うちの子、ちょっと天然なところがあってマイペースで、他の人のペースにうまくついて行けないんですよね。そこをすみれちゃんはよく付き合ってくれました。本当に優しくていい子です。倫とは親友だったと思います。
 私もね、学年が変わる頃にはいつも学校に、倫とすみれちゃんを同じクラスにしてくれるよう、お願いしていたんですよ。
 
 すみれちゃんは毎日倫を家まで送り届けてくれてました。うちの子、すぐ寄り道したり遠回りしちゃって、すんなり帰ってこないんです。けれどすみれちゃんが側についていてくれるようになってから、その心配がなくなりました。
 たまに遅くなることもありましたが、すみれちゃんはいつも最後まで倫に根気よく付き合ってくれてたみたいで。最終的には倫を家まで連れて帰ってきてくれました。
 本当にすみれちゃんは、面倒見が良くて優しいお嬢さんです。親御さんも、上手に育てなさったんですね。

 あぁ、でも、半年くらい前に一度だけ、用事があると言って倫を放り出したことがありましたね。あの時は倫が夜八時になっても帰ってこなくて、学校を巻き込んでの大騒ぎになりました。幸い、河川敷で無事に見つかりましたけど。
 すぐに学校側が対応してくれたのはありがたかったですね。

 倫は気まぐれだから、すぐに行きたいところに行っちゃうんです。小さい頃なんて、買い物に連れて行くだけで一仕事でした。レジで会計をしている隙に、スーパーから飛び出してしまって、危うく車に轢かれかけたこともあったんですよ。
 そんなあの子に根気よく付き合ってくれるのは、すみれちゃんだけだったんです。すみれちゃんが倫の側にいてくれるようになってからは、私も気持ちの余裕が出来ました。河川敷事件の翌日からは、前のように倫を家まで送ってくれるようになりましたしね。

 せっかくすみれちゃんと同じA高校に合格出来て、これからまた三年間仲良くしてもらえると安心していたのに。
 本当にね、すみれちゃんがA高校を受けると聞いた時は、もう倫と仲良くしてくれないのかなぁ、って悲しくなったんですよ。なんだか、裏切られたような気持にもなりましたね。

 だけど担任の先生が、A高校には素敵な制度があると教えてくれて。それもあって、すみれちゃんを推薦したんですって。
 普通に受験したら、A高校は倫の偏差値じゃとてもじゃないけど入れない学校です。だけど先生が特別推薦枠を倫に勧めてくださったんです。共育プログラムって言うんですって。倫みたいな子と触れ合うことで、生徒が理解を深めるのが目的らしくて。こんな素晴らしい制度があったんですね。

 だけどすみれちゃんはもう……。
 すみれちゃんみたいに倫と親友になってくれる人、あの学校でも出会えるといいんだけど。



―了―