夜の白基管轄外縁部、ネオンの雨が降りしきる高速道路。
黒光りする六輪装甲リムジン《神王の座(ディバイン・スローン)》が、時速三百キロを超えて闇を裂く。運転席に座るのは白銀の髪をなびかせたサタリス――大総統にして神王。瞳は金血の奔流で燃えるように輝き、唇には微かな笑みが浮かんでいる。
「――来やがれカス。お前だけは、僕の孤独を理解できるはずだ」
ハンドルを握る指先が震える。勝手に生まれる恋情(呪い)を――ただ一人の男への、狂おしいまでの恋情(呪い)を――ディバインブラスターの引き金に変換していく。
後方、轟音と共に空を裂く純白の光跡。
敷島だった。
白城最高責任者の灰色スーツが夜風に靡き、背に展開した白金の翼が2枚、全開。両腕はすでに千手観音の如く無数のロケットランチャーを展開し、鋼の拳が火薬の匂いを纏って唸る。
「憎悪行為はやめようか?」
声は届かない。いや、届かせたい。
サタリスはアクセルをさらに踏み込む。リムジンのボンネットが開き、白金の砲身《ディバインブラスター・デストラクション》が展開。恋情(呪い)の奔流が、金色の粒子となって高速道路を薙ぐ。
ズドン!
光の槍が敷島の翼を掠め、コンクリートを穿つ。衝撃波で並走していた無人トラックが横転し、火球となって弾けた。
「――ッ!」
敷島は翼を一閃させ、爆風を跳ね除ける。左腕の千手が一斉に火を噴き、誘導ミサイルが二十四発、蛇の如くサタリスを追う。
「とにかく…君の孤独は、僕が全部受け止めるから!」
ミサイルがリムジンの装甲を直撃。爆煙が立ち込めるが、次の瞬間。
煙を裂いて現れたのは、変貌した《神王の座》。車体そのものが白金血の結晶で覆われ、六輪が光の刃に変わる。サタリスは窓から上半身を乗り出し、ディバインブラスターを両手で構えた。
「受け止めろと言うなら――全部、僕の中にしまえ!」
引き金を引く。
勝手に生成される恋情(呪い)が、光となる。
白金の光線が一直線に敷島を貫こうとしたその刹那。
敷島の鋼の拳が、虚空を打ち抜いた。
ディバインブラスターの光が、敷島の拳に吸い込まれる。恋情(呪い)の奔流が、彼の白金の翼をさらに輝かせ、背後の千手全てが白金色の砲身へと変貌していく。
「――君の気持ち、全部、僕が返す!」
敷島が翼を一閃。千手が一斉に咆哮する。
《ディバインブラスター・デストラクション・レプリカ》――千二十四門。
白金色の恋情(呪い)が、今度はサタリスに向かって降り注ぐ。
高速道路が光に呑まれた。
轟音と金色の火花が交錯し、二人の影が一瞬だけ重なる。
「――敷島ァ……!」
「サタリスくん!」
衝突の瞬間、二人は同時に叫んだ。
――お前だけは、僕を支配できる。
――君だけは、僕に支配されてほしい。
光が収まったとき、《神王の座》は大破し、白金の翼は半壊していた。
敷島は崩れ落ちるリムジンの前に降り立ち、血色のネクタイを乱暴に緩める。サタリスは運転席から這い出し、白銀の髪を乱れさせながら、初めて――本当に初めて――笑った。
「追いついたな、この野郎め」
「……まったく……手が焼ける……」
二人は互いに銃口を向け合いながら、ゆっくりと距離を詰める。
恋情(呪い)の残滓が、まだ高速道路を金色に染めている。
この夜、二人の戦いは終わらない。
ただ、形を変えて――もっと深く、もっと熱く、絡み合うだけだ。
金血の呪いは、二人を永遠に繋ぎ止める。
だって、これは恋(呪詛)だから。