■ホテルリゾートマリアンヌ2F エレベーターホール
23:09 視聴者数:2451

 ユア達よりも先に来ていた、大学生達の記録を見た彼女達は話し合いをしていた。

「やっぱり帰った方が良いよ〜」

 怖がりなレイは、怯えた表情で5人に訴えかける。しかし彼らはまだ出る気がないらしい。

「誰かのイタズラかもしれねーぜ? 後から来た誰かをビビらせようって」

 カズトは先に来た彼らの嫌がらせ説を唱えた。手の込んだやり方だが、そういう事をやる人間は居る。
 絶対に有り得ないとは言い切れず、コメント欄でもカズトの説に賛同する者も居た。
 決定的な映像が映っていたわけでもなく、これぐらいならユア達でもやれなくはない。
 そもそも水を飲めなければ人は死ぬ。日記の最後は生物学的に有り得ない話だ。

「ちょっと静かにしてくれ、何か聞こえた」

 マモルが静かにする様に、5人に向けて訴えている。マモルは耳を澄ませて、周囲の音を聞いている。

「上だ! 何かを叩く音がした」

 他のメンバーには聞こえなかったが、マモルはとても耳が良い。
 その事を知っているユア達は、マモルの発言を信じた。6人で上の階を目指す事に。

「エレベーターは止めよう。また挟まれたくない」

 マモルがそう言うので、階段で上へと上がっていく。3階に上がったマモルはまた耳を澄ます。
 この階では無いらしく、マモルは更に上へと上がる。最終的に彼は5階で足を止めた。

「多分この階だ」

■ホテルリゾートマリアンヌ 5F 西廊下
23:22 視聴者数:2513

 5階も2階と変わらない構造だが、客室の種類が少し違っているようだ。
 部屋数が2階より少なく、その分1つの部屋が広い造りとなっていた。
 恐らくは大家族や、お金持ちに向けたフロアなのだろう。

「皆も聞こえないか?」

 マモルが仲間達に問いかけた。ユア達も耳を澄ませてみる。

「…………ホントだ! 何だろう?」

 ユアにも音は聞こえたらしい。配信画面からは、特にそれらしい音は流れて来ない。

「マモルの言ってたホームレスじゃね?」

 カズトはそう判断し、周囲を探し始めた。中々勇気のある行動だ。怖がっている様子はない。

「支配人だったらどうするのよ!」

 レイは相変わらず怖がっており、マモルの腕を掴んで抱き着いていた。
 6人は固まって音の発生源を探していく。暫くすると、配信画面からも何を叩く様な音が聞こえて来た。
 次第に音は激しくなり、ガシャンと何かが割れる様な大きい音が聞こえた。

「あっちだ!」

 先頭を歩くカズトが、音のした方へ向かって駆け出した。カズトの画面が激しく揺れる。
 真っ先に部屋へと飛び込んだカズトのカメラには、ボロボロの服を来た女性が映っていた。
 続く5人のカメラ映像にも、同じ女性の姿が映る。女性は一度彼らの方を見た。

「あ、あの人!」

 レイが驚いた様な声をあげた。その女性はリュックサックの中に入っていた、例の写真の人物と良く似ていた。
 彼女の目の前には割れた窓があり、ユア達を気にする事なく窓から飛び降りた。

「キャーーーー!?」

 レイは思わず悲鳴を上げる。ユア達もあまりの行動に驚いた。

「ここ5階だぞ!」

 ミナトは慌てて窓の方に向かう。一旦カメラを外し、自分の目だけで下を確認する。
 ミナトのカメラは掌で覆われてしまい、真っ暗な映像しか流れていない。
 暫くした後、再びミナトの映像が復帰した。彼は仲間達の方を向いていた。

「ダメだ。もう助からないだろう」

 どんな状態になっていたのか分からないが、ミナトの声は悲壮感に溢れていた。

「ねぇもう出よう? 十分でしょ今ので」

 レイはショックのあまり涙を流していた。目の前で飛び降り自殺をされたのだ、衝撃を受けない筈がない。
 それは視聴者達も同様で、警察を呼ぶべきだというコメントが流れていく。
 マモルが背負った鞄に入れていたノートパソコンを確認し、視聴者達の反応を確認している。

「そうだな、警察を呼ぼう。もう心霊とか、そういう話じゃ済まない」

 マモルはスマートフォンを取り出して、通報をしようとした。

「あれ? 何で圏外? 配信は出来ているのに」

 マモルの映像には、確かに圏外の表示となったスマートフォンが映されている。
 配信映像は流れているのに、どういう事だろうか? マモルだけなのかと思えば、6人全員が圏外だった。

「良く分からないけど、視聴者さんの中で誰か、警察を呼んでくれないかな?」

 ユアが視聴者に向けて、警察への通報を呼び掛ける。何人かが通報をするとコメントで表明。
 こんな事になったので、レイの言う様にユア達は外へ出る事にした。

「ねぇ、あの人が居たって事は……あの日記……」

 マホが真剣な声音で皆に問う。それは視聴者も含めて全員が察していた事だ。
 あれがイタズラではなく、事実であったというならば。本当に死んだ支配人が居て、二度と出られなくなる。
 噂は本当だったのかと、コメント欄は加速していく。ユア達にも焦りの感情が見え始めた。

■ホテルリゾートマリアンヌ 1F エレベーターホール
23:34 視聴者数:3201

 衝撃映像が流れたからか、誰かがホラー系コミュニティで拡散したのだろう。視聴者が一気に増えた。
 今も少しずつ増えて行っている。この調子なら4000人を超えるのもあっという間だろう。
 そんな状況でユア達が1階に降りて来ると、異変が起きていた。

「何で防火扉が閉まっているの?」

 エレベーターホールの防火扉が、完全に閉まっており入口へと向かえない。

「どっか壊れてんじゃね? 待ってろ開けるから」

 カズトが率先して防火扉を開けに行く。しかし幾ら待っても開きそうにない。
 ミナトやマモルも参加して、開けようとするも結果は変わらず。
 最終的に全員で挑むも、完全に溶接されたかの様に防火扉はびくともしない。

「どうなってんだよ!」

 カズトが防火扉を蹴り、ガンという音が響く。だが蹴った所で状況は変わらない。

「昼間見た時に裏口があっただろう? 裏に回ろう」

 ミナトが冷静な判断を下し、6人で裏口へと向かう。どうやら彼らは一度、昼間に下見をしていたらしい。
 少しずつ不穏な空気が漂い始めている。支配人に見つかると、マリアンヌからは出られない。
 まるでそれが事実であるかの様に、防火扉が彼らを阻んだ。だが裏口があるというなら、出られるだろう。
 古い建物だから、防火扉が壊れてしまった。ただそれだけかも知れない。
 5分ほど彼らは無言で歩き、マリアンヌの裏手に到着した。

「どうなっている!? ここにドアがあった筈だ!」

 普段は冷静なミナトが、焦った様子で壁に駆け寄る。どこからどう見ても、ただの白い壁にしか見えない。

「場所を間違えたんじゃないか?」

 マモルが勘違いしている可能性を示唆する。焦るあまり間違えたのだろうと。
 近くを探してみようと、6人は付近を探索する。しかしどこにも裏口はない。

「おかしい、何か変だ」

 ミナトが焦りを滲ませた声で、異変が起きている事を示す。視聴者には分からないが、確かに裏口はあったのだと彼らは言う。
 コメント欄がざわめき始める。本当に彼らは閉じ込められた様に見える。

「キッチンは!? 食堂の近くにあった! 普通はゴミ捨て場に行くドアがあるよね!」

 ユアがそう提案し、彼らはキッチンを目指して移動を開始。
 マリアンヌの真実が見られると、どこかで更に拡散されたらしい。
 配信の視聴者数は一気に跳ね上がり7000人を超え始めた。深夜だと言うのに、まだまだ勢いは落ちそうにない。
 それから食堂やキッチンをユア達は探し回ったが、外に出られる様な出入り口は見つからない。

「嘘でしょ…………」

 普段は元気で明るいユアが、残酷な現実に打ちひしがれていた。
 コメント欄は更に加速していく。