「きゃぁーーーーーーーーっ!!!」

 絹を裂くような女の子の悲鳴! 俺は習性から早速声の方へ向かう。身体が軽い、速い。足はとてつもなく速くなった。道を外れた林の前の広場でお約束のように五頭の魔狼に囲まれている少女がいた。広場にある小さな木を背にして今すぐにでも殺されそうだ。

「よし、ストロング付与」

 自分の身体に強化魔法をかける。付与術師の付与の優に十~百倍以上もの強力な力が得られるのが聖付与師、俺のスキルだった。あっという間に魔狼五頭を瞬殺、少女の方を見て「大丈夫だったか?」と聞いた。たぶん俺の動く姿は彼女には見えないほど速かったはずだ。

「ああ……B級魔狼の五頭が一瞬で……」

 彼女は突然現れた俺を見て驚きながらも頷いた。金髪の可愛らしく気品のある娘で年齢はユアイより少し下ぐらいか。十三~十五歳ぐらいで汚れた神官服を着ていた。帽子も服も何もかも神官そのもの。魔法を出す杖も手放さずに持っていた。魔狼から最後に転げまわるように逃げたせいで白い清楚な服が汚れて黒くなっていた。一瞬、神官とは思えなかったが、俺の古い記憶では上位の聖職者の服じゃなかったか。助祭より上位、司祭様かも。

 現場である林に近い広場は馬車の休息場だった。他に人らしきものはいなかった。壊れた馬車と襲われた後の遺体が十数体、家人の遺体もか? 護衛の遺体も複数あった。どこかの良家のお嬢様かもしれないな。

 まずは名前から聞いていこうか。いや彼女に聞く前に俺の自己紹介が先だな……。

「僕はヨシタカ。冒険者だよ。安心してくれ、僕は君に危害は加えないし、これから先も守ってあげよう。次の街まで一緒に行こう。そして君は聖職者、神官だね? あっちで倒れている馬車やご遺体は君の関係者かな?」

 なるべくフレンドリーに話しかける。ユアイなら言葉すら不要で家族ハグ一発なのだが、他のお嬢様にはそんなこと出来ないからな。

「は、ハイッ! 神官でしゅ……神官……です。(わたくし)エレーネ・リンドバーグと申します。あ、あの助けて頂きありがとうございました。冒険者ヨシタカ様……あちらで殺されてしまったのは護衛とメイドの方々です。最後まで私を逃がしてくださいました……」

 涙をためるエレーネ。

「あい分かりました。どこの良家のお嬢様かはこれ以上お聞きしませんが、次の街までご一緒しましょう」

「ヨシタカ様、そんなに急に敬語にしなくても、さっきのように気軽にお願いします……」

 しゅんとするエレーネ。どうやら良家の教育と神官の品行方正さで無垢な美少女イメージが突き抜けている雰囲気。二百年後の異世界で最初に出会った女の子だ、庇護欲がたいへん高まってしまったヨシタカであった。

「わかったよ、エレーネ」

「ありがとうございます! ヨシタカさま」

「俺の事は、そうだなぁ、ヨシくんと呼んでくれ」
(その呼び方は(ハル)だけの、女神様(ハルちゃん)専用よ! と仰っていらっしゃったが、まぁ今居ないし大丈夫)

 女神(ハル)「ムゥ……(ピクッ)」

「はい、分かりました。ヨシくん様」

「壊れた馬車を片付け、遺品を回収、今夜は亡くなられた方々を弔ってテントで野宿をしよう。明日は街へ向かって進んで、そうだな、エレーネのスキルも把握しておきたい。俺を信頼して君が使える魔法とか教えておいてくれないか。いいかな?」

 ユアイで鍛え上げられた妹用スマイルを披露する。

「は、はいっ!」

 安心したのか涙を流しながらも笑顔になったエレーネ。心細かったのだろう、そして今まで気丈に振舞って頑張っていたのだろう、俺は良かったと胸をなでおろした。今夜はその辺でウサギ二~三羽捕まえて、お兄ちゃん特製の料理を作ってあげるかな。