白城の島国は、夕映えの霧が保安官寮の白い珊瑚石の壁を柔らかく包み、海風が窓辺をそっと撫でる時間帯を迎えていた。
保安官寮は白城の中心に佇む堅牢な建物で、白い壁と水色のレースカーテンが静謐な雰囲気を漂わせている。
その一角の談話室では、八島がオシャレな白いジャケットを羽織り、屈強な体躯をソファに預けていた。白い髪が肩に流れ、白色の瞳が天真爛漫な光を宿す。白城の“白”の上級保安官として、敷島と並ぶ世話焼きぶりと明るさで仲間を支える彼は、テーブルに自作のクッキーを並べ、誰かを待っていた。
そこへ天津風が現れる。屈強な白人男性で、白い髪が海風に揺れ、白色の瞳には薄い曇りが漂っている。灰白とくすみ濃赤のマフラーを巻き、同じ色調のヘッドセットが鈍く光る。普段は淡々と任務をこなす彼だが、今日は肩に重い影を背負っていた。
八島はその様子に気づき、明るい笑顔で手を振った。
「天津風くん! やっと来た! ほら、クッキー食べてよ。新作さ!」
談話室に響く天真爛漫な声。だが天津風は無言でソファに深く座り込み、マフラーを握りしめた。
「八島くん……話がある」
その声には、いつもの軽さではなく、珍しく重みがあった。
八島の白い瞳が好奇心に輝く。クッキーを手に身を乗り出した。
「おっ、珍しいね。天津風くんがそんな顔するなんて。どうしたの? 恋の悩み?」
軽い冗談を交える八島に、天津風は小さく息を吐く。
「……敷島くんのことで……」
マフラーの端を指で弄びながら、低く続ける。
「僕、敷島くんのことが好きすぎる。想いが重くて……胸が苦しい。離れたい」
その告白は、いつも淡々とした天津風らしからぬほど率直で、痛々しかった。白い瞳がわずかに揺れ、くすんだ赤のヘッドセットが夕光を鈍く返す。
八島の笑顔が一瞬だけ消え、代わりに世話焼きな気遣いの表情が浮かぶ。
「天津風くん。僕が敷島くんを呼んでくるね」
「待て!」
焦る天津風をよそに、八島は通信機を手に取る。
「大丈夫! 敷島くんなら分かる話だよ!」
やがて談話室のドアが開く。
白い髪を霧に溶かすように、敷島が入ってきた。慈愛を湛えた白色の瞳と穏やかな声、その存在だけで部屋の空気が柔らかくなる。
「八島くんと天津風くん。急に呼び出して、どうしたの?」
八島はジャケットを翻しながら答える。
「敷島くん! 天津風くんが悩んでるみたい! 敷島くんのことが好きすぎて、苦しくて離れたいって!」
ストレートな言葉に、天津風の頬がわずかに赤く染まり、マフラーで顔を隠した。
「……八島くん、余計なことを言わないで……」
だが敷島は静かに微笑み、天津風の隣に腰を下ろす。
「天津風くん、好きすぎていいんだよ」
穏やかな声を響かせ、屈強な腕でそっと抱きしめる。天津風の体が一瞬だけ硬直し、やがて小さく震える。
「敷島くん……僕、苦しいんだ……」
搾り出すような声に、苦悩が滲む。
敷島はその手を包み込み、柔らかく言った。
「離れるより、近くにいた方が治る。僕がそばにいるよ」
その言葉に、天津風の胸に温かさが差し込む。しかし同時に、愛の痛みも深くなる。
八島はそんな二人を見守りながら、明るくクッキーを差し出した。
「ほら、二人で食べて仲良くね!」
軽やかな声を残し、空気を和ませようとする。
夕方の霧が窓を覆う中、天津風の白い瞳は複雑な光を帯びていた。
敷島の抱擁は確かに心を温める。けれど、その優しさがまた胸を締め付ける。
愛と苦しみが静かに綯い交じる中、白い談話室を包む霧だけが、彼らの揺れる心を静かに見守っていた。
(終)
保安官寮は白城の中心に佇む堅牢な建物で、白い壁と水色のレースカーテンが静謐な雰囲気を漂わせている。
その一角の談話室では、八島がオシャレな白いジャケットを羽織り、屈強な体躯をソファに預けていた。白い髪が肩に流れ、白色の瞳が天真爛漫な光を宿す。白城の“白”の上級保安官として、敷島と並ぶ世話焼きぶりと明るさで仲間を支える彼は、テーブルに自作のクッキーを並べ、誰かを待っていた。
そこへ天津風が現れる。屈強な白人男性で、白い髪が海風に揺れ、白色の瞳には薄い曇りが漂っている。灰白とくすみ濃赤のマフラーを巻き、同じ色調のヘッドセットが鈍く光る。普段は淡々と任務をこなす彼だが、今日は肩に重い影を背負っていた。
八島はその様子に気づき、明るい笑顔で手を振った。
「天津風くん! やっと来た! ほら、クッキー食べてよ。新作さ!」
談話室に響く天真爛漫な声。だが天津風は無言でソファに深く座り込み、マフラーを握りしめた。
「八島くん……話がある」
その声には、いつもの軽さではなく、珍しく重みがあった。
八島の白い瞳が好奇心に輝く。クッキーを手に身を乗り出した。
「おっ、珍しいね。天津風くんがそんな顔するなんて。どうしたの? 恋の悩み?」
軽い冗談を交える八島に、天津風は小さく息を吐く。
「……敷島くんのことで……」
マフラーの端を指で弄びながら、低く続ける。
「僕、敷島くんのことが好きすぎる。想いが重くて……胸が苦しい。離れたい」
その告白は、いつも淡々とした天津風らしからぬほど率直で、痛々しかった。白い瞳がわずかに揺れ、くすんだ赤のヘッドセットが夕光を鈍く返す。
八島の笑顔が一瞬だけ消え、代わりに世話焼きな気遣いの表情が浮かぶ。
「天津風くん。僕が敷島くんを呼んでくるね」
「待て!」
焦る天津風をよそに、八島は通信機を手に取る。
「大丈夫! 敷島くんなら分かる話だよ!」
やがて談話室のドアが開く。
白い髪を霧に溶かすように、敷島が入ってきた。慈愛を湛えた白色の瞳と穏やかな声、その存在だけで部屋の空気が柔らかくなる。
「八島くんと天津風くん。急に呼び出して、どうしたの?」
八島はジャケットを翻しながら答える。
「敷島くん! 天津風くんが悩んでるみたい! 敷島くんのことが好きすぎて、苦しくて離れたいって!」
ストレートな言葉に、天津風の頬がわずかに赤く染まり、マフラーで顔を隠した。
「……八島くん、余計なことを言わないで……」
だが敷島は静かに微笑み、天津風の隣に腰を下ろす。
「天津風くん、好きすぎていいんだよ」
穏やかな声を響かせ、屈強な腕でそっと抱きしめる。天津風の体が一瞬だけ硬直し、やがて小さく震える。
「敷島くん……僕、苦しいんだ……」
搾り出すような声に、苦悩が滲む。
敷島はその手を包み込み、柔らかく言った。
「離れるより、近くにいた方が治る。僕がそばにいるよ」
その言葉に、天津風の胸に温かさが差し込む。しかし同時に、愛の痛みも深くなる。
八島はそんな二人を見守りながら、明るくクッキーを差し出した。
「ほら、二人で食べて仲良くね!」
軽やかな声を残し、空気を和ませようとする。
夕方の霧が窓を覆う中、天津風の白い瞳は複雑な光を帯びていた。
敷島の抱擁は確かに心を温める。けれど、その優しさがまた胸を締め付ける。
愛と苦しみが静かに綯い交じる中、白い談話室を包む霧だけが、彼らの揺れる心を静かに見守っていた。
(終)



