏垢を見ている人もいるようだ。
確かに『暇つぶし』の書き込みにユーザーIDが貼り付けられているからクリックしたら吉岡くんの裏垢に飛べるのだろう。
「うわ! 吉岡! 俺のこともこんなふうに書いてんのかよ!」
「吉岡くん、イメージダウン」
吉岡くんへの印象もかなり悪くなっていた。
どうやらクラスのみんなは『暇つぶし』の書き込みを信じ込んでいるらしい。
「宮野くん、クズじゃん。吉岡くんも、思ってた人と違った」
そう呟いたのは澤村さんだ。
澤村さんが宮野くんに向ける目には完全に軽蔑が含まれている。
そういえば、四月くらいの時、澤村さんって宮野くんに何というか……憧れというか、好意……みたいな視線を送っていた気がする。
私はふとそのことを思い出した。
宮野くんと相川さんが付き合い始めた当初も、多分澤村さんは宮野くんに対して好意があったと思う。
でも、今回の二股の件でどうやら澤村さんの気持ちは冷めたようだ。
その証拠に、吉岡くんが今朝登校してきた時、媚びるような上目遣いをしていた。
恐らく乗り換えようとしているのだろう。
しかし、吉岡くんがSNSの裏垢で相川さん、石田さん、宮野くん以外にもクラスメイトやサッカー部の部員の悪口を書き込みまくっていたという事実に、澤村さんは吉岡くんへの気持ちも冷めたようだ。
「てか『暇つぶし』って誰なんだよ!? このクラスにいるんだろ!? よくも俺のこと散々好き勝手書いてくれたな!」
「翔、自分のこと棚にあげるとか見苦しい」
宮野くんの怒りに、相川さんは冷笑気味だ。
「翔、妊娠させたとか相手の子可哀想! 避妊しないとか終わってるし!」
石田さんは宮野くんを責め立てている。
クラスメイト達が大勢いる場所で、体の関係があったことを暴露するのはいかがなものかと思ったけれど、倫理観や正義感のようなものは持ち合わせているらしい。
何というか、石田さんは色々とチグハグな印象だ。
「それにさ、智樹も愛梨のことめちゃくちゃ酷く書いてんじゃん! 今すぐ消してよ! あ、別に理奈に対する書き込みは消さなくて良いからさ!」
石田さんの怒号は吉岡くんにも向かう。
「はあ! 愛梨、自分のことばっか! 智樹、あたしのも消しなさいよ!」
石田さんの言葉に苛立ちながら突っ込む相川さん。
女子二人の怒鳴り声に、私の隣で琴乃ちゃんはビクリと肩を震わせている。
「智樹、俺だけじゃなくて他の奴らのこともこんな酷く書いてんだな!」
宮野くんも、鋭い声で吉岡くんを責め立てる。
「こっちだって色々とストレス溜まってたんだよ! でもやってることは彼女妊娠させた翔よりマシだろ!」
負けじと言い返す吉岡くんだ。
「智樹、もう一度言ってみろ! 妊娠なんて向こうが勝手にしただけだろ! 俺は関係ない!」
ついに宮野くんの最低な本性が露わになった。
正直、私も軽蔑する。
男としてゴミだと思う。
相川さんと石田さんも完全に引いている。
「うわ、翔、お前頭おかしいんじゃないか? 病院行って来いよ」
心底軽蔑した表情の吉岡くん。
「智樹……お前……!」
宮野くんはブチ切れたようで、吉岡くんに殴りかかった。
吉岡くんが床に倒れ込むのと同時に、机もガタンと音を立てて倒れた。
クラスメイトの女子達が、悲鳴をあげる。
琴乃ちゃんもビクリとし、泣きそうな表情になっていた。
私は琴乃ちゃんの背中をさする。
吉岡くんも負けじと立ち上がり、宮野くんを殴り返す。
教室の机や椅子は、激しく音を立てて倒れる。
机の中に入っていた誰かの教科書が雪崩のように床に落ちた。
「ちょ! 翔と智樹、やり過ぎだって!」
目の前で殴り合いの喧嘩に発展して、石田さんは悲鳴を上げている。
「うわ、愛梨、今更良い子ぶってんの?」
そんな石田さんを嘲笑し、宮野くんと吉岡くんの殴り合いを冷たい目で見ている相川さん。
「煩い理奈! あんたのそういうところがずっと気に入らなかったの!」
石田さんはそんな相川さんを怒鳴りつけ、胸ぐらを掴んだ。
こちらも殴り合いとまではいかないが、小競り合いになりつつある。
「え……これヤバいよな」
「とにかく、先生呼びに行こう!」
収集が付かなくなり、二年六組はパニック状態だ。
「優子ちゃん……」
琴乃ちゃんは泣きそうになりながら私の制服の袖を掴んでいる。
「琴乃ちゃん、大丈夫。大丈夫だから」
私は琴乃ちゃんの背中をもう一度さすり、彼女を落ち着けた。
その時、ふと涼成くんと目が合う。
涼成くんは眉を八の字にして、肩をすくめて軽くため息をついていた。
きっと彼も、クラスのこの様子に困っているのだろう。
スクールカースト一軍の喧嘩やトラブルなんて、私達三軍にとっては別世界。
影響はないはずだ。
私達の周囲の平和が守られたら、それで良い。
教室の隅っこで、私はただクラスの中心にいる人達のトラブルを傍観するだけ。
あの中に入ってどうこうすることは出来ない。
クラスの中心で相川さん、石田さん、宮野くんの修羅場が繰り広げられる中、クラスの誰かがそう言った。
「ええ? また?」
「あ。本当だ! 更新されてる!」
「しかも更新時間見てみろよ! ついさっきになってるぞ!」
クラスメイト達がスマートフォンを確認しながらざわざわとしている。
「あ、優子ちゃん、これ」
琴乃ちゃんが私に更新されたという『暇つぶし』の書き込みを見せてくれた。
@himatsubushi
現在絶賛渦中の中にいるM野、実は中学時代の彼女を妊娠させたことがある
避妊してなかったんだね
I田は大丈夫?
妊娠してない?
@himatsubushi
Y岡ネタもあるよ
今絶賛ヒーロー気取りだけどY岡、裏垢で他人の悪口書き込みまくり
M野、A川、I田だけでなくクラスや部活の奴の悪口も書き込んでる
これがY岡の裏垢
@○○○×××
更新時間を確認すると、ついさっきになっている。
確かに先程クラスメイトが言った通りである。
「え!? マジかよ!? 宮野が中学時代の彼女を妊娠させてたって!」
「嘘! 最低!」
「相手の子マジで可哀想!」
「宮野くんって顔だけじゃん! もう今回の件で見損なった!」
男子生徒の声に、女子生徒がそう反応した。
学生時代の妊娠は女子生徒にとってかなりセンセーショナルな内容らしい。
特に女子生徒達は宮野くんに軽蔑の目を向けていた。
「宮野、避妊しなかったのかよ」
「同じ男として何か恥ずかしい」
男子生徒の中にはそれなりの倫理観を持ち合わせている人もいるようだ。
「てか吉岡……裏垢酷過ぎるな」
吉岡くんの裏垢を見ている人もいるようだ。
確かに『暇つぶし』の書き込みにユーザーIDが貼り付けられているからクリックしたら吉岡くんの裏垢に飛べるのだろう。
「うわ! 吉岡! 俺のこともこんなふうに書いてんのかよ!」
「吉岡くん、イメージダウン」
吉岡くんへの印象もかなり悪くなっていた。
どうやらクラスのみんなは『暇つぶし』の書き込みを信じ込んでいるらしい。
「宮野くん、クズじゃん。吉岡くんも、思ってた人と違った」
そう呟いたのは澤村さんだ。
澤村さんが宮野くんに向ける目には完全に軽蔑が含まれている。
そういえば、四月くらいの時、澤村さんって宮野くんに何というか……憧れというか、好意……みたいな視線を送っていた気がする。
私はふとそのことを思い出した。
宮野くんと相川さんが付き合い始めた当初も、多分澤村さんは宮野くんに対して好意があったと思う。
でも、今回の二股の件でどうやら澤村さんの気持ちは冷めたようだ。
その証拠に、吉岡くんが今朝登校してきた時、媚びるような上目遣いをしていた。
恐らく乗り換えようとしているのだろう。
しかし、吉岡くんがSNSの裏垢で相川さん、石田さん、宮野くん以外にもクラスメイトやサッカー部の部員の悪口を書き込みまくっていたという事実に、澤村さんは吉岡くんへの気持ちも冷めたようだ。
「てか『暇つぶし』って誰なんだよ!? このクラスにいるんだろ!? よくも俺のこと散々好き勝手書いてくれたな!」
「翔、自分のこと棚にあげるとか見苦しい」
宮野くんの怒りに、相川さんは冷笑気味だ。
「翔、妊娠させたとか相手の子可哀想! 避妊しないとか終わってるし!」
石田さんは宮野くんを責め立てている。
クラスメイト達が大勢いる場所で、体の関係があったことを暴露するのはいかがなものかと思ったけれど、倫理観や正義感のようなものは持ち合わせているらしい。
何というか、石田さんは色々とチグハグな印象だ。
「それにさ、智樹も愛梨のことめちゃくちゃ酷く書いてんじゃん! 今すぐ消してよ! あ、別に理奈に対する書き込みは消さなくて良いからさ!」
石田さんの怒号は吉岡くんにも向かう。
「はあ! 愛梨、自分のことばっか! 智樹、あたしのも消しなさいよ!」
石田さんの言葉に苛立ちながら突っ込む相川さん。
女子二人の怒鳴り声に、私の隣で琴乃ちゃんはビクリと肩を震わせている。
「智樹、俺だけじゃなくて他の奴らのこともこんな酷く書いてんだな!」
宮野くんも、鋭い声で吉岡くんを責め立てる。
「こっちだって色々とストレス溜まってたんだよ! でもやってることは彼女妊娠させた翔よりマシだろ!」
負けじと言い返す吉岡くんだ。
「智樹、もう一度言ってみろ! 妊娠なんて向こうが勝手にしただけだろ! 俺は関係ない!」
ついに宮野くんの最低な本性が露わになった。
正直、私も軽蔑する。
男としてゴミだと思う。
相川さんと石田さんも完全に引いている。
「うわ、翔、お前頭おかしいんじゃないか? 病院行って来いよ」
心底軽蔑した表情の吉岡くん。
「智樹……お前……!」
宮野くんはブチ切れたようで、吉岡くんに殴りかかった。
吉岡くんが床に倒れ込むのと同時に、机もガタンと音を立てて倒れた。
クラスメイトの女子達が、悲鳴をあげる。
琴乃ちゃんもビクリとし、泣きそうな表情になっていた。
私は琴乃ちゃんの背中をさする。
吉岡くんも負けじと立ち上がり、宮野くんを殴り返す。
教室の机や椅子は、激しく音を立てて倒れる。
机の中に入っていた誰かの教科書が雪崩のように床に落ちた。
「ちょ! 翔と智樹、やり過ぎだって!」
目の前で殴り合いの喧嘩に発展して、石田さんは悲鳴を上げている。
「うわ、愛梨、今更良い子ぶってんの?」
そんな石田さんを嘲笑し、宮野くんと吉岡くんの殴り合いを冷たい目で見ている相川さん。
「煩い理奈! あんたのそういうところがずっと気に入らなかったの!」
石田さんはそんな相川さんを怒鳴りつけ、胸ぐらを掴んだ。
こちらも殴り合いとまではいかないが、小競り合いになりつつある。
「え……これヤバいよな」
「とにかく、先生呼びに行こう!」
収集が付かなくなり、二年六組はパニック状態だ。
「優子ちゃん……」
琴乃ちゃんは泣きそうになりながら私の制服の袖を掴んでいる。
「琴乃ちゃん、大丈夫。大丈夫だから」
私は琴乃ちゃんの背中をもう一度さすり、彼女を落ち着けた。
その時、ふと涼成くんと目が合う。
涼成くんは眉を八の字にして、肩をすくめて軽くため息をついていた。
きっと彼も、クラスのこの様子に困っているのだろう。
スクールカースト一軍の喧嘩やトラブルなんて、私達三軍にとっては別世界。
影響はないはずだ。
私達の周囲の平和が守られたら、それで良い。
教室の隅っこで、私はただクラスの中心にいる人達のトラブルを傍観するだけ。
あの中に入ってどうこうすることは出来ない。



