白城の島国は、真昼の陽光が白い珊瑚石の壁を強く照らし、海風が霧をやわらかく運ぶ、静穏に包まれた日を迎えていた。
城の中心塔の最上階――敷島の私室は、白一色の壁と床が広がる広大な空間で、中央の巨大な寝台と窓から見える霧の海が、休日の静けさを象徴していた。

その寝台の上に、敷島は仰向けの姿で身を委ねていた。
白い髪は枕に流れ、白色の瞳は閉じられている。だが、その休息は浅く、規則を乱す呼吸の音が広い部屋に響いていた。

「……はぁ……はぁ……んっ……」

胸の奥を叩き割るような鼓動。息を吸うたびに骨の隙間を焼くような熱が押し寄せ、汗が首筋から伝い、布を濡らしていく。
白子への想いは澱のように沈み込み、消えぬ潮の満ち引きのように押し寄せて、ついに敷島の身体の限界を越えようとしていた。

胸骨背面の皮膚に金色の光が滲み出す。浮かび上がったのは、菱形の模様。そこから迸るように、極太の蔓が突き出した。

蔓はまるで太古の神木の幹のように力強く、半透明の内側を金の樹液が流れ、光を透かして脈打っている。
シーツを這い、床へと伸びると、幹からは無数の枝が分かれて拡がり、その先端で無数の大輪の花が開き始めた。

金色の層を重ねながら咲くその花弁は、夜空から降ろされた祈りの結晶のようだった。花びらが触れ合うたびに光は屈折し、部屋の白を金色の霧に染める。

やがて花の中央には雫の形をした果実が実る。果皮は透明に澄み、その内部には白子が浮かんでいた。胎囊のように守られ、金色の光に濡れながら小さな鼓動を刻んでいる。
果実が揺れるとき、鈴に似た微細な音が生まれ、海風と調和しながら部屋を満たしていった。

「……白子たち……はぁ……僕の、愛が……君たちを……」

敷島の吐息は荒く、喉の奥を震わせながら零れる。
胸の鼓動は加速し、身体全体が内側から引き裂かれるような熱に浸されていく。脈動は蔓へと注ぎ込まれ、枝は壁を這い、天井を突き破って外の霧空に展開した。

外界の光を吸い込んだ金の花々が一斉に揺れ、雫の実に宿る白子たちを星々のように照らす。煌めきは重なり合い、まるで熾烈な心臓の鼓動そのものが部屋全体を染めているかのようだった。

それでも、敷島の体は束縛されることなく床の上に在り続ける。彼を縛るのは黄金の蔓ではなく、終わりのない愛情の熱そのものだった。

喉を灼く呼吸を繰り返しながら、彼は震える声で呟く。
「……白子たち……この身すべてを……君たちに……」

夕暮れが近づくと、部屋全体は黄金と金色の霧に包まれ、幻想的な森と化した。
だが、その根源であるのは紛れもなく敷島の肉体である。汗に濡れた額、乱れる息、胸を破裂させる心音――その一つ一つが、今や部屋を満たす黄金の樹を成長させていた。

窓から吹き込む海風が金色の花を揺らし、雫の果実を震わせる。透明な果実の奥で小さな白子たちが光を浴び、静かな脈動を続けていた。

敷島の白色の瞳は細く開き、疲弊と愛情の間で揺れながら、その光を見上げていた。
彼の胸の奥ではなお、荒い息と鼓動が止まず、幻と生の境界を揺らし続けていた。

(終)