あまりにも悲しかったので冒険者ギルドに避難しました。暴言を吐いてしまった私は、もうお兄ちゃんの顔が見れないからです。さっきの暴言を思い出して頬が熱くなって顔を両手で覆います。

 でも、少しの間だけでもお兄ちゃんと離れると、またお兄ちゃんに会いたくなってしまいます。私は自分の気持ちがコントロールできないのかもしれません。悲しさや愛しさが抑えきれないのです。

「お兄ちゃん、もっと私の事を見て! お願いっ!」

 でも悲しさは薄れるどころか増すばかりです。そんな時、ギルドの会計係のトムさんが私に声を掛けて下さいました。そこでお兄ちゃんとのことを(恋愛感情があることを伏せて)普通の家族の悩みとボカしながら相談したのです。

 彼は言いました。

「お兄さんを嫉妬させたらいいんじゃないかな?」

 そうです! お兄ちゃん嫉妬大作戦の始まりです。

「僕は夜勤が多いから、深夜に僕に会いに来れば、後をつけたお兄さんが嫉妬して……」

「嫉妬して私の事で頭がいっぱいに!」

「そう、そこでね、仲が(むつ)まじく見えるように少しだけ……ちょっぴりスキンシップを」

「それはダメです! お兄ちゃんは裏切れません。私はお兄ちゃんのものですから」

「そ、そうだね……」

「はい」

「でね、注意点。ユアイちゃんはお兄さんに敢えて嘘をついて僕と会うんだよ」

「女友達と遊びに行くと言っておいて男性と歩いていたりするやつですね!」

「呑み込みが早いよ。その通り」

 まさかこんな稚拙(ちせつ)な計画で、あっさりお兄ちゃんが引っかかって、狙い通り頭が一杯にユアイ(私)で占める様になろうとは、この時点では誰も想像もつきませんでした。

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【あの日の深夜】

「お兄さんが追ってきてるね」

「うふ、そうですね。嬉しいです」

「ユアイちゃん、手を繋ごうかい?」

「それはダメです!」

「肩か腰に手を回しても良いかな?」

「ダメですってば」

「キスしたらお兄さんの嫉妬もレッドゾーンだよ」

「そ、それは……でも、するフリだけなら……」

「じゃ、近寄って」

「あ、やっぱりダメです」

 両手で突き飛ばしてしまいました。

「ごめんなさい、こんなこと、するんじゃなかった……私帰ります」

「あ、ユアイちゃん……」

【数日後】

 冷静になり経緯をユアイから聞き出したお兄ちゃん(ヨシタカ)は、いくらユアイが可愛いからと言って、そんな嫉妬大作戦を実行してキスまで迫るとは言語道断、会計のトム氏は減給だとギルドマスターへ申し入れて、この騒動は終焉を迎えた。

「お兄ちゃん、ごめんなさい」「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 ユアイは声を上げて泣き続けた。彼女の望みは、兄ヨシタカに振り向いて貰うのみだった。それが全て。嫉妬の結果として会計係トムを巻き込み、大切な兄を傷つけただけで何も残らず、虚しさや虚無だけが彼女の心に木霊(こだま)した。

 まだまだ子供なユアイであった。

(というか、どうしてユアイはNTR方面に走ったのかな?)

(高校時代の夢のせいか……俺の……)