儀式の夜は、昼の終わりではなく、朝の前の予告のようにやって来た。
 街の音はひとつずつ背中を丸め、常夜灯の立つ辻ごとに、風が角を丸く撫でて去っていく。油の匂いは古く、芯は去年のままで、灯の柱には手の脂と雨の塩が薄く層を作っている。
 白布の台は灯の真下に据えた。布は新しいのではなく、孤児院の祭に使うものを借りた。端に小さな染みがあり、子どもの指の跡のような薄い輪が残っている。輪は、ここで誰かが息をしていたという証だ。台の上には、小型の暦盤と、楽譜石の拓本。拓本の紙は水を嫌って少し波打ち、波が五線を柔らかく歪ませていた。

 人々は静かに輪を作り、立ち並ぶ影は灯の光の届くきわで切れている。遠くの店先で猫の鈴が一度鳴り、すぐに止んだ。
 証人として立つ老人は、震える手で古友の名をなぞっている。名の一画ごとに呼吸が変わり、その変わり方が灯の火と合っていた。彼の指は印場の台の高さを覚えていて、指の震えは、押す前のわずかな躊躇を忠実に再演する。

 篝が白布の台の横に立ち、短く合図を送った。
「はじめる」

 第一段——灯の封。
 篝は灯芯を一度抜いた。古い芯は乾いていて、抜くときほとんど音を立てない。油皿の表面に、彼は白羽を一枚沈めた。羽根はすぐには燃えない。油を吸い、吸った油の重みでゆっくり沈み、その沈みの途中で薄い火が生まれる。
 炎は音のない明滅を始め、明滅の間隔が、拍子木の代わりとなった。拍を聴き慣れない者の呼吸でも、静かに合う。合うとは、揃うことではない。同じ場所を見て、別々の速度で息をすることだ。輪のひとりひとりが、自分の肺の内側で小さなうなずきをした。

 第二段——名の呼び戻し。
 綾女は拓本の前に立ち、童謡の二番を低く据えた。
 〈な——〉
 欠けの位置は歌わない。歌わないところは、沈黙でなく、置かれた布のようにそこにいる。沈黙は冷たくない。灯の熱で、薄く温かい。
 〈の——〉
 凪雪が条文の要約を三行ずつ読み上げる。「嘘をつかぬ。名を奪わぬ。春を急がぬ」。
 人間のことばと神のことばが交互に差し込まれ、灯の明滅が二拍三連へ変わった。規則的に乱れる、という秩序。人は規則だけでは息が続かない。乱れだけでも疲れる。そのあいだの、二拍三連が、輪を保ってくれる。
 〈は——〉
 綾女の喉は乾いていない。乾いていない喉で、欠けの場所を歌わずに置く。置いて、聴く。沈黙の縁で、老人の呼吸がひとつ抜ける音がする。抜けた呼吸は、戻る場所を探しながら、灯の芯の明滅に吸い込まれた。

 第三段——印影洗い。
 篝が拓本を台に広げた。二重の印影が、薄い墨の輪郭を二度描いている。綾女は瓶から哀しみの薄片をひとしずく出した。薄片は指で伸ばせるほど薄く、塗るときに音を立てない。
 印璽に薄く塗り、二重印影の上に重ねる。哀しみは本物に吸い寄せられ、偽物を弾く性質がある。生まれたときの声の場所、死んだときの息の深さ、押した指の皮膚の温度。偽物はそれらを持たない。
 拓本の上で、偽の層だけが、目に見えない薄い音を立てて弾け、剥離した。墨の粉が宙にひと息揺れ、下から祖父の名が露出する。
 証人の老人は「これが本当の印だ」と頷き、頷いたまま、涙は流さない。涙は、今は不要だ。涙は灯の油を薄める。今夜は、油を守る。

 輪の外側で、靴音が止まった。
 当の役人が、姿を見せる。黒外套は相変わらず泥を嫌い、胸元には新しい朱印の紐。昼のような薄笑いを貼りつけ、灯の円の手前で言った。
「名は器だ。器は入れ替えられる」

 凪雪は静かに一歩前へ出る。
 剣は抜かない。
 白羽を一本、役人の胸元に掲げた。胸の前で羽根は揺れない。揺れない羽は、拍と同じ高さにある。
「器を入れ替えるなら、中味を捨てたのだ」
 淡々と告げる声は、灯の油を揺らさない。揺らせば、火が不安になる。火が不安になると、輪が息を詰める。今、息は詰めてはいけない。

 役人は肩で笑った。笑いの高さは昼と同じ、ひとつ上の半音。
 その刹那、灯の明滅が乱れた。
 どこからか、速い雨の拍が混入した。
 第三紋が綾女の胸で拍落ちし、膝が揺れる。視界の端の格子が二重になり、白布の台の端の輪が小さく回る。禁区から、偽の暦拍が流し込まれている。灯の二拍に、遠いところから持ち込まれた粗い三拍がぶつかり、火が小さく迷う。

「——来たな」

 篝の声が低く落ち、凪雪は躊躇せずに自らの羽根を二本抜いて、灯芯に交差させた。
 羽根は燃え、白い光がいちど跳ねて、正しい二拍へ戻る。
 代償として、凪雪の人の姿の輪郭が一瞬薄くなった。白い髪の縁が夜の内側へ沈み、肩のところで空気が透ける。
 綾女の喉から抗議が漏れた。あの地下の水路で、彼が羽根を裂いた夜を思い出す。戻る、と言った。戻る、と彼は約束した。

 凪雪は首を振った。
「大丈夫だ。名を返せ」

 短い返事の音の重さで、綾女は膝の揺れを止めた。
 瓶の蓋を半分開き、哀しみの薄片をもうひとつ取り、拓本の上に薄く伸ばす。伸ばした哀しみが、偽の朱の薄い皮を浮かせ、灯の光がその皮の縁を白く縁取る。
 老人が指で名の一画をなぞる。指先の皮膚が薄く震え、震えの音だけが、骨の中で鳴る。

 偽の皮は、灯の呼吸に合わせて剥がれ、黒外套の役人の胸ポケットの縁がわずかに持ち上がった。
 綾女は歌い、欠いた。
 〈な——〉
 〈の——〉
 〈は——〉
 沈黙の布は三枚重なり、灯の火は深くなった。深いが、大きくはならない。深い火は、名を焦がさない。

 役人の唇が、乾いた音でわずかに裂ける。「くだらない」
 その言い方は、声でありながら、声ではなかった。耳ではなく、紙を擦る指の腹のほうへ落ちる音。
 凪雪は剣を抜かず、白羽の軸で役人の胸の紐を軽く叩いた。紐は新しい。新しい紐には、古い油の匂いがない。油のない紐は、灯の下で滑る。
「器を換え、名を入れ替えることで、責任の重さを移したつもりか。——重さは移らない。押した指の高さが、紙に残る」

 役人の目が、灯の下で濡れない。濡れない目は、居場所を失う。
 輪の中にいた女が、小さく顔を上げた。元印場係だ。
「灯の下で押すとき、人は背伸びをしない。背伸びの朱は、乾きが早い。あなたの朱は、乾きが早い」

 声の重ねが、灯の下で低い和音になった。和音は、怒りに似ていない。似ていないから、長く残る。
 綾女は歌の最後の行で、沈黙を長く置いた。置いた沈黙の端で、役人の胸ポケットから、偽の名札が床へ落ちた。落ちた札は、灯の黒い影に飲まれる。拾おうとすれば拾える高さなのに、誰の手も動かない。
 名は、奪われるのではない。——手放させる。
 手放した名は、灯の下でだけ、静かに返る。

 儀は続く。
 石に刻まれた譜の最後の欠拍が、沈黙で埋められると、灯が一度だけ深く息をした。油皿の上でわずかに波が立ち、波が消える。消えたあと、火はもとの大きさのまま、しかし骨に近いところで明るくなった。
 輪の外の子どもが、眠い目で母親の腰にしがみつき、母親の指が子の髪を二度だけ梳いた。梳く手のリズムは、火の二拍とぴたりと揃っている。

 役人は、灯の円から出なかった。出ないのは、まだ習わしを守っているからだ。守ることしか知らない者は、破ることを正しく選べない。
 綾女は灯の柱に手を置き、短く「名を返します」と読み上げた。
 篝が拓本に深い朱を押す。押した朱は、乾くのが遅い。遅さは、呼吸のためにある。遅さのあいだに、名は骨へ降りていく。

 輪の中の老人が頷き、元印場係が息を吐き、古井戸の番人だった男が遠い井戸のほうへ顔を向けた。
 ——井戸の底で、水が一度だけ鳴った。鳴り方は小さい。小さい音ほど、街の骨に届く。

      *

 儀式のあいだ、遠いところで雨の匂いがした。
 禁区の上に残る黒い穴は、灯の下では見えない。見えないのに、匂いだけが届く。濡れていないのに湿りの匂い。
 凪雪は、羽根を燃やしたまま、灯芯の角度をほんのわずかにずらした。ずらした方向は、禁区の反対側だ。反対側から来た雨の速さが遅くなり、灯の火は再び、輪の呼吸に合った。

 役人は、胸の前で両手を組み、上唇の端をわずかに上げた。
「誰の指示か、知りたいか」
 灯の火が小さく反応して、格子の影が一段濃くなった。
 綾女は喉の紙片が動くのを感じたが、声を出さなかった。声は、灯の下では押印のあとに置く。順番を守らない言葉は、火を不安にする。

 凪雪が代わりに言う。
「名の返還は、誰の許しもいらぬ。——だが、お前が誰の名を借り、誰の呼吸に寄りかかったかは、灯の下で読める」
 篝が拓本の端に指を滑らせ、二重の輪郭の上の細い筋に炭をそっと擦った。擦った炭の粉が、僅かな段差を濃く映す。段差の幅が、押印の台の違い、すなわち部署の違いを示す。
「三つの部署で同じ“息継ぎ”。どれも同じ師の膝。——一系譜」

 役人の目が一瞬、灯の後ろを見た。背後には誰もいない。いないはずなのに、その“見た”という動きが、灯の下の空気を僅かに冷やした。冷えは恐れの角度だ。
 綾女は瓶の蓋を閉め、白羽栓の震えを頬で受けた。震えは穏やか。恐れは長い揺れを選んでいる。長く揺れる恐れは、拍を壊さない。

「あなたは、はらえない」
 綾女は静かに言った。
「“とめ”は過剰で、“はらい”の解放が足りない。——名を解き放てない」
 言葉は淡く、灯の油の上に薄く広がった。広がった言葉は、火を大きくしない。
 役人の肩が、わずかに落ちた。落ちた肩の高さを、灯の格子が正確に記録する。格子は、夜の帳面だ。

      *

 儀が終わるまでに、三つの灯でそれぞれ名が返された。
 返された名は紙の上で深い朱となり、乾くのを待つあいだ、輪の大人たちは誰も指をそこへ近づけない。
 近づけない、という行為が、守ることだ。触らないためには、まず知る必要がある。触れてはいけない温度を、温度として感じられる箇所に、自分の中の拍を置いておく。

 最後の灯の下で、老人が杖を石に一度だけ打ち鳴らした。
「……返った」

 その一言で、輪が深く息を吐いた。吐く音が揃っているのに、誰の息とも同じでない。揃っているのに、同じでない——儀式の成功の形は、つねにそうだ。

 役人は灯の円から一歩も動かず、笑いも作らず、ただ唇の乾きを舌で濡らした。
 彼の胸ポケットは軽く、手元には新しい紐だけが残っている。紐は新しいほど役に立たない。油を吸っていない紐は、灯の下で空回りする。
「指示など——」
 言いかけた彼の声を、篝が短く遮る。
「名前だ。指示ではなく、名前を出せ。——灯の下で」

 名は、指示ではない。指示は逃げるが、名は残る。
 役人は口を閉ざし、ほんの短いあいだ、自分の喉に耳を傾けたふうだった。喉の奥で、祖父の名が、誰かの名と擦れ合った音がした。擦れ合う音は、痛みでない。——摩耗だ。摩耗は、いいことではないが、終わりのサインだ。

 沈黙が長く続いた。
 灯の油は減り、しかし火は安定している。安定は、どこかで誰かが代償を払ったときだけ訪れる。
 綾女の視線は、凪雪の肩の高さへ落ちた。輪郭は戻っている。戻り方は完全ではないが、羽の影は濃く、髪は月の色を保っている。
 彼と目が合うと、彼は一度だけ瞬きをした。合図ではない。合図にしないことが、今夜必要な配慮だった。

      *

 人々が輪をほどき、各々の家路へ散り、灯の下へ残ったのは三人と、証人の老人だけになった。
 篝は白布の台を拭き、油皿の縁を布でひと撫でし、燃え残った羽根の芯を取り出して火に当てた。灰は少なく、油はほとんど燃え尽きていない。
「速い雨の拍は、禁区から。偽の暦拍の出所は、灯の外。……灯の外でしか、あの粗い三拍は作れない」

 凪雪が頷く。
「上だ。もっと上の文言」
「太政の名? それとも、古い条令の残骸?」
「名でなく——呼吸の位置で見つける」

 呼吸の位置。
 綾女は瓶の蓋を締め、白羽栓の微かな震えを指先で数えた。四。八。十二。
 速い雨はまだどこかへ動いている。今夜は灯の中では弾いたが、灯の外で、別の灯を探している。
「“誰の指示か”は、まだ露わになっていない」
 篝が静かに言う。
「でも、名を返した。返還の朱は深い。乾くのは遅い。遅さのあいだに、誰かが焦れる」

 焦れる者は、呼吸を間違える。間違えた呼吸は、紙の上で段差になり、灯の下で濃くなる。
 綾女は目を閉じ、童謡の二番をもう一度、喉の奥で低く据えた。
 欠けを歌わず、欠けを置き、沈黙で縫う。
 沈黙は湿っているが、冷たくない。灯の熱が、沈黙の糸を温めている。

 証人の老人が、灯の柱に手を置いたまま笑った。
「……わしの友は、これで二度目に戻ってきた」
 二度目、という言い方が、胸の奥に静かに降りた。
 名は、一度失われると、もう戻らないと思っていた。戻らないのではない。戻る場所を作らないまま、待っていた。
 灯の下で、場所が作られる。
 場所があれば、名は戻る。
 戻った名は、誰かを責めない。責めるのは人の仕事ではない。返すのが人の仕事だ。

      *

 片付けに取りかかろうとしたとき、篝が台の下から小さなものを拾い上げた。
 黒い革の端。名札の裏の留め金。
 灯の影で飲まれたはずの偽札から、これだけがはじかれて残っていた。
 篝は指で押さえ、持ち上げ、光にかざす。
 留め金の縁には、五角形の小さな刻印。
 古い条庫に関わる部署の印。
「……やっぱり、上だ」
 彼は留め金を布に包み、帳面へ淡い印で写し取る。写し取った図形は単純だが、単純さは、灯の下でよく浮かぶ。
「明日、棚を読もう。庁の棚の、上段の、埃の少ない場所から」

 棚は人だ。埃は時間だ。埃の少ない棚は、最近触られた場所。触られた棚板に、触った指の高さが残っている。
 綾女は深く息を吸い、瓶の肩に頬を寄せた。
 白羽栓は穏やかに震え、瓶の中では哀しみが深く座り、怒りは膝の角度を守り、恐れは長い揺れを選び、恥は乾いて薄く光る。
 第二紋は疼かない。
 胸の奥で温かい熱が、燃えずに灯っている。

「帰ろう」

 凪雪の声に、灯が一度だけ明滅をやめ、ただの火に戻った。
 篝が灯芯を押し下げ、油皿の上へ小さな蓋をかぶせる。火は消えない。消さない。灯は常夜灯だ。夜のうちに灯が消えるのは、不吉ではなく、無礼だ。
 白布の台を持ち上げ、拓本を巻き、暦盤の小型板を箱へ入れる。
 証人の老人は杖を支えに立ち上がり、灯の柱へ手を一度置いてから、静かに背を向けた。背を向けるのは、喪失ではない。——信任だ。

      *

 帰路、風が角を曲がるたび、速い雨の匂いが薄く、しかし確かに鼻先をかすめた。
 凪雪は歩を止めず、わずかに顔を上げただけで、声を持たない言葉をひとつ灯のほうへ送った。
「——待て」
 禁区の上の黒い穴が、遠くでわずかに縮む。縮んだ分だけ、周囲の雲の白が、夜の中で目に立った。

 常世の門楼に上がると、白い塔の呼吸が深く、長い。
 凪雪は白羽糸の端を指から外し、肩の高さで静かに弾いた。音は鳴らない。鳴らないけれど、拍は部屋をひとめぐりする。
「今日の代償は、ここまでだ」
 彼は自分の肩に視線を落とし、輪郭の薄さを確かめる。
 綾女は言いかけ、やめた。やめることも、守ることだ。
「戻るのは、時間」
「時間は味方のとき、必ず」
 彼らの短い対話は、いつも同じ高さを持っている。高さが同じだと、言葉は記録になる。

 篝は机に拓本を広げ、留め金の拓影を横に置いた。
「棚を読む準備をする。明日は埃の少ない棚の、上段から。——“誰の指示か”を、呼吸で確かめる」
「逃げる?」
「逃げ足は速い。けれど、灯は追う」

 追うとは、追いかけることではない。立てることだ。灯を立てる。灯の下に、名を立てる。名が立てば、足は止まる。
 綾女は椀を受け取り、薄い出汁の輪郭を舌で探した。塩の位置は分かる。香りは香りで、今日の歌の“欠け”の位置にそっと寄り添う。
 瓶は温かく、軽い。
 温かいのに、眠いわけではない。眠らない夜は、悪い知らせの前兆ではない。——今日の夜は、返すための夜だった。返した夜は、眠りのほうからやって来る。

 床に横になり、白羽栓の細い震えを胸に乗せて、綾女は目を閉じた。
 四。
 八。
 十二。
 数えるたび、灯の下で聞いた人の息が、ひとりずつ戻ってくる。誰の息も同じでないのに、どれも火を揺らさない。
 凪雪が常夜灯の格子をひとつだけ増やし、篝が薄い紙を胸に置いて目を閉じる。
 沈黙は、歌の続きだ。
 沈黙の糸が街の上をゆっくり縫い、返された名の呼吸が、井戸の口へ、病院の中庭へ、孤児院の桶の縁へ、順番に降りていく。
 速い雨は、まだどこかで走っている。
 走っているのに、灯の下では足音がしない。
 足音のない足は、名を跨げない。
 跨げない名は、明日、棚の上から降りてくる。
 降りてくるとき、埃は舞わない。
 舞わない埃の下で、押した指の高さだけが、はっきりと残っている。

 朝は、急がない。
 名も、急がない。
 だから、必ず、届く。
 届く朝の手前で、常夜灯は、誰にも見えない高さで一度だけ明滅し、拍をひとつ、先に進めた。