血塗れの戦場に、硝煙と鉄の匂いが立ち込める。
敷島は静かに立ち、灰色の軍コートの裾を靡かせながら、両手を広げて語り終えたばかりだった。
その声は低く、優しく、まるで子守唄のように甘く響いていた。
「男同士の愛とは……互いの傷を舐め合い、血を分け合い、同じ炎に焼かれながら、それでも手を離さないことだ。君がどれだけ斧を振り回そうと、僕は君を……この手で、抱きしめてやる」
そう言って、敷島は自分の下腹部をゆっくりと撫でた。
指先が軍コートの布地を滑り、まるでそこに誰かの体温を確かめるように。
白いワイシャツの赤いラインが、血の色のように妖しく光る。
その瞬間。
ガーレブの白い瞳が、獣のように見開かれた。
「……ッ!!!!」
怒りが爆発した。
ガーレブは両手で巨大戦斧を振り上げ、地面を蹴って突進する。

「うおおおおおおおおおおお!!!!」
ガーレブが咆哮した。
両手に握った巨大な戦斧【ブラッド・グレイヴ】を、狂ったようにぶん回す。
斧の刃から血の嵐が吹き荒れ、周囲の死体を一瞬で粉砕する。
突進。
地面を蹴り、血の海を跳ね上げ、白い髪を逆立てながら、ガーレブは敷島に肉薄した。
「死にやがれぇぇぇッ!」
怒りが、パワーに変換される。
金血が暴走し、背中から直接物質化した二門の巨大バズーカ【双胴・滅殺砲《ヘルツヴィー・ブラスター》】が展開。
赤黒い砲口が唸りを上げ、血のエネルギーを凝縮した砲弾を即座に零距離射撃。

ドゴォォォォォォォォン!!!

血の爆炎が戦場を焼き払う。
衝撃波だけで周囲百メートルの兵士が蒸発し、地面がえぐれ、天空に血の竜巻が立つ。
だが、敷島は動かない。
ただ、無表情のまま、右手を軽く掲げただけだった。

──千手。

瞬間。
敷島の背後から、無数の白金の腕が爆誕する。
千本を超える鋼の腕が、血の砲弾をすべて掴み取り、握り潰し、粉々に砕き、そして、逆にガーレブに向かって投げ返した。

「な……!?」
ガーレブが目を見開く。
自分の放った血の砲弾が、千の白金の拳に包まれて、今まさに自分に向かって帰ってくる。

「遅い」
敷島の声が、すぐ耳元で響いた。
いつの間にか、敷島はガーレブの懐に潜り込んでいた。
灰色のコートが翻り、白い軍帽の下の瞳が、優しく、慈悲深く、そして、どこか淫靡にガーレブを見つめている。

「怖い? 君が一番怖いのは、僕に抱かれることじゃなくて……僕に、愛されることだろう?」
敷島の右手が、ガーレブの胸に触れた。
白いワイシャツ越しに、心臓の鼓動を確かめるように。ガーレブは、踵からジェット砲を出して傍から離れるが、敷島は追いかける。

「うるせぇ!!! 戯言は終わりだぁ!!!! 愛だの恋だの知らねぇ!! 僕はただ——お前をぶっ殺して、金血を全部奪う!!」
ガーレブの背後で、さらに四門のバズーカが展開。
今度は至近距離で零距離射撃を叩き込む。
敷島は全ての千手腕を解放。

──千手太刀

数百本の日本刀が金血で物質化し、再度ガーレブを包囲する。
刀身が紅く輝き、血の文字で「愛」と刻まれていた。
けど、ガーレブが斧を振り下ろすが、その軌道はすでに読まれている。
敷島の左腕が、白金の装甲を纏い、
斧の刃を真正面から受け止めた。

ガキィィィン!!

火花が散る。
ガーレブの腕が、衝撃で痺れる。
「……ッ! ……っがぁ!!!」
「ずっと、血を滾らせて…疲れない? 僕は怒りも憎しみも要らない。ただ、君と話がしたいだけ。そうやって、いつまでも、君は僕から逃げられると思ってるんだろう?」
敷島の指が、ガーレブの白い髪を梳く。
優しく、優しく、まるで恋人のように。
「君はもう、僕の手の中にいる。逃げられない。──僕が君を、全部、抱いてやるまで」
次の瞬間。
千の本の白金の腕が、ガーレブの四肢を絡め取った。
斧を奪い、バズーカを封じ、全身を優しく、しかし絶対に逃がさない力で拘束する。
ガーレブが暴れる。
金血を暴走させ、血の爆発を起こそうとする。
だが、敷島はただ、見詰めたまま、ガーレブの額に、自分の額を重ねた。
「大丈夫だ。痛くしない。……愛してるあげる」
血塗られた戦場に、白い軍服と白い髪の二人の男が、千の手によって、まるで抱き合うように絡み合った。
戦いは、まだ終わらない。
だが、すでに勝敗は決まっていた。
──愛の、勝利だった。