私はKです。
Sとは、十年来の呪物仲間だったよ。酒を飲む友人のような気安さではない。互いの呪物に向ける狂気を、互いにだけ理解できる関係だった。私はよく海外に、部族が儀式で使った呪具や、黒魔術の道具を買い付けに行くんですよ。詳しくは言えないけど……ちょっと独自のルートがあってね。あっ、違法な物じゃないですからね。よくSにも頼まれて買い付けしたもんだ。Sはそれを手に取ると、いつも初めて玩具を与えられた子供みたいに、目を輝かせていたよ。
Sの配信を見たことがある人なら分かるだろうな。君もよく知ってるだろ? あいつはカメラの向こうで軽口を叩きながらも、ほんとうは震えるような情熱を宿していたって。冗談半分のコメントに笑って返す裏で、Sの眼差しは真剣だった。
私は友人として相談に乗ったし、ときに資料やブツを渡した。だが仲間としては、むしろ私の方が借りを作っていた気がする。Sは常に先を走っていたからな。
Sの失踪を聞いたとき、ただの事故や、Sが自ら姿を消した、……なんて話では済ませられなかった。あの部屋に泊まったんだよね? あの部屋は界隈では有名だ。Sは……あいつは消えることを恐れなかった。むしろ望んでいたくらいだ。本望だった……いや、そんなことあってたまるか。Sが消えてしまったなんて信じたくない。私はSの友人として、何があったのかを突き止めたい。
君と同じさ。私も独自に調べたよ。
過去の失踪者の足取りを追ってみたんだ。古い週刊誌、新聞の縮刷版、地元の噂話をまとめた資料だ。オカルト同人誌からの情報もある。
ちょっと、これを見てくれ。奇妙じゃないか?
ほら、ここだ。失踪者の共通点が浮かび上がったんだ。行方不明者や急死者の名前。表向きの名字はそれぞれ違っていたんだけど。
鈴木、山田、佐藤、田中……。
一見すれば、何の関連もないだろ?
だが私は、どこか引っかかった。Sが残した録音に出てくる「宿帳の赤いバツ」だ。ある名前の部分だけが消されているって。
だから、失踪者の戸籍を遡ってみたんだ。
親族に話を聞きに行って分かったことがある。
……そして気づいた。
全員に共通する“血”があったことに。
父方か母方か、あるいは祖父母の代か──必ず「●●」という姓が紐づいていた。ひとりは母の旧姓、ひとりは祖母の系統。表の苗字では隠れているが、血筋の奥底で繋がっていた。偶然とは思えなかった。
なぜなら、旅館を建てる際に祠を壊した建築会社の創業者が、●●という名だったからだ。
家族経営のワンマン社長。白蛇を祀っていた社を潰し、その上に部屋を造った一族。その咎を背負う血が、今も呼ばれているとしたら?
Sの苗字もまた──●●だったろ?
ここまで話せば分かるかな……。
あの部屋は、やはり呪物そのものだ。
そして、その場所に●●の血が呼び寄せられている。白蛇様の怨念が、掛け軸か……神楽鈴か……部屋そのものに宿ってる。
君には伝えておく。
呪物は呪物でしか対抗できないだろう。
寺の護符や神社の祈祷では意味がない。私も何度か試したが、強い呪物に対しては、ただの紙切れにすぎなかった。
対抗できたのは、同じ呪いを宿した品だけだ。
……Sが持っていた黒魔術の針、あれなら。
あの針の力は本物だ。●●信仰では、あの針を生贄に刺して精霊に捧げたって話だ……って、そんな顔するなよ。本当にSと仕事してたのか?
簡単に言うとだな、つまり、かなり強い呪物ってことだ。それを掛け軸の蛇に突き刺せば……。
ん? どうやって部屋に侵入するかって?
実はな……私は、次の当選者の情報を掴んでいる。
都内に住む二十代後半の独身男性だ。私があの部屋のことを調べていると耳にしたのか、連絡があったんだ。私に連絡してくるってことは、Sの情報も掴んだんだろう。相当、ビビってる。
そいつの家系を調べると、やはりあった。母方の祖父が●●だった。出身地も旅館の近隣の県。
彼に協力してもらおう。



