リンドバーグ伯爵家から帰郷に向かうこと数日、すでに隣の領地へと入っていた。(ヨシタカ)は乗合馬車で親しくなったユキシという男の子と一緒によくいた。日焼けした短パンの男子で十歳前後、俺のことを兄貴と呼ぶようになっていた。

「ねえねえ兄貴、この次の宿場なんだけど、座敷童(ざしきわらし)とか出るんだって。森にも精霊が宿ってて不思議な村なんだってさ」

「へぇ楽しそうな村だな」

 このユキシは馬車の荷物の上げ下ろしで仕事をし、お小遣いをもらって生計を立てていた。結構ハードな仕事だと思うのだが、俺は一生懸命に働き、誠実そうなユキシを雇い、少し多めにお小遣いをあげていた。

 村の正門のところで門兵と御者たちが会話しているのをユキシが聞いてきた。こういう役割も彼に与えていた。

「ヨシタカの兄貴、どうやらここには数日の滞在になるようだ。馬車の車輪などの修理があるみたい。床やシートなどのメンテもあるってさ」

「そうか……小さな村で滞在はいいけど、ロマンチックな精霊や座敷童と遊べるのなら楽しい滞在になりそうだ。ユキシも羽をのばすがいい」

「うん兄貴、自由に遊んでくるよ」

「おう」

 ヨシタカとユキシは宿をとり、部屋はヨシタカと同居で一部屋、風呂なし朝夕食事つきで銅貨六枚であった。ユキシはさっそく周辺の探検に出かけていた。

★★★★★

 村のはずれから小さな谷のある渓流に出られる。この川は水量も普通にあって枯れてはいない、ギギやアブラハヤ、ウグイや、特にヤマメ、イワナなどの水の奇麗な場所を好む渓魚が住み、焼くだけで味がおいしく、村人たちの貴重な、たんぱく源になっていた。

 一方、中流まで下るとアユやコイ科がふえ、キャベツやレタス系の野菜の生産成功により長く健康に定住がしやすくなり、周辺の生活を豊かなものにしていた。必然的に村は大きくなり町に発展していった。

 こういった定住可能な地域ごとに特産品の交易が盛んになりユキシのような子供でも荷下ろしという仕事にありつけた。

 ユキシは村の裏手を流れる渓流に沿って歩いていた。小さな妖精たちが浮遊しているという噂通り、自然が豊かで小さなミツ蜂のような妖精たちがそこかしこで遊んでいた。

 かなり歩いた。するとドーム状になった草や木の混合しているエリアについた。ここだけが少し特殊だった。草木が一緒に大きなドームを作るだなんて、何だろうと興味を持ち、中に掻き分けて入ってみた。奥へ進めば渓流が流れているので、川辺に至るまでの妙な空間だった。

 その空間、トンネルのようなものを潜り抜けると大きな川べりに出た。複数の巨大な岩や小さな砂場があり、渓の水量は多く、プールのような淵になっていた。水に透明度があるので宝石のようなパーマーク付きの小魚が舞っているのが見えた。水底の渕尻のほうには巨大な渓魚が見えた。秘密の場所を見つけたぜ! とユキシが歓喜した。

 割と大きな空間であったその場所は、上流側も下流側も巨大な岩や険しい壁に遮られ、気楽には移動できそうになかった。渓流の遡行は、登山でも上級者のレベルが必須で、釣り人も大体が専門で行い、海釣りのベテランが渓流ではさっぱりという程腕の差が出る。気楽に渓流釣りを選んで遭難死というのも多々あった。