頼side
朝。アラームが鳴るスマホを手で探り音を止めた。
カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
俺は顔を洗い、歯磨きをし、朝食をとった。
いつも通りの日常。準備を整え、玄関を開ける。
「めっちゃ晴れじゃん。」
今日という日にぴったりの天気だ。
俺の沈んだ気持ちと真逆のような青空に皮肉を言われているような気持ちになる。
ついにこの日がやってきてしまった。
「凛先輩、おはようございます。卒業しないでください。」
「そこは卒業おめでとうとかじゃないの!?」
凛先輩は俺の言葉に驚愕していた。
今日は凛先輩の卒業式。
それはつまり、俺と凛先輩の高校生活最後の日。
一緒に登校する最後の日。足取りが重い。
「じゃあまた後でね。」
学校へ到着し、凛先輩はそう言って自分のクラスに向かった。
在校生も卒業式に参加しなくちゃいけないなんて本当に酷だと思う。
凛先輩が学校から居なくなるという現実を目の当たりにするなんて地獄以外の何でもない。
「九条おはよ〜、って…なにその顔…」
死んだ顔をした俺をみた田村はドン引きという様子だった。
「なぁ田村。俺も今日卒業していい?」
「なーにバカなこと言ってんだよ…」
「俺は本気だよ」
いや、自分でも到底バカな事を言っていると思う。
だが、言わずにはいられなかった。
「ったく…仕方ないだろ凛先輩は年上なんだから」
「なんで俺、凛先輩と同級生じゃないんだろ」
「それは知らねぇよ…」
田村を困惑させるような事をさっきから言ってるのは、こうでもしなきゃ今の自分を保てないからだ。
チャイムが鳴り、席につく。先生は来年はお前らも、だとか、卒業についてなにか熱く語っているがなにも頭に入らない。
(俺、凛先輩が居ない学校でやっていけるのかな)
卒業式、在校生は体育館の後ろの方の椅子に座る。
これだけ大勢人がいても、後ろ姿だけで凛先輩の姿を見つけられるのは自分の才能だと思う。
(凛先輩、寝癖ついてる)
かわいいなぁ、メロいなぁと思うとつい口元が緩む。
(でも、もうこんなの見れないんだな)
緩んだ口元も、残酷な現実を感じてすぐに戻った。
卒業式が終わり、卒業生はみんなそれぞれ、後輩や先生、友達と話し込んだり泣いたりしている。
俺が会いたいのは、ただ1人。
凛先輩を見つけると、向こうもこちらに気付いた。
「頼くん!」
そう俺を呼ぶ凛先輩が大好きで愛おしい。
俺は泣きそうになるのをグッと堪えた。
「凛先輩、校内デートしましょ」
俺はそう言って、凛先輩の手を引きゆっくり歩いた。
「俺ね、この高校滑り止めだったんだ。本命の高校落ちちゃってここ来たんだよね。」
しばらく歩くと凛先輩は突然そう言った。
俺は黙って聞いていた。
「でも今はもう滑り止めで来たとかは思ってなくて。3年間なんだかんだ楽しかったし、そしてなにより、」
凛先輩は俺の目をじっと見つめた。
「頼くんに出会えた大切な場所だよ。」
俺はもう我慢できなかった。
誰もいない、俺と凛先輩2人だけの廊下に俺はしゃがみ込んだ。
「俺、凛先輩がいなくなるの、本当に想像がつかなくて、怖いんです。」
涙を溢しながらそう言う俺に、凛先輩は目線を合わせて微笑んだ。
「俺もだよ。新しい場所に行くのも不安だけど、1番は、頼くんが居ないのが寂しい。」
俺はハッとした。
ずっと凛先輩だけが先に進んで、俺だけが取り残されているとばかり思っていた。
そうじゃないんだ、どうして早く気付かなかったんだ。
1番不安なのは、新しい場所にこれから飛び込もうとしている、凛先輩なのに。
「凛、先輩、俺…すみません、自分の事ばっか…」
俺がそう言うと、凛先輩は俺を優しく抱きしめた。
「一年の差って大きいよね。この差のせいでこれからも辛い思いする事あるかもしれない。でもね頼くん。」
凛先輩は抱きしめる腕にさらに力を込めて話を続けた。
「俺は絶対、頼くんを置いてけぼりにしないよ。どんな時も一緒だから。一緒に居なくても、同じ気持ちなら、一緒だよ。」
あぁ、俺は本当に情けない。
いつもそうだ、俺は凛先輩の言葉に、何度も救われる。
「凛先輩、卒業、おめでとうございます」
やっと言えた。おめでとうって、心からそう思えたんだ。
俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、凛先輩にキスをした。
*
凛side
1年後
「あれ?今日大学休みじゃなかった?」
玄関で靴を履く俺に母がそう尋ねた。
「うん、ちょっと出てくるね。」
「気をつけるのよ〜」
春。心地のいい天気に、まだ少しだけ冷たい風が頬を撫でた。
家から徒歩15分、そこに俺の通っている大学がある。
新入生が集まって写真を撮ったり話に花を咲かせている。
その時スマホに通知が入った。
それを確認すると俺は目的の場所まで急いだ。
「わっ、すみませっ…」
その瞬間、誰かの肩にぶつかり俺は咄嗟に謝ろうと相手を見上げた。
「まーた俺に怪我させるんですか?」
「なっ!?…頼くん…」
ニコニコと笑う頼くんがそこにいた。
「凛先輩、お待たせしました。」
俺は幸せな気持ちに胸がいっぱいになる。
「入学、おめでとう」
俺たちは溢れんばかりの笑顔で、
これからの未来に期待が膨らんだ。
end.
朝。アラームが鳴るスマホを手で探り音を止めた。
カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
俺は顔を洗い、歯磨きをし、朝食をとった。
いつも通りの日常。準備を整え、玄関を開ける。
「めっちゃ晴れじゃん。」
今日という日にぴったりの天気だ。
俺の沈んだ気持ちと真逆のような青空に皮肉を言われているような気持ちになる。
ついにこの日がやってきてしまった。
「凛先輩、おはようございます。卒業しないでください。」
「そこは卒業おめでとうとかじゃないの!?」
凛先輩は俺の言葉に驚愕していた。
今日は凛先輩の卒業式。
それはつまり、俺と凛先輩の高校生活最後の日。
一緒に登校する最後の日。足取りが重い。
「じゃあまた後でね。」
学校へ到着し、凛先輩はそう言って自分のクラスに向かった。
在校生も卒業式に参加しなくちゃいけないなんて本当に酷だと思う。
凛先輩が学校から居なくなるという現実を目の当たりにするなんて地獄以外の何でもない。
「九条おはよ〜、って…なにその顔…」
死んだ顔をした俺をみた田村はドン引きという様子だった。
「なぁ田村。俺も今日卒業していい?」
「なーにバカなこと言ってんだよ…」
「俺は本気だよ」
いや、自分でも到底バカな事を言っていると思う。
だが、言わずにはいられなかった。
「ったく…仕方ないだろ凛先輩は年上なんだから」
「なんで俺、凛先輩と同級生じゃないんだろ」
「それは知らねぇよ…」
田村を困惑させるような事をさっきから言ってるのは、こうでもしなきゃ今の自分を保てないからだ。
チャイムが鳴り、席につく。先生は来年はお前らも、だとか、卒業についてなにか熱く語っているがなにも頭に入らない。
(俺、凛先輩が居ない学校でやっていけるのかな)
卒業式、在校生は体育館の後ろの方の椅子に座る。
これだけ大勢人がいても、後ろ姿だけで凛先輩の姿を見つけられるのは自分の才能だと思う。
(凛先輩、寝癖ついてる)
かわいいなぁ、メロいなぁと思うとつい口元が緩む。
(でも、もうこんなの見れないんだな)
緩んだ口元も、残酷な現実を感じてすぐに戻った。
卒業式が終わり、卒業生はみんなそれぞれ、後輩や先生、友達と話し込んだり泣いたりしている。
俺が会いたいのは、ただ1人。
凛先輩を見つけると、向こうもこちらに気付いた。
「頼くん!」
そう俺を呼ぶ凛先輩が大好きで愛おしい。
俺は泣きそうになるのをグッと堪えた。
「凛先輩、校内デートしましょ」
俺はそう言って、凛先輩の手を引きゆっくり歩いた。
「俺ね、この高校滑り止めだったんだ。本命の高校落ちちゃってここ来たんだよね。」
しばらく歩くと凛先輩は突然そう言った。
俺は黙って聞いていた。
「でも今はもう滑り止めで来たとかは思ってなくて。3年間なんだかんだ楽しかったし、そしてなにより、」
凛先輩は俺の目をじっと見つめた。
「頼くんに出会えた大切な場所だよ。」
俺はもう我慢できなかった。
誰もいない、俺と凛先輩2人だけの廊下に俺はしゃがみ込んだ。
「俺、凛先輩がいなくなるの、本当に想像がつかなくて、怖いんです。」
涙を溢しながらそう言う俺に、凛先輩は目線を合わせて微笑んだ。
「俺もだよ。新しい場所に行くのも不安だけど、1番は、頼くんが居ないのが寂しい。」
俺はハッとした。
ずっと凛先輩だけが先に進んで、俺だけが取り残されているとばかり思っていた。
そうじゃないんだ、どうして早く気付かなかったんだ。
1番不安なのは、新しい場所にこれから飛び込もうとしている、凛先輩なのに。
「凛、先輩、俺…すみません、自分の事ばっか…」
俺がそう言うと、凛先輩は俺を優しく抱きしめた。
「一年の差って大きいよね。この差のせいでこれからも辛い思いする事あるかもしれない。でもね頼くん。」
凛先輩は抱きしめる腕にさらに力を込めて話を続けた。
「俺は絶対、頼くんを置いてけぼりにしないよ。どんな時も一緒だから。一緒に居なくても、同じ気持ちなら、一緒だよ。」
あぁ、俺は本当に情けない。
いつもそうだ、俺は凛先輩の言葉に、何度も救われる。
「凛先輩、卒業、おめでとうございます」
やっと言えた。おめでとうって、心からそう思えたんだ。
俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、凛先輩にキスをした。
*
凛side
1年後
「あれ?今日大学休みじゃなかった?」
玄関で靴を履く俺に母がそう尋ねた。
「うん、ちょっと出てくるね。」
「気をつけるのよ〜」
春。心地のいい天気に、まだ少しだけ冷たい風が頬を撫でた。
家から徒歩15分、そこに俺の通っている大学がある。
新入生が集まって写真を撮ったり話に花を咲かせている。
その時スマホに通知が入った。
それを確認すると俺は目的の場所まで急いだ。
「わっ、すみませっ…」
その瞬間、誰かの肩にぶつかり俺は咄嗟に謝ろうと相手を見上げた。
「まーた俺に怪我させるんですか?」
「なっ!?…頼くん…」
ニコニコと笑う頼くんがそこにいた。
「凛先輩、お待たせしました。」
俺は幸せな気持ちに胸がいっぱいになる。
「入学、おめでとう」
俺たちは溢れんばかりの笑顔で、
これからの未来に期待が膨らんだ。
end.
