■ホテルリゾートマリアンヌ 1F エレベーターホール
24:10 視聴者数:9534
ユア達6人の高校生は、マリアンヌから脱出する方法を探している。
1階から外に出る事は難しく、窓は嵌め殺しで破る事は出来ない。
恐怖心に駆られたレイが、半ばパニック状態へ。泣き叫びながら訴える。
「だから出ようって行ったじゃない! どうするのよこれから!?」
これまでには、起きた事がないトラブル。明らかに普通でない状況。
あった筈のドアが消えており、硬く閉ざされた防火扉は開けられない。
ホラー映画のような映像だった配信は、本物のホラー映像と化している。
SNSなどで情報を知ったのか、配信には視聴者が雪崩込んで来ている。そろそろ1万に届く。
「大丈夫だレイ、俺が方法を考えるから。だから落ち着いてくれ」
マモルが幼馴染のレイを軽く抱き締めて、冷静になるように宥める。
「そうね。落ち着いて考えましょう、私達も」
ユアが代表して場をコントロールする。こんな所で言い合いをしても、何かが変わるわけじゃない。
まだ1階から出られないというだけで、2階からどうにかして出られるかも知れない。
コメントでも2階からはどうだと、沢山の指摘が入っている。一度状況を整理する為にも、マモルはノートパソコンで視聴者の反応を見る。
「ああそうだな。皆がコメントしている様に、2階から出られないか試そう」
視聴者とマモルのプランを否定する理由はない。ユア達は一旦2階へと上がり、脱出が出来ないか調べに行く。
客室の窓やベランダからなら、外に出られる可能性は十分にあると思われる。
6人が2階の適当な客室に入って、ベランダに出ようと鍵を開けようとした。
「な、何だこれ? 鍵が動かない!」
ミナトが全力で鍵を開けようとするが、一向に外れる様子はない。
「どけミナト、俺に任せろ」
空手を習っているカズトは、かなりの実力者である。たまに瓦割りを配信で披露している。
カズトがベランダのガラス戸に近付き、右足を大きく振り被る。繰り出された上段蹴りは、綺麗に決まるもガラスは割れていない。
「なっ!? 本気で蹴ったぞ!?」
もう一度カズトが蹴りを放つが、ガラス戸は綺麗なままだ。枠ごと外れる事もない。
「離れろカズト!」
今度はミナトが室内にあった椅子を持ち上げ、全力でガラス戸へと投げつける。
しかしガラス戸は壊れる事なく、壁に当たったかの様に椅子を弾き返した。
あまりの出来事に、ミナト達はもちろん視聴者も困惑するしかない。
これで壊れないガラス戸なんて、誰も見た事がない。しかも昭和に建てられたホテルだ。
特別頑丈なガラス戸を使っているとは思えない。しかし映像では、全く壊れる気配がない。
「どうなってんだよ!?」
カズトが再び蹴りを放つが、やはりガラス戸は健在だ。ヒビ割れすら出来ていない。
「待て! 5階の窓だ! さっきの部屋の!」
マモルが飛び降り自殺に使われた窓を思い出したらしい。
あそこならば既に、窓ガラスが割られている。
他のガラスが割れないとしても、気にする必要はない。外に出る事は可能だ。
「だが5階だぞ?」
ミナトがその高さは無理だろうと訴える。出られるとしても、良くて大怪我。最悪の場合は死ぬ。
「倉庫があっただろう、あそこで縄梯子とロープを見た。継ぎ足して行けば長さは足りると思う。ミナトがボーイスカウトをやってたよな? 縄を結べるか?」
「あ、ああ。まだ覚えているよ」
マモルが脱出のプランを立てて行く。こう言う時こそ役に立つのが彼の真骨頂である。
「1階でユアが脚立に躓いてたよな? あれも使おう。1番先に括りつけて、下に降ろせば縄が安定する」
次々と決まっていく脱出プラン。マモルの案を採用する事に決めたユア達が、二手に分かれて必要な物を取りに行く。
かき集めたロープと縄梯子は、5メートルのロープが3本と、2メートルの縄梯子が1つ。
「5階は大体15メートルぐらい。脚立も合わせれば地上まで足りる筈だ。ミナト、しっかり結んでくれよ」
「任せろ」
マモルの目算通りなら、地上まで届く長さになるらしい。
他の5人と視聴者が見守る中で、ミナトがロープを繋げて行く。縄梯子も含めて約17メートル。
結ぶ際に少し短くなると考えても、16メートルはある。そこに脚立を足せば、確かに十分そうに思える。
「よし、出来たぞ!」
ミナトがロープと縄梯子をしっかりと繋げた。後は脚立と結んで窓から降ろすだけ。
「脚立と結ぶのは後で良い、5階まで早く行こう」
脚立をカズトが持ち、結んだロープと縄梯子をミナトが運ぶ。どうにか見えて来た光明に、6人の雰囲気が和らぐ。
観ている視聴者達も、これで助かると安心していた。そろそろ警察も来る筈だと、通報したらしき人物のコメントも流れた。
■ホテルリゾートマリアンヌ 5F 西廊下
24:30 視聴者数:10582
今では1万人を超える視聴者が、彼らの配信を見守っている。後から来た視聴者に、最初から観ていた視聴者が状況を説明する光景が何度も繰り返された。
そうして迎えた、いざ脱出の時。5階まで上がって来た彼らの前に、割れた窓など無かった。
「何でだよ!? この部屋だよな!?」
間違えたつもりはないと、マモルが部屋の外に出て確認する。他のメンバーが近くの部屋も確認する。
しかしどの部屋を見ても、割れた窓は無かった。階を間違えていない事も確認した。
まるで魔法の様に、直ってしまったというのか。信じられない光景に、視聴者達も理解が出来ない。
ユア達だけの見間違いじゃない。3000人近い視聴者が、あの飛び降り自殺を目にした。
有り得ない事が起きている。ただ配信を観ている者までも、恐ろしい何かを見せられている。
「ちくしょうふざけんな!」
カズトが割れていた筈の窓ガラスを蹴る。しかし先程と同様に、ヒビすら入る事はない。
「嫌だ! 帰りたい! こんな所もう嫌!」
レイが泣き崩れて、その場にへたり込んでしまう。怖がりな彼女には、あまりにも過酷な状況だ。
いつもはレイが怖がる所を楽しんでいた者も、何も言えない空気が広がっている。
とてもビビりだと、笑える状況ではない。ただ彼女の悲痛な叫びが、配信画面から流れて来る。
「お、おい、死体が消えてるぞ! パトカーなんて来てないよな!?」
ミナトが窓から地上を見る。しかしどこにも死体などない。血の跡すらも無いように見えた。
「嘘でしょ!?」
ユアが驚いてミナトの隣に移動する。確かに窓から見える範囲には、飛び降りた死体が発見出来ない。
「レイ、あっちに行こう」
これ以上不安を感じさせない為に、マモルがレイを抱き起こして向かいの部屋に移動させる。
ドレッサーの前にあった椅子へレイを座らせ、泣いている彼女を抱き締める。
暫くそうしていたら、落ち着いたのかレイは泣き止んだ。
「ちょっと待っていろ。また手を考えるから」
入口のドアは開けたままで、マモルは皆がいる反対の部屋へと移動した。
次の瞬間に、バタンとドアの閉まる音がした。思わず振り返ったマモルは、閉ざされたドアを叩く。
「レイ! どうした!? お前が閉めたのか!?」
「ち、違う! 勝手に閉まったの! 怖いよマモル! 助けて」
慌ててマモルはガチャガチャとドアノブを動かすが、ドアは全く動かない。
レイの画面ではまた泣きながら、ドアを開けようと必死になっている。
騒ぎに気付いたらしいミナト達が、マモルを手伝うがドアは開く気配がない。
「クソッ! レイ! 絶対開けてやるから!」
マモル達が全力でドアを破ろうとするが、まるで壁に変わってしまったかの様に動かない。
暫くするとレイの画面に異変が起こる。急に逆さ吊りになったかの様に、視界が反転する。
彼女の叫び声が響いたあと、カメラが落下したらしく画面にヒビ割れが起こる。
そのすぐ後にドアが開くも、マモル達の画面にレイの姿は無かった。
24:10 視聴者数:9534
ユア達6人の高校生は、マリアンヌから脱出する方法を探している。
1階から外に出る事は難しく、窓は嵌め殺しで破る事は出来ない。
恐怖心に駆られたレイが、半ばパニック状態へ。泣き叫びながら訴える。
「だから出ようって行ったじゃない! どうするのよこれから!?」
これまでには、起きた事がないトラブル。明らかに普通でない状況。
あった筈のドアが消えており、硬く閉ざされた防火扉は開けられない。
ホラー映画のような映像だった配信は、本物のホラー映像と化している。
SNSなどで情報を知ったのか、配信には視聴者が雪崩込んで来ている。そろそろ1万に届く。
「大丈夫だレイ、俺が方法を考えるから。だから落ち着いてくれ」
マモルが幼馴染のレイを軽く抱き締めて、冷静になるように宥める。
「そうね。落ち着いて考えましょう、私達も」
ユアが代表して場をコントロールする。こんな所で言い合いをしても、何かが変わるわけじゃない。
まだ1階から出られないというだけで、2階からどうにかして出られるかも知れない。
コメントでも2階からはどうだと、沢山の指摘が入っている。一度状況を整理する為にも、マモルはノートパソコンで視聴者の反応を見る。
「ああそうだな。皆がコメントしている様に、2階から出られないか試そう」
視聴者とマモルのプランを否定する理由はない。ユア達は一旦2階へと上がり、脱出が出来ないか調べに行く。
客室の窓やベランダからなら、外に出られる可能性は十分にあると思われる。
6人が2階の適当な客室に入って、ベランダに出ようと鍵を開けようとした。
「な、何だこれ? 鍵が動かない!」
ミナトが全力で鍵を開けようとするが、一向に外れる様子はない。
「どけミナト、俺に任せろ」
空手を習っているカズトは、かなりの実力者である。たまに瓦割りを配信で披露している。
カズトがベランダのガラス戸に近付き、右足を大きく振り被る。繰り出された上段蹴りは、綺麗に決まるもガラスは割れていない。
「なっ!? 本気で蹴ったぞ!?」
もう一度カズトが蹴りを放つが、ガラス戸は綺麗なままだ。枠ごと外れる事もない。
「離れろカズト!」
今度はミナトが室内にあった椅子を持ち上げ、全力でガラス戸へと投げつける。
しかしガラス戸は壊れる事なく、壁に当たったかの様に椅子を弾き返した。
あまりの出来事に、ミナト達はもちろん視聴者も困惑するしかない。
これで壊れないガラス戸なんて、誰も見た事がない。しかも昭和に建てられたホテルだ。
特別頑丈なガラス戸を使っているとは思えない。しかし映像では、全く壊れる気配がない。
「どうなってんだよ!?」
カズトが再び蹴りを放つが、やはりガラス戸は健在だ。ヒビ割れすら出来ていない。
「待て! 5階の窓だ! さっきの部屋の!」
マモルが飛び降り自殺に使われた窓を思い出したらしい。
あそこならば既に、窓ガラスが割られている。
他のガラスが割れないとしても、気にする必要はない。外に出る事は可能だ。
「だが5階だぞ?」
ミナトがその高さは無理だろうと訴える。出られるとしても、良くて大怪我。最悪の場合は死ぬ。
「倉庫があっただろう、あそこで縄梯子とロープを見た。継ぎ足して行けば長さは足りると思う。ミナトがボーイスカウトをやってたよな? 縄を結べるか?」
「あ、ああ。まだ覚えているよ」
マモルが脱出のプランを立てて行く。こう言う時こそ役に立つのが彼の真骨頂である。
「1階でユアが脚立に躓いてたよな? あれも使おう。1番先に括りつけて、下に降ろせば縄が安定する」
次々と決まっていく脱出プラン。マモルの案を採用する事に決めたユア達が、二手に分かれて必要な物を取りに行く。
かき集めたロープと縄梯子は、5メートルのロープが3本と、2メートルの縄梯子が1つ。
「5階は大体15メートルぐらい。脚立も合わせれば地上まで足りる筈だ。ミナト、しっかり結んでくれよ」
「任せろ」
マモルの目算通りなら、地上まで届く長さになるらしい。
他の5人と視聴者が見守る中で、ミナトがロープを繋げて行く。縄梯子も含めて約17メートル。
結ぶ際に少し短くなると考えても、16メートルはある。そこに脚立を足せば、確かに十分そうに思える。
「よし、出来たぞ!」
ミナトがロープと縄梯子をしっかりと繋げた。後は脚立と結んで窓から降ろすだけ。
「脚立と結ぶのは後で良い、5階まで早く行こう」
脚立をカズトが持ち、結んだロープと縄梯子をミナトが運ぶ。どうにか見えて来た光明に、6人の雰囲気が和らぐ。
観ている視聴者達も、これで助かると安心していた。そろそろ警察も来る筈だと、通報したらしき人物のコメントも流れた。
■ホテルリゾートマリアンヌ 5F 西廊下
24:30 視聴者数:10582
今では1万人を超える視聴者が、彼らの配信を見守っている。後から来た視聴者に、最初から観ていた視聴者が状況を説明する光景が何度も繰り返された。
そうして迎えた、いざ脱出の時。5階まで上がって来た彼らの前に、割れた窓など無かった。
「何でだよ!? この部屋だよな!?」
間違えたつもりはないと、マモルが部屋の外に出て確認する。他のメンバーが近くの部屋も確認する。
しかしどの部屋を見ても、割れた窓は無かった。階を間違えていない事も確認した。
まるで魔法の様に、直ってしまったというのか。信じられない光景に、視聴者達も理解が出来ない。
ユア達だけの見間違いじゃない。3000人近い視聴者が、あの飛び降り自殺を目にした。
有り得ない事が起きている。ただ配信を観ている者までも、恐ろしい何かを見せられている。
「ちくしょうふざけんな!」
カズトが割れていた筈の窓ガラスを蹴る。しかし先程と同様に、ヒビすら入る事はない。
「嫌だ! 帰りたい! こんな所もう嫌!」
レイが泣き崩れて、その場にへたり込んでしまう。怖がりな彼女には、あまりにも過酷な状況だ。
いつもはレイが怖がる所を楽しんでいた者も、何も言えない空気が広がっている。
とてもビビりだと、笑える状況ではない。ただ彼女の悲痛な叫びが、配信画面から流れて来る。
「お、おい、死体が消えてるぞ! パトカーなんて来てないよな!?」
ミナトが窓から地上を見る。しかしどこにも死体などない。血の跡すらも無いように見えた。
「嘘でしょ!?」
ユアが驚いてミナトの隣に移動する。確かに窓から見える範囲には、飛び降りた死体が発見出来ない。
「レイ、あっちに行こう」
これ以上不安を感じさせない為に、マモルがレイを抱き起こして向かいの部屋に移動させる。
ドレッサーの前にあった椅子へレイを座らせ、泣いている彼女を抱き締める。
暫くそうしていたら、落ち着いたのかレイは泣き止んだ。
「ちょっと待っていろ。また手を考えるから」
入口のドアは開けたままで、マモルは皆がいる反対の部屋へと移動した。
次の瞬間に、バタンとドアの閉まる音がした。思わず振り返ったマモルは、閉ざされたドアを叩く。
「レイ! どうした!? お前が閉めたのか!?」
「ち、違う! 勝手に閉まったの! 怖いよマモル! 助けて」
慌ててマモルはガチャガチャとドアノブを動かすが、ドアは全く動かない。
レイの画面ではまた泣きながら、ドアを開けようと必死になっている。
騒ぎに気付いたらしいミナト達が、マモルを手伝うがドアは開く気配がない。
「クソッ! レイ! 絶対開けてやるから!」
マモル達が全力でドアを破ろうとするが、まるで壁に変わってしまったかの様に動かない。
暫くするとレイの画面に異変が起こる。急に逆さ吊りになったかの様に、視界が反転する。
彼女の叫び声が響いたあと、カメラが落下したらしく画面にヒビ割れが起こる。
そのすぐ後にドアが開くも、マモル達の画面にレイの姿は無かった。


