「あ、あの、よろしくお願いいたします。ユアイさん。お兄さんにはお世話になっています。ぼくはユキシと言います。突然の訪問、すみません。ぼくにも働く場所を下されば、お屋敷で一生懸命に頑張りますから雇ってください、お願いします!」

「えっ! 女の子!! あなた女の子よねユキシちゃん? 男の子の格好をしてるけど……」

「は、はい」

「「な、な、なんとっ」」

(驚いていたのはメイドさんたちだ。ユアイは一発でユキシが女の子だと看破したな……)

「うん、ユキシちゃんって凄く良い子ね。こちらこそ宜しくお願いしますね。これからは奇麗で可愛い格好をしましょう。似合うわよ」

「は、はい、ありがとうございましゅ……」

(噛んだな、可愛いじゃないかユキシ)

「お兄ちゃん、早く家に入ろ。お部屋もいつでも泊まれるように、住めるようにしてあるわ!」

「ああ、ユアイはいつも準備が行き届いているな。最高の妹だよ」

「最高の恋人って言ってくれなきゃヤダ」

「……なでこ、なでこ、ユアイいいこ、いいこ」

「恋人……って言ってくれなきゃヤダ」

「……なでこ、なでこ……愛してるよユアイ……」

「むふー仕方がない許してあげる。もっと抱き締めて」

(ユアイさんは、お兄ちゃんっ子なんだ……)

「あ、ユキシちゃん、ご年齢は?」

「十五才です」

「「えっ」」

「十歳前後だとばかり思ってたが……ユキシ、成人してるじゃないか」
(#この異世界では十五歳で成人になります)

「え~~~! お兄ちゃん、まさか、まさか、旅の途中、一緒に部屋で泊ったりとか……」

「年齢を聞くのもどうかと思ってはいたが、まさかの成人年齢とは……」

「「合法ロリ」」

「ちょっと待て、それ以上は言ってはいかん。今から過去を振り返ってマズいことを仕出かしてないか自分で自分に問いかけるから」

「大丈夫です、ヨシタカ兄貴からは何もされてませんから! 服を脱がそうとしてたぐらいで」

「あ、お兄ちゃんを兄貴呼ばわりって……服を脱がすって……こ、これって……」

「何にもしてないってばユアイ、それとユキシも紛らわしいこと言わないで」

「は~い」

「これからは俺の事を兄貴じゃなくってヨシくんとでも呼んでくれ」

「ヨシくん様……」

「様は要らない」

「ヨシくん」

「お兄ちゃん、ヨシくん呼びは私専用って女神様(ハルちゃん)が怒るわよ。少しは躊躇するとか、葛藤とかほしいところだと思うんだよね」

「ヨシ兄ちゃんって呼びますね」

・・・・・・・・・・

「お兄ちゃんがユキシちゃんの服を脱がそうとした件、詳しく聞きましょうか」

「そうそう、俺、侯爵になってるみたいだ」

「お兄ちゃんが? 確か魔王討伐時に子爵から伯爵に上げるって言われてたよね」

「それは俺以外の皆だな。俺だけは位が低くて騎士爵から男爵になった。で、転移して確認したらこれが証明する短剣で、ちゃんと侯爵の紋章もついてる。いつの間にか陞爵(しょうしゃく)してたんだよ」

「わたしも伯爵になってるのかしら?」

「女神様と王族の契約だからな、サトシたちも伯爵になってると思うぞ。実感はないけど」

「今でも国王様に頼めば領地がもらえるのかしら」

「広大な領地を得てスローライフというのもオツだな」

「お兄ちゃんが侯爵なら上は王族に連なる公爵しかないわ。怖いものなしね」

(エレーネの時のリンドバーグ伯爵家でひと暴れしようかと思った際に考えたんだよな。伯爵が俺に逆らうのかってさ。一度やってみたいとは思う……庶民感覚だけど)


(ユキシちゃんの服を脱がせた件、スルーしないで!)

(脱がしてないって! 風呂に入れようとしただけなんだよ)

(ほんとかなぁ~、お兄ちゃん、唐変木なところがあるし)

(同じような事ならユアイにもしてるぞ? だからそんなに大したことじゃない)

(じゃ一緒に寝たんだ)

(いや一緒に寝るだろ、野営とか宿で。宿は部屋が勿体ないから一つだし)

(え~~~~~! 私気絶しちゃいそう……)

(まったく、ユアイも兄離れが出来てないなぁ)

(ッツ! そんなことないも~ん、だ)

(で、問題はこれで解決したか? 納得できたか?)

(お兄ちゃん、気づいてないでしょ。ユキシちゃんって凄い美少女だよ)

(男の子に見えるのに?)

(ボーイッシュな美少女。あとでお風呂に入って顔や肌を奇麗にしたら分かるわ)

「あの~~、お二人とも声が小さいけど聞こえてますけん」

「さっ! 髪の毛も徹底的に奇麗にするわよ」

(お兄ちゃん、奇麗になったユキシちゃんが食事してふくよかになったら困るわよ)

(ボーイッシュでふくよかにねぇ。想像つかないぞ)

(私より可愛くなるかもよ)

(ユアイより可愛い娘なんていないだろ)

(お兄ちゃんも妹離れしてなくて良かったわ)