蝉の声が鳴り響く日だった。
「ごめ、……俺、弧守さんに謝りに来たんだけど、ここから弧守さんの声がしたから……」
 青ざめたイケメンこと榊くんが破れた御札と紙垂を持って呆然としている。
「その御札……」
 力が弱まって眠っている妖狐の神を封印している御札だった。
 けたたましく蝉が鳴く。
 扇風機は熱風に代わり、冷房の音がガタガタと古びた神社を揺らしている。
 青ざめた私と榊くんは破れた御札が貼られた祠を見つめる。
 ガタガタとゴトゴトと音は段々と大きくなって、そして白くて小さな手が戸を開くのをスローモーションのように眺めていた。
「なんで、僕を起こしたの?」
 真っ赤な瞳がまるで宝石のように輝く妖狐が、今にも消えそうな絞り出した声で言うと、ふらふらと倒れた。
 蝉の声にかき消されるような、儚い声。
 白く欲しい手足に、驚くほど綺麗な尻尾が六つ。榊くんが慌てて助け起こすと、彼は薄く開いた唇から零れ落とすように言った。
「足りない。僕への信仰が足りなすぎて、今すぐにでも消えてしまいそうだ」
 苦しそうに顔を歪めて、今にも消えそうに彼は言う。
「どう、どうしたらいいんだ、弧守さん」
「そんな、私もその」
 父や兄からしか聞いてこなかった伝説級の守り神が、榊くんの手によって封印が解除されちゃったんだ。
 あたふたしているとパソコン機器を持った兄が渡り廊下の奥から走ってくる。
「咲良! 今の妖気はなんだ!」
 まだ部活中のはずである兄が、パソコンを私に押しつけると今にも消えそうな妖狐を見て息を飲んだ。
「白夜!」
 兄が榊くんから奪い取るように妖狐を抱きかかえると、妖狐の身体が淡く光り輝いた。
「……力が出ない。今すぐ僕を眠らせるか、千尋をここに寄越せ」
「千尋ばあさんは入院中で、俺は眠らせる力がないからなあ。じいさんも父ちゃんも島の豊作の祭りに呼ばれてて」
「……どうにかしろ」
 しゅるしゅると小さな白い狐になると兄の首に巻き付いた。

 けれど息は切れ切れで、苦しそうだ。
「お前らなあ……」
 兄の低く唸るような声は明らかに怒っていて、そしてその狐の容態を心配していた。
 この時、誰が予想しただろうか。
 この狐の神様の信仰(ファン登録者)を増やすために、私と榊くんがクラスメイトとともに動画配信を始めるなんて。
 これは電波塔が建築されたことによりインターうhネットが急激に発展し始めた超のつく田舎町で、信仰(ファン登録者)を集めて力を取り戻す神様と、田舎娘とイケメンの夏休みのお話だ。