なんと気軽に神の化身でもあるマナ様と友達になってしまっていたユキシ。とりあえず俺的には「初恋だったのか、失恋おめでとう」と優しく慰めるしかなかった。

 マナちゃんはというと、ユキシと俺のことをかなり気に入っており、俺たちのオーラというか波動がマナちゃんに大変によく馴染むらしい。俺は元勇者パーティということで女神様の身内扱い、ゆえに神気にはよく触れており、たぶんだがユキシにも影響を与えたのだろうと思われる。

 マナとユキシは、和気あいあいと川で跳ね石を競って遊んだり、水の中に入って泳いだりと楽しんでいた模様。俺は保護者にでもなった気分だった。まぁ、明日には村を出発して「さようなら」しないといけない。今日は目いっぱいに楽しんで貰いたい。

 マナから「渓流で事故が起きるのはね、ぬめりやコケのある岩で滑って頭を打つというの以外にも、特に落ち込みの泡が立っている場所は、泳ごうとしても重力が勝って浮かび上がれないのよ。これワンポイントね」などと役立つ話も多く聞かされ、ユキシも今後に役立てられると思う。

 日中で暑くなった際、上着も全部取って泳ごうとなったが、ユキシが物凄く恥ずかしがり、マナが「気にしなくてもいいのに」と女子と男子の立場が逆転している妙な光景があった。もちろん俺は何もしない無害を徹底していた。

「ぼ、ぼく、女の子だもん! 兄貴が見てるのに裸になんてなれないもん!」

 ヨシタカ(うん、知ってた)

 そろそろ夕方である。渓にも影が多くなり、薄っすらと霧が立ち込め、やや正常ではない世界の雰囲気が漂い始めてきた。遠目に山を見れば雲が下りてきており、夕日が所々覗いて奇妙な形を作り、昇り竜や、天使の梯子(はしご)が真横に出来ていたりと、幻想的な光景には感動を禁じ得ない。

 ユキシは「じゃ、僕たちそろそろ帰るね」とマナに話しかけると、マナは悲しそうな表情を見せ、両目の視線を真っ直ぐにユキシと俺に注いだ。

「また、きっと会えるかな?」

 マナはたぶん勇気をもって話しかけたと思う。返事が分かり切っていたからだ。

「もちろん会えるよ。この近くの村に寄ったら、きっとこの渓にも寄るからね」

「ありがとう、ユキシくん」

「俺も気にしておくよ。イワナの神様は非常に珍しい。だからキミを守りたい」

「ありがとうございます、ヨシタカさま」

「そうそう、お菓子を持ってきたかったんだけど昨夜に座敷童に取られちゃってね。今はお菓子がなくて残念だ。お供え物って感じでも渡したかったな」

「あ、それ、お友達が持ってきてくれました。飴ちゃんを頂いたわ」

 どうやらマナは座敷童とお友達だったらしい。俺の部屋から盗まれたお菓子や飴ちゃんは彼女へと巡り巡って渡されたとのこと。何やかんやと偶然ながらも間接的に座敷童とも交流できて良かったというか、何というか。

 この村には次に(二回目)来れるのだろうか? 地図を眺めてチェックしようとしたら場所が分からなかった。

 村に来るときも馬車の車輪が壊れて床やシーツのメンテで数日滞在するということで臨時での訪問だった。それ故、御者も客も誰もこの村の場所は知らなかった。宿の女将さんなど食堂の人たちも他の町との交流はあっても場所の相関関係は分からないという。

 村に近づくときは、霧でガスった境界のエリアを通過する必要があり、そこを普通に通っても元の場所に戻ってしまい、肝心の村に辿り着くのは容易ではないそうだ。妖精の棲む村、そもそもがエルフのような幻惑な結界を張っているのかもしれない。しかもエルフのような人工的ではなく、自然に張られている結界だ。

 かつて、マナは「また会いましょう」と挨拶をして、待てど二回目が来たことはなかったという。それが分かっていたからこそ、先の挨拶「またね」が最後だと覚悟していた。

「せっかく友達になったのだから、また会いたい。また来てくださいね。一同、お待ちしています……」

 今回だけはきっとヨシタカが叶えてくれるだろう。