■ホテルリゾートマリアンヌ2F エレベーターホール
25:38 視聴者数:15254

 レイに続きマモルまで消えてしまい、ユア達は4人になってしまった。
 このままでは不味いと、話し合う4人。配信のコメントを見る為には、マモルの持つノートパソコンだけが頼りだった。
 何故か圏外のスマートフォンでは、配信画面を見る事は出来ない。
 だがマモルは既におらず、もうここに居る4人で考えるしかない。
 そして視聴者達も、彼らにはもうアドバイスが出来ない。ただ彼らを見守る事しか出来ない。

「これからどうする? もうこれ以上減るのはゴメンだぞ」

 カズトは苦々しい表情で、これからの指針を問う。彼は肉体労働派で、頭脳労働は苦手だ。
 他の3人も、そこまで頭が良いタイプではない。現場で動く方が得意である。
 ブレーンを失った彼らは、これからどうするのだろうか。6つある映像の内、2つは真っ黒になっている。
 消えた2人は生きているのか、それとも死んでいるのか。支配人の歓待は、どの様なものなのだろう。

「…………このまま脱出の手段を探すしかない」

 ミナトはそう答えた。確かにそれしかないだろう。ジッと待っていれば解決するとは思えない。
 コメント欄では様々な考察と、彼らへの応援で溢れている。無事に帰って来てくれと、願うコメントが流れて行く。
 プロパンガスを爆発させたらどうかと、コメントで書いている者が居る。

 だがマリアンヌは解体工事が二度行われている。そんな危険物は真っ先に撤去されている筈だ。
 仮に残っていたとしても、それでガラス戸が破れるかは怪しい所だ。
 これはサメ映画ではないのだから、爆発で解決する様な話ではないだろう。

「換気ダクトとか、上手く使えないかな?」

 ユアが思いついた事を発言する。そう悪くない提案だと、視聴者達は受け止めている。
 もし入口まで繋がる様なダクトがあれば、そこを通れば脱出できる可能性はある。

「確か4階に、スタッフルームがあった筈。地図とかあるかもな」

 案内表示を見て覚えていたミナトが、4階へ行く事を提案する。

「何もしないよりは良いか。俺は構わないぜ」

「ウチも」

 カズトとマホも賛成したので、ユア達はスタッフルームを目指して移動する。
 マモルを連れて行った何者かに警戒しつつ、慎重にユア達は進んで行く。
 先頭をミナトが、殿をカズトが担当して女子2人を守りながらの移動だ。
 無事に4階へと到着したミナトは、安全を確認してから3人を呼んだ。

■ホテルリゾートマリアンヌ 4F スタッフルーム
25:53 視聴者数:15852

 深夜2時前ともなれば、流石に視聴者の伸びが落ち着いたのか急激な増加はない。
 しかし大きく減る事もなく、同時接続者数はかなり高い。同接のランキングに載っている様だ。
 心霊スポットの配信が、本物ホラーになったのだ。こうなるのも無理はない。
 このままアーカイブが残れば、とんでもない再生数を稼ぐだろう。
 だが今はそんな事より、彼らが無事生きて帰ってくれる方が遥かに大切だ。
 スタッフルームで地図を探す彼らは、あちこちの棚や机を探し回っている。

「どうだカズト、あったか?」

「いやまだだ、見つからん」

 お互いに声を掛け合いながら、彼らは探索を続ける。そうでもしないと不安なのだろう。
 既に2人も仲間が居なくなり、怪しげな存在も目にした。気丈に振る舞っているが、恐怖心は今もあるに決まっている。

「マホはどう〜?」

「それっぽいのは無いかなぁ」

 どこに何があるかも知らないのだ。彼らが都合良く簡単に地図を見つけられる筈もない。
 そのまま10分以上、地図を探し続ける彼らの映像が流れ続けている。
 またいつおかしな現象が起こるか分からない。観ているこちらも緊張感が高まる。

「あったぞ! 建物の地図だ!」

 ミナトが遂に目的の地図を見つける。排水管やダクトなど、詳細が書かれている様だ。
 カメラ越しなので細かい文字は読み辛いが、書かれている事はある程度分かる。
 ミナトは地図を見ながら、換気ダクトの流れを読み取って行く。
 こう言う時はマモルが1番適任なのだが、居ないのだから仕方ない。
 頭脳労働派ではない彼らだけで、どうにかしないといけない。
 時間を掛けて彼らは、防火扉の向こうへ繋がる換気ダクトを発見した。

「これだ! 防火扉から少し離れた壁面だ。このダクトなら、防火扉の向こうに行ける」

 遂に脱出ルートを見つけた彼らは、明るい表情を見せる。暗く淀んだ空気が、少し晴れた様子だ。
 視聴者達も新たな光明に、喜びを示している。このまま彼らが無事に脱出できれば。
 それを願う視聴者は大勢居る。もう心霊現象がどうとか支配人だとか、そんなものはどうでも良い。
 早速行動を開始しようと、ユア達はスタッフルームを出る。そして1階へ向かおうとした時、異変が起きる。
 画面にノイズが入り、しっかりとした映像が見えない。何が起きているのだろうか。
 カズトのカメラ映像に、白い何かが映っている。人間の様に見えるが、詳細は分からない。

「……け! ここは任せ……」

 音声も途切れ途切れで、良く聞こえない。電波障害でも起きているのだろうか。
 元々スマートフォンが圏外なのに、何故か配信は続いているという状態だ。何が起きても不思議ではない。
 読み取れるのは何者かが現れて、カズトが対象に回ったのだろうか? という程度だ。
 その直後にカズトのカメラが落下して、床を転がり壁か何かにぶつかって止まる。
 彼も駄目だったのかと、落胆と悲しみが視聴者に広がる。ミナト達3人の映像が元に戻り、彼らは1階へ向かっているのが分かった。

「はあ……はあ……クソッ!」

 ミナトが立ち止まり壁を叩く。仲の良かった仲間達が、今では3人まで減ってしまった。
 彼の悲しみは相当なものだろう。楽しく青春を謳歌していた彼らが、あまりにも不憫でならない。
 観ていられなくて、視聴を断念する者も少なくない。それでも視聴者数は伸びているので、相当な注目を集めているのだろう。

■ホテルリゾートマリアンヌ 1F 東廊下
26:14 視聴者数:16072

 カズトまで失った事で、3人はより慎重に移動している。出来るだけ早く行きたいが、何が起きるか分からない。
 そんな彼らの気持ちが、観ている側にも嫌と言うほどに伝わってくる。
 このまま全滅してしまうのではないか、そんな懸念をしている者も居るようだ。

「アイツは来ていないな?」

 ミナトが周囲を確認しながら、慎重に先導して行く。先頭がミナト、真ん中にユア、そして最後尾がマホである。
 恐らくは彼らが遭遇した、例の支配人と思われる存在を警戒しているらしい。
 ハッキリとは見えなかったが、マモルを掴んだ腕や先程の白い服らしき物は、制服だと思えば納得が行く。
 生前と変わらず、真っ白な制服を着て今も支配人はマリアンヌで働いている。
 もはやその事を疑う者は、ここの視聴者には居ないだろう。
 彼らを助けに行くと表明した者達も居るが、警察の説明が事実なら…………恐らくは行っても彼らを救えない。

「オッケーだ。来てくれ」

「分かった」

 慎重に歩みを進めるミナトに続き、ユアがその後を追いかける。開いたドアなどの遮蔽物を利用し、姿を隠しながら進んで行く。
 それが果たして支配人に有効なのか、それは誰にも分からない。
 ドアの影に隠れたユアが、後方に居るマホを呼ぶ。

「良いよマホ!」

「オッケー!」

 小声でやり取りをしながら、マホがユアの後に続く。ホッと一息ついた時、真っ白な腕がマホの頭を掴んだ。

「いやあああああああ!?」

「マホーーーーー!!」

 物凄い速度でマホは暗闇へと消えて行く。一瞬で見えなくなったマホ。
 彼女の画面は信じられない速度が出ており、人間が出せる移動速度ではない。
 カメラが何かにぶつかったのか、マホの頭部から落ちて階段を転がり落ちていく。
 階下に落ちたカメラは、天井を映したまま何の動きもない。ユア達はもう、2人しか残っていない。