■ホテルリゾートマリアンヌ 2F 客室
22:35 視聴者数:2306

 ユア達はマリアンヌの探索を続けている。1Fでは結局エレベーターのトラブルがあっただけ。
 それ以外には特に目立った変化はない。多少スリリングではあったが、古いエレベーター故の機械トラブルと判断された。
 2階へと上がって来た彼女達は、複数ある客室を調べている。
 解体工事の際に、全室のドアが開けられたのだろう。中に入るのは簡単だった。
 念の為にとマモルが、部屋に電気が来ていないか調べる。スイッチを操作しても、電気が付く様子はない。

「エレベーターは災害等に備えて、予備電源で動く様になっていても不思議じゃない。誰かが発電機を動かしているのか? 住み着いたホームレスとか」

 マモルは有り得そうな予測を立てる。少なくとも幽霊が実際に存在するより現実的だ。
 危ない目に遭いはしたが、この程度のトラブルなら過去にもある。山中で崖から落ちそうになるなど様々だ。
 これぐらいで怖気づく程、ユア達は怖がりじゃない。レイを除いて。

「ねぇ、やっぱり危ないよ」

 レイは相変わらず危険性を訴えるが、残りのメンバーは気にしていない。
 ユアとミナト、マホとカズト、そしてマモルとレイの二人一組ずつに別れて探索をしている。

「お前は気にし過ぎなんだって。いつも大丈夫だったろ」

 エレベーターのドアに挟まれた本人が言うのだから、レイとしてはそれ以上の反論がない。
 でも……と返すのが精一杯のようだ。3組それぞれの映像には、古びた客室が映されている。
 埃塗れのベッド、くすんだ姿見に旧型のテレビ。洗面所の蛇口を捻っても、水が出て来る様子はない。
 浴室も汚れたままであり、少なくともここで入浴をしたいと思う者は居ないだろう。

「見てミナト。このバッグ、まだ新しい方じゃない?」

「ん?」

 ユアのカメラ映像には、まだ埃だらけになっていないリュックサックが映っている。
 客室の床に放置されているのは、有名なアウトドアブランドの既製品だ。
 2人はリュックサックを開けて、中身を確認していく。やはりマモルの言う様に、ホームレスでも居るのだろうか。

「あ、ビデオカメラだ。動くかな?」

 ユアが有名な家電メーカーのビデオカメラを発見する。電源が入るか試しに操作している。

「付いたよ! 見てミナト」

 液晶画面が点灯し、操作メニューが表示されている。

「何が録画されているんだ?」

 2人でボタンを操作して、記録データの中身を確認していく。
 そこに映されていたのは、何人かの大学生らしき男女がバーベキューをしている映像だ。
 何かのサークルに所属している、5人の若い学生達の日常が流れていく。

「もうちょっと進めてみようか」

 ミナトが早送りを行うと、見た事のある風景に切り替わる。
 映像にはマリアンヌの正面玄関が映されており、どうやら彼らもここを探索しに来ていたらしい。
 どう見ても閉鎖された後で、営業中の映像ではない。彼らも噂を知ってやって来たようだ。
 2人のカメラを通した映像なので、少し見辛いが何となくは確認出来る。
 ユア達の様にふざけ合いながら、大学生達がマリアンヌを徘徊していく。

「なんか、私達と変わらないね」

 特に何かが起きるわけでもなく、脅かし合ったりしながら、楽しそうに内部を見て回る映像がずっと流れている。
 
「もっと進めてみるか」

 更にミナトが早送りすると、やたらと焦った彼らの映像が流れ始めた。
 悲鳴と怒号ばかりで、何を言っているのか良く分からない。アイツがどうとか、誰かの話をしているのだけは辛うじて判断出来た。

「今の何?」

「ん? どれ?」

 カメラに映っていた何かを、ユアが見つけたらしい。ミナトが少し巻き戻し、該当の部分でユアが一時停止を押す。

「ほらコレ」

 ユアが指差した所には、白い服の様な何かを来た人物の体が映っている。
 顔までは映っていないので、誰の映像なのかは分からない。彼らの内の1人なのか、そうではない何者なのか。
 再びカメラを再生すると、何かから逃げ回っているらしい映像が続いて、記録データは終わっていた。

「あっ、電源が……」

「ここで充電は出来ないよなぁ」

 まだ生きている予備のバッテリーがないか、2人はリュックサックの中を探したが見つからず。
 結局何の映像だったのかは分からない。本当に支配人の霊が居たのか、そうでない何かが起きたのか。
 実際に観ていたユア達でも分からないのに、視聴者が何だったのか分かる筈もない。
 コメント欄では様々な予想が流れているが、どれかが正解だとする根拠はない。

「皆と合流しよっか」

「そうだな」

 ユアとミナトは持ち込んだトランシーバーで連絡を取り、一旦残る二組と合流する事にした。
 せっかくなので見つけたリュックサックを持っていく。2階にあるエレベーターホールで待ち合わせとなった。

■ホテルリゾートマリアンヌ 2F エレベーターホール
22:51 視聴者数:2389

「というわけなの」

 ユアとミナトは発見したリュックサックを見せながら、2人が見た映像の話をした。

「遊んでただけじゃねえの?」

 カズトは聞いた話から、その様に受け止めた。有り得ない話ではない。

「こんな広い所で鬼ごっことか楽しそうだし」

 元気なムードメーカーらしい感想を、マホは口にする。心霊スポットを怖がらない彼女なら、それぐらいやりかねない。

「で、でも、逃げていたんでしょう?」

 怖がりのレイは、何かに追われていた説を支持するようだ。

「他に何か入っていないのか?」

 マモルがリュックサックの中身を気にしている。6人は手分けして、中身をチェックしていく。
 女性の私物らしい着替えと、化粧ポーチ、それから日記帳とペンケース。
 賞味期限が切れたチョコレートバーと、2人の男女が写った写真。この女性が持ち主なのだろうか。

「日記には何が?」

 マモルが日記の中身を知りたいらしい。女性のプライベートだからと、ユアが確認する事にした。
 今更そんな事を気にするなよと、マモルは少し不満げだった。
 暫くパラパラとユアが日記帳を確認していたが、何かを見つけたらしく内容を読み上げ始めた。
 ユアのカメラ映像には、小さな文字で書かれた日記が映っている。
 視聴者からは読み辛いだろうと、ユアが気を遣ったのだろう。

「2024年5月5日。明日は例のホテルに行く。噂が本当か、私達オカルト研究会が突き止めてあげる。どうせただの噂だろうけど、行方不明者が沢山居るとか。眉唾だけど」

「2024年5月6日。昼間の間にホテルへ入ったけど、特に何も起きなかった。駐車場跡地でキャンプをして、明日は夜に入ってみようという話になった。明日が楽しみだ」

「2024年5月7日。このホテルはおかしい。何かが居る。もう出ようと言う話になったけど、何故か全てのドアが開かない。窓もダメ。どうしよう帰りたい。誰か助けて」

「2024年5月8日。アイツが出た。あれはきっと噂の支配人だ。皆連れて行かれた。私は1人になった。怖い。早く帰りたい。こんな所もう居たくない」

 いきなり不穏な内容となり、ユア達は顔を見合わせる。本当に支配人が出ると、日記には書かれている。

「どれだけ経ったか分からない。今は何月何日だろう? 一体どれだけここに居る? 何故私は死なない? 意味が分からない。もう何日も水を飲んでいないのに。早く終わりたい」

 それが最後の記述となっていた。衝撃的な内容に、6人は何も言わない。
 視聴者の反応は様々で、仕込みを疑う者も出ている。
 コメント欄では様々な意見が飛び交っていた。