【消えた宿泊客──△△温泉、噂の部屋の暗い履歴】
先月末、□□温泉郷の老舗・旅館△△で都内の会社員男性(33)が忽然と姿を消した。雑誌の懸賞で当選し、一泊二日の予定で訪れていたが、翌朝には部屋が空になり、荷物ごと姿を消していたという。館内のカメラには入室する様子だけが残され、退室の映像はなかった。
警察は自ら立ち去った可能性を含めて捜索を続けているが、地元では「またあの旅館か……」と囁かれている。
旅館△△が誇る『幸せを呼ぶ部屋』は、特別和室のひとつ。宿泊者に話を聞くと、床の間には白蛇を描いた掛け軸、脇には木彫りの蛇の像が据えられている。旅館側は「福を招く縁起物」と説明するが、泊まった客の中には「夜中に蛇が動いたように見えた」と語る者も少なくない。
そして今回の失踪で、再び注目を集めているのが、この宿の曰く付きの歴史だ。
取材を進めると、過去にも不可解な出来事が続いていることが分かった。
昭和三十年代には、宿泊中の客が夜中に急死。四十年代には火災で宿泊客が逃げ遅れて命を落とした。平成期には、泊まった経営者が帰宅後に事業を失い、ほどなく失踪したという。いずれも公式には「不慮の事故」「経済的理由」と処理されている。だが「不幸があったのは例外なくあの部屋の宿泊者だった」と証言する元仲居もいる。
【 土地の祟り? 】
さらに気になるのは、この旅館が建つ土地そのものだ。
元々ここには「白蛇明神」と呼ばれる小さな祠があり、蛇神を祀っていた。「白蛇を祀らねば祟りがある」と、昔から言い伝えられていたという。宿の増築に伴い祠は取り壊された。地元の老人はこう打ち明ける。
「工事のとき、大きな白蛇が地面から出てきたのを見たって話が残ってる。みんな恐れて祠を作り直そうとしたが、結局は観光開発の勢いに押し流されてしまったんだ」
以来、白蛇は旅館の象徴として飾られているが、それは守り神なのか、封じの印なのかは定かでない。
取材を続けていると、様々な証言がとれた。奇妙なのは、不幸な話ばかりではないことだ。
「泊まった直後に昇進した」「結婚が決まった」「宝くじが当たった」といった体験談も数多い。観光誌や旅行会社が宣伝に使うのは、当然こうした『幸せな証言』ばかりだ。
だが実際には、幸運と不幸が極端に交錯している。
ある地元記者は「幸福を呼ぶというより、人生を大きく変える、賭け部屋なのでは」と語っている。
さらに旅館に泊まった客の多くが一致して語るのは、女将のある一言だ。
『お部屋に気に入られたんでしょうね』
笑顔で言われれば冗談のようだが、「気に入られなかったらどうなるのか」と思うと背筋が冷える。
失踪した男性はいまも見つかっていない。
祠を壊して建てられた旅館、白蛇の掛け軸、繰り返される幸と不幸。『幸せを呼ぶ部屋』とは、果たして福を授けるのか、それとも……。
先月末、□□温泉郷の老舗・旅館△△で都内の会社員男性(33)が忽然と姿を消した。雑誌の懸賞で当選し、一泊二日の予定で訪れていたが、翌朝には部屋が空になり、荷物ごと姿を消していたという。館内のカメラには入室する様子だけが残され、退室の映像はなかった。
警察は自ら立ち去った可能性を含めて捜索を続けているが、地元では「またあの旅館か……」と囁かれている。
旅館△△が誇る『幸せを呼ぶ部屋』は、特別和室のひとつ。宿泊者に話を聞くと、床の間には白蛇を描いた掛け軸、脇には木彫りの蛇の像が据えられている。旅館側は「福を招く縁起物」と説明するが、泊まった客の中には「夜中に蛇が動いたように見えた」と語る者も少なくない。
そして今回の失踪で、再び注目を集めているのが、この宿の曰く付きの歴史だ。
取材を進めると、過去にも不可解な出来事が続いていることが分かった。
昭和三十年代には、宿泊中の客が夜中に急死。四十年代には火災で宿泊客が逃げ遅れて命を落とした。平成期には、泊まった経営者が帰宅後に事業を失い、ほどなく失踪したという。いずれも公式には「不慮の事故」「経済的理由」と処理されている。だが「不幸があったのは例外なくあの部屋の宿泊者だった」と証言する元仲居もいる。
【 土地の祟り? 】
さらに気になるのは、この旅館が建つ土地そのものだ。
元々ここには「白蛇明神」と呼ばれる小さな祠があり、蛇神を祀っていた。「白蛇を祀らねば祟りがある」と、昔から言い伝えられていたという。宿の増築に伴い祠は取り壊された。地元の老人はこう打ち明ける。
「工事のとき、大きな白蛇が地面から出てきたのを見たって話が残ってる。みんな恐れて祠を作り直そうとしたが、結局は観光開発の勢いに押し流されてしまったんだ」
以来、白蛇は旅館の象徴として飾られているが、それは守り神なのか、封じの印なのかは定かでない。
取材を続けていると、様々な証言がとれた。奇妙なのは、不幸な話ばかりではないことだ。
「泊まった直後に昇進した」「結婚が決まった」「宝くじが当たった」といった体験談も数多い。観光誌や旅行会社が宣伝に使うのは、当然こうした『幸せな証言』ばかりだ。
だが実際には、幸運と不幸が極端に交錯している。
ある地元記者は「幸福を呼ぶというより、人生を大きく変える、賭け部屋なのでは」と語っている。
さらに旅館に泊まった客の多くが一致して語るのは、女将のある一言だ。
『お部屋に気に入られたんでしょうね』
笑顔で言われれば冗談のようだが、「気に入られなかったらどうなるのか」と思うと背筋が冷える。
失踪した男性はいまも見つかっていない。
祠を壊して建てられた旅館、白蛇の掛け軸、繰り返される幸と不幸。『幸せを呼ぶ部屋』とは、果たして福を授けるのか、それとも……。



