森の奥から、地鳴りのような唸りが広がっていた。
 枝をへし折り、土を震わせ、黒い影が次々と現れる。

「な、なんて数だ……」
「百は下らねえ……!」

 村人たちが息を呑む。
 狼型の魔物、猪のような突進型、羽を持つ影まで混ざり、怒涛の勢いで迫ってくる。

 だが俺は冷静だった。
 この瞬間のために準備してきた。
 恐怖を押さえ込み、声を張り上げる。

「全員、配置につけ! 予定通り“北門”へ誘導する!」

 村の入口には、わざと柵を低くした場所を設けてある。
 魔物はそこを“弱点”と見て群れごと殺到するだろう。
 だが、それこそが俺たちの狙いだ。

「罠班、準備!」
「矢筒、火打石よし!」

 若者たちが慌ただしく動く。
 子供たちも鐘の縄を握りしめ、緊張に震える手を必死に抑えていた。

 最初に突っ込んできたのは、牙を剥いた狼型。
 十体ほどが同時に飛びかかってくる。

「今だ――【支援魔法・鉄壁の守護(ディフェンスオーラ)】!」

 前列に結界を展開。透明な壁が衝撃を吸収し、村人たちを守る。
 その隙に槍の先端が突き出され、狼が次々と倒れる。

「押すな! 引け! 隊列を崩すな!」

 俺の声に合わせ、訓練通り村人たちは半歩引き下がる。
 槍を失えばすぐに別の者が前に出る――連携が生きていた。

 だが、それは序章にすぎない。
 後方から、猪型の魔物が十数体、土煙を上げて突進してきた。
 大地が揺れ、柵がきしむ。

「杭を外せ! 今だ!」

 合図と同時に、村人たちが縄を引く。
 北門に仕掛けた杭が倒れ、狭い通路が露わになる。
 猪たちは勢いのまま雪崩れ込み――

「【支援魔法・地脈共鳴(レゾナンス)】!」

 俺が大地に手を当てると、通路の土が震え、崩れた。
 猪の巨体が次々と足を取られ、穴へと落ちていく。
 土煙と絶叫が響き、残りの群れは混乱した。

「今だ、火矢を放て!」

 女たちが火を灯した矢を一斉に射る。
 油を染み込ませた布が燃え上がり、魔物の背を焼く。
 炎に驚いた翼の魔物が空へ逃げようとした瞬間――

「【支援魔法・風壁(ウィンドシールド)】!」

 俺は空へ風の壁を張った。
 翼を広げた魔物たちが風に弾かれ、地面へ叩きつけられる。
 そこへ槍と石が雨のように降り注ぎ、次々と息絶えていった。

 だが、群れは止まらない。
 森の奥から、さらに影が溢れてくる。

「まだ……これで半分だと……!?」
 若者の顔が蒼白になる。

「怯むな!」
 俺は怒鳴った。
「ここを越えさせるな! 俺の補助がある限り、お前たちは倒れない!」

 その声に呼応するように、村人たちが一斉に雄叫びを上げる。
 槍を構え、矢をつがえ、盾を握る。

 ――総力戦の幕が、ついに上がった。