「あ、おはよう、優子ちゃん」
「おはよう、琴乃ちゃん」
朝、教室に入ると眼鏡をかけている友人の琴乃ちゃん――小野寺琴乃が声をかけてくれた。
「今日も暑いね、優子ちゃん」
琴乃ちゃんは、へにゃりと笑っている。
いつも通りの琴乃ちゃんだ。
「うん。駅から学校に来るまででもう汗だく。もう九月中旬なのに」
私は駅から学校までの道のりで感じた暑さを思い出し、ため息をつく。
夏休みが終わり、もう九月中旬だというのに茹だるような暑さ。
正直勘弁して欲しい。
この暑さのせいか、子供を心配する保護者から県の教育委員会へ要望があったらしい。よって最近では私達が通っているような県立高校にもクーラーが設置された。そのお陰で教室内は涼しくなっているので大分助かっている。教育委員会に要望の連絡をしてくれた顔も知らない保護者の方に感謝だ。
私はタオルで汗を拭、スクールバッグから汗拭きシートを取り出す。
汗拭きシートで体の汗を拭いたお陰か、体が少しだけ爽やかな香りになった気がした。
ふと、琴乃ちゃんのスクールバッグが目に入る。
琴乃ちゃんが好きだというゲームのキャラクターのキーホルダーがいくつも付けてあり、賑やかなスクールバッグだ。
私のスクールバッグは旅行先で買ったキーホルダーを一つ付けているだけなので、琴乃ちゃんのスクールバッグと比べると非常に対照的だろう。
その中に、私が見たことのないキーホルダーが増えていた。
「あれ? 琴乃ちゃん、スクバのキーホルダー、また増えてない?」
「よくぞ気付いてくれました優子ちゃん! これね、新キャラなの! ビジュが良くて一目惚れしちゃってさぁ!」
琴乃ちゃんは前のめりになりながら話し始める。
琴乃ちゃんの声は、先程よりも明るく弾んでいた。
琴乃ちゃんいわく、最近ゲーム内に登場したキャラクターらしい。
非常に好みの見た目だったらしく、キーホルダーを見つけ次第すぐに買ったそうだ。
普段は大人しいけれど、好きなことの話になると途端に饒舌になるのが琴乃ちゃん。
おまけに私は琴乃ちゃんの話を拒否せずに最後まで聞く。だから琴乃ちゃんは嬉々として私に好きなゲームのキャラクターの話をしてくれる。
私としても、楽しそうな琴乃ちゃんを見ることは好きだ。
「おはよー!」
教室内に、明るくハキハキとした声が響いた。
相川さん――相川理奈が登校して来たのだ。
華やかな見た目で、アイドルや女優と言われても信じてしまう程。
二年に進級した当初、登校中にスカウトされたという話もあるらしい。
本当かどうかは分からないが、相川さんの見た目ならあり得そうだとは思う。
テレビの向こう側にいてもおかしくはない見た目なのだ。
「おはよ、理奈! ちょっと聞いて聞いて! 朝から電車で超イケメンな大学生っぽい人見かけて愛梨めちゃくちゃテンション上がったんだけど!」
「えー! 愛梨、写真とか撮ってない!?」
相川さんと石田さん――石田愛梨が話し始めると、教室内は一気に賑やかになる。
石田さんは気が強そうな顔立ちだが、相川さんと並んでも釣り合いが取れる。
相川さんと石田さん。クラス内ではツートップの美少女だ。
「おいおい理奈、彼氏の俺を差し置いて浮気かよ?」
「違うって翔。目の保養になるかなって思って」
「そうだよ翔くん。それに、こう見えて理奈は一途だから信じてあげて。親友の愛梨が保証するからさぁ」
相川さんと石田さんの会話に加わった男子生徒は宮野くん――宮野翔。
バスケットボール部のエースで部長の宮野くんは高身長で爽やか系イケメン。だからクラス内だけでなく、全学年の女子から人気があるのではないかと言われている。
ちなみに、宮野くんと相川さんは六月くらいから付き合い始めたらしい。
それにより校内の女子生徒はかなり落胆したとかしていないとか。
しかし、美男美女でお似合いのカップルとも言われている。
落胆した女子生徒達は、相川さんレベルの美人なら納得だと言っているようであった。
もちろん私は別に宮野くんには興味がない。恐らく琴乃ちゃんもだろう。
「おはよう、みんな! 何か楽しそうだな!」
そこへ入って来たのは吉岡くん――吉岡智樹。非常に元気が良く、明るい声だ。
サッカー部エースの彼も結構イケメンで明るいので女子から人気があるだろう。
声が大きいのはサッカー部だからだろうか?
宮野くんが相川さんと付き合い始めて以降、彼女がいない吉岡くんにアプローチをする女子生徒は多くなっている気がする。
やはり見た目から入っているのだろう。
ちなみに私も琴乃ちゃんも、宮野くん同様吉岡くんにも興味はない。
恋愛とかはあまり考えていないのだ。
「あれ? ねえ理奈、そのポーチ新しいよね?」
石田さんは、相川さんが持っていたポーチを興味津々な様子で見ている。
遠目からでも分かるが、煌びやかで豪華そうなポーチだ。
「愛梨、気付いた? 実はこれ、フランスのブランドの新作なんだー」
相川さんは石田さん達にブランドの新作だというポーチを自慢げに見せる。
正直私はブランドにはそこまで興味がない。だからブランド品を周囲に見せびらかす気持ちがあまり分からない。おまけにフランスのブランドは色々あるからどれのことを示しているのかも分からない。
「えー、めっちゃお洒落! 愛梨も欲しい!」
心底羨ましそうな表情の石田さん。うっとりとしたようにため息をついている。
「てか理奈さ、それ以外にもブランドのやつ持ってるよな? この前のデートの時の鞄もさ」
宮野くんは男子だからだろうか、石田さんほど相川さんのブランド品を羨んではいない。
相川さんのポーチは明らかにデザインが女性向けなので、宮野くんには刺さらないのだろう。
「やっぱり理奈って金持ちだよな。羨ましいぜ」
吉岡くんは相川さんの家の経済事情の方が羨ましいみたいだ。
「本当それ。家も写真で見せてもらったけど豪邸だったじゃん。愛梨もあんな家住みたいなぁ」
石田さん、宮野くん、吉岡くんは相川さんを褒めたり羨んだりしている。
相川理奈、石田愛梨、宮野翔、吉岡智樹。この四人が私達二年六組の中心にいる人物。いわゆる陽キャでスクールカースト一軍と言われる。男子の一番手は宮野くんで、女子の一番手は相川さん。彼らがこのクラスの王様、女王様なのだ。
「小野寺さん、高辻さん」
私と琴乃ちゃんが話しているところに、同じ二年六組のクラスメイトがやって来た。
彼女は澤村さん――澤村ひまり。
澤村さんは相川さんや石田さんと比べると少し地味だが、それでもかなり美人な方に分類されるのではないかと思っている。
清楚系美人だ。
「澤村さん、どうしたの?」
琴乃ちゃんが不思議そうにきょとんとしている。
「うん。部活のことだけどさ」
澤村さんがそう切り出した。
「来週の駅ビルイベント、集合時間が変更になったみたいなんだ。私達フルートはパート内で連絡したけど、クラリネットとか低音パートとか、他のパートは連絡行ってるかなってちょっと不安になって」
控えめで可愛らしい声の澤村さんだ。
「ああ、うん。クラリネットもその連絡来たよ。優子ちゃん達低音パートは?」
「低音も連絡あったから大丈夫」
私はいつもの声のトーンで答える。
「そっか。じゃあ安心だね」
私達の答えに澤村さんは満足したみたいだ。
澤村さんは確認を終えるとクラスで仲の良いメンバーの所へ戻って行った。
私、琴乃ちゃん、澤村さんは吹奏楽部に所属している。
私はユーフォニアム担当で、琴乃ちゃんはバスクラリネット担当。そして、澤村さんはフルート担当だ。
フルートは見た目が美人な澤村さんに似合う楽器だなと思う。
ふと澤村さん達のグループを見ると、一軍の人達程派手さ、華やかさはないがそれなりに見た目が整っている人達が多い。
清楚系の人達が多い印象だ。
彼女達はスクールカースト二軍に位置するだろう。
一方私はまず、見た目が地味だ。私は美人ともてはやされたこともなければ、不細工と蔑まれたこともない平凡で地味な見た目。多分それは琴乃ちゃんも同じだろう。
私は必要な場でなければ特に自己主張はせず大人しくしているし、琴乃ちゃんも好きなこと意外に関しては無口で大人しい方。
私達は完全にスクールカースト三軍に位置している。
吹奏楽部で担当している楽器も、澤村さんのようなメジャーなフルートではない。
私は地味であまり人気がないと言われている中低音域のユーフォニアム担当だし、琴乃ちゃんもクラリネットパートに所属しているとはいえあまりメジャーではない低音域のバスクラリネット担当だ。ある意味地味な私達にぴったりかもしれない。
別に一軍の子達みたいに中心で目立ちたいとは思わない。
ただ私は教室の隅の方で、華やかさとは無縁だとしても平和で穏やかに過ごしていたいと思っている。
まあ、少しくらい刺激が欲しいとは思ってしまうこともあるけれど。
「おはよう、琴乃ちゃん」
朝、教室に入ると眼鏡をかけている友人の琴乃ちゃん――小野寺琴乃が声をかけてくれた。
「今日も暑いね、優子ちゃん」
琴乃ちゃんは、へにゃりと笑っている。
いつも通りの琴乃ちゃんだ。
「うん。駅から学校に来るまででもう汗だく。もう九月中旬なのに」
私は駅から学校までの道のりで感じた暑さを思い出し、ため息をつく。
夏休みが終わり、もう九月中旬だというのに茹だるような暑さ。
正直勘弁して欲しい。
この暑さのせいか、子供を心配する保護者から県の教育委員会へ要望があったらしい。よって最近では私達が通っているような県立高校にもクーラーが設置された。そのお陰で教室内は涼しくなっているので大分助かっている。教育委員会に要望の連絡をしてくれた顔も知らない保護者の方に感謝だ。
私はタオルで汗を拭、スクールバッグから汗拭きシートを取り出す。
汗拭きシートで体の汗を拭いたお陰か、体が少しだけ爽やかな香りになった気がした。
ふと、琴乃ちゃんのスクールバッグが目に入る。
琴乃ちゃんが好きだというゲームのキャラクターのキーホルダーがいくつも付けてあり、賑やかなスクールバッグだ。
私のスクールバッグは旅行先で買ったキーホルダーを一つ付けているだけなので、琴乃ちゃんのスクールバッグと比べると非常に対照的だろう。
その中に、私が見たことのないキーホルダーが増えていた。
「あれ? 琴乃ちゃん、スクバのキーホルダー、また増えてない?」
「よくぞ気付いてくれました優子ちゃん! これね、新キャラなの! ビジュが良くて一目惚れしちゃってさぁ!」
琴乃ちゃんは前のめりになりながら話し始める。
琴乃ちゃんの声は、先程よりも明るく弾んでいた。
琴乃ちゃんいわく、最近ゲーム内に登場したキャラクターらしい。
非常に好みの見た目だったらしく、キーホルダーを見つけ次第すぐに買ったそうだ。
普段は大人しいけれど、好きなことの話になると途端に饒舌になるのが琴乃ちゃん。
おまけに私は琴乃ちゃんの話を拒否せずに最後まで聞く。だから琴乃ちゃんは嬉々として私に好きなゲームのキャラクターの話をしてくれる。
私としても、楽しそうな琴乃ちゃんを見ることは好きだ。
「おはよー!」
教室内に、明るくハキハキとした声が響いた。
相川さん――相川理奈が登校して来たのだ。
華やかな見た目で、アイドルや女優と言われても信じてしまう程。
二年に進級した当初、登校中にスカウトされたという話もあるらしい。
本当かどうかは分からないが、相川さんの見た目ならあり得そうだとは思う。
テレビの向こう側にいてもおかしくはない見た目なのだ。
「おはよ、理奈! ちょっと聞いて聞いて! 朝から電車で超イケメンな大学生っぽい人見かけて愛梨めちゃくちゃテンション上がったんだけど!」
「えー! 愛梨、写真とか撮ってない!?」
相川さんと石田さん――石田愛梨が話し始めると、教室内は一気に賑やかになる。
石田さんは気が強そうな顔立ちだが、相川さんと並んでも釣り合いが取れる。
相川さんと石田さん。クラス内ではツートップの美少女だ。
「おいおい理奈、彼氏の俺を差し置いて浮気かよ?」
「違うって翔。目の保養になるかなって思って」
「そうだよ翔くん。それに、こう見えて理奈は一途だから信じてあげて。親友の愛梨が保証するからさぁ」
相川さんと石田さんの会話に加わった男子生徒は宮野くん――宮野翔。
バスケットボール部のエースで部長の宮野くんは高身長で爽やか系イケメン。だからクラス内だけでなく、全学年の女子から人気があるのではないかと言われている。
ちなみに、宮野くんと相川さんは六月くらいから付き合い始めたらしい。
それにより校内の女子生徒はかなり落胆したとかしていないとか。
しかし、美男美女でお似合いのカップルとも言われている。
落胆した女子生徒達は、相川さんレベルの美人なら納得だと言っているようであった。
もちろん私は別に宮野くんには興味がない。恐らく琴乃ちゃんもだろう。
「おはよう、みんな! 何か楽しそうだな!」
そこへ入って来たのは吉岡くん――吉岡智樹。非常に元気が良く、明るい声だ。
サッカー部エースの彼も結構イケメンで明るいので女子から人気があるだろう。
声が大きいのはサッカー部だからだろうか?
宮野くんが相川さんと付き合い始めて以降、彼女がいない吉岡くんにアプローチをする女子生徒は多くなっている気がする。
やはり見た目から入っているのだろう。
ちなみに私も琴乃ちゃんも、宮野くん同様吉岡くんにも興味はない。
恋愛とかはあまり考えていないのだ。
「あれ? ねえ理奈、そのポーチ新しいよね?」
石田さんは、相川さんが持っていたポーチを興味津々な様子で見ている。
遠目からでも分かるが、煌びやかで豪華そうなポーチだ。
「愛梨、気付いた? 実はこれ、フランスのブランドの新作なんだー」
相川さんは石田さん達にブランドの新作だというポーチを自慢げに見せる。
正直私はブランドにはそこまで興味がない。だからブランド品を周囲に見せびらかす気持ちがあまり分からない。おまけにフランスのブランドは色々あるからどれのことを示しているのかも分からない。
「えー、めっちゃお洒落! 愛梨も欲しい!」
心底羨ましそうな表情の石田さん。うっとりとしたようにため息をついている。
「てか理奈さ、それ以外にもブランドのやつ持ってるよな? この前のデートの時の鞄もさ」
宮野くんは男子だからだろうか、石田さんほど相川さんのブランド品を羨んではいない。
相川さんのポーチは明らかにデザインが女性向けなので、宮野くんには刺さらないのだろう。
「やっぱり理奈って金持ちだよな。羨ましいぜ」
吉岡くんは相川さんの家の経済事情の方が羨ましいみたいだ。
「本当それ。家も写真で見せてもらったけど豪邸だったじゃん。愛梨もあんな家住みたいなぁ」
石田さん、宮野くん、吉岡くんは相川さんを褒めたり羨んだりしている。
相川理奈、石田愛梨、宮野翔、吉岡智樹。この四人が私達二年六組の中心にいる人物。いわゆる陽キャでスクールカースト一軍と言われる。男子の一番手は宮野くんで、女子の一番手は相川さん。彼らがこのクラスの王様、女王様なのだ。
「小野寺さん、高辻さん」
私と琴乃ちゃんが話しているところに、同じ二年六組のクラスメイトがやって来た。
彼女は澤村さん――澤村ひまり。
澤村さんは相川さんや石田さんと比べると少し地味だが、それでもかなり美人な方に分類されるのではないかと思っている。
清楚系美人だ。
「澤村さん、どうしたの?」
琴乃ちゃんが不思議そうにきょとんとしている。
「うん。部活のことだけどさ」
澤村さんがそう切り出した。
「来週の駅ビルイベント、集合時間が変更になったみたいなんだ。私達フルートはパート内で連絡したけど、クラリネットとか低音パートとか、他のパートは連絡行ってるかなってちょっと不安になって」
控えめで可愛らしい声の澤村さんだ。
「ああ、うん。クラリネットもその連絡来たよ。優子ちゃん達低音パートは?」
「低音も連絡あったから大丈夫」
私はいつもの声のトーンで答える。
「そっか。じゃあ安心だね」
私達の答えに澤村さんは満足したみたいだ。
澤村さんは確認を終えるとクラスで仲の良いメンバーの所へ戻って行った。
私、琴乃ちゃん、澤村さんは吹奏楽部に所属している。
私はユーフォニアム担当で、琴乃ちゃんはバスクラリネット担当。そして、澤村さんはフルート担当だ。
フルートは見た目が美人な澤村さんに似合う楽器だなと思う。
ふと澤村さん達のグループを見ると、一軍の人達程派手さ、華やかさはないがそれなりに見た目が整っている人達が多い。
清楚系の人達が多い印象だ。
彼女達はスクールカースト二軍に位置するだろう。
一方私はまず、見た目が地味だ。私は美人ともてはやされたこともなければ、不細工と蔑まれたこともない平凡で地味な見た目。多分それは琴乃ちゃんも同じだろう。
私は必要な場でなければ特に自己主張はせず大人しくしているし、琴乃ちゃんも好きなこと意外に関しては無口で大人しい方。
私達は完全にスクールカースト三軍に位置している。
吹奏楽部で担当している楽器も、澤村さんのようなメジャーなフルートではない。
私は地味であまり人気がないと言われている中低音域のユーフォニアム担当だし、琴乃ちゃんもクラリネットパートに所属しているとはいえあまりメジャーではない低音域のバスクラリネット担当だ。ある意味地味な私達にぴったりかもしれない。
別に一軍の子達みたいに中心で目立ちたいとは思わない。
ただ私は教室の隅の方で、華やかさとは無縁だとしても平和で穏やかに過ごしていたいと思っている。
まあ、少しくらい刺激が欲しいとは思ってしまうこともあるけれど。



