満井さんを叱っている僕を見た生徒がいた?
 はは、まぁ、それはそうでしょう。たとえ満井さんが優しくていい子でも、悪いことをした時はきっちり叱らなくてはなりません。それが教師の役目ですから。普段いい子だからって理由でお目こぼししていたら、贔屓になっちゃいますよね。

 叱った理由ですか? 課せられた役割を責任をもって全うしなかったからです。満井さんは小学校の頃から、マイペースな二藤さんを家まで送り届けることになってるんですよ。二藤さんは目を離すとすぐに、チョロチョロどこかに行ってしまうんで。
 けれどその日の満井さんは父親に言われたとかで、二藤さんを放置して帰ってしまったんです。結果、二藤さんは夜の八時になっても帰宅せず、親御さんから連絡を受けて我々教師が捜索したところ、九時半ごろ河川敷で見つかりました。警察に連絡ですか? していませんよ、大袈裟な。
 まぁ、おかげさまですこぶる元気でしたよ。こっちはとんだ残業になってしまいましたがね。

 そんなこともありましたが、満井さんは基本責任感の強い子ですからね。叱ったのはあれ一度きりです。
 内申点に響くぞ、なんてちょっぴり脅しましたけど、勿論冗談です。彼女は内申点だけで合格できるくらい優秀な子なんで。勿論、成績もいいですが。
 だから、A高校の推薦枠に彼女を選ぶことは、教師全員が納得していました。A高校には特別推薦枠もありますしね。
 二藤さんと二人揃って合格だと伝えた時、満井さんは泣いていましたね。小学校からの親友とまた三年間一緒にいられるのが、よほど嬉しかったのでしょう。高校でも仲のいい二人の姿が見られると思ったんですが。

どうしてあんなことになってしまったんでしょうね……。