■ホテルリゾートマリアンヌ 1F エレベーターホール
26:21 視聴者数:16532
遂に2人にまで減ってしまったユア達。その悲しみと辛さは、計り知れない。
今日まで明るく配信をして来た彼女だが、もうそんな面影は全くない。
友人達を失い続けて、彼らは行方不明のまま。マリアンヌの噂が事実であった以上、消えた彼らは帰って来ないだろう。
仮に帰って来られたとしても、飛び降り自殺をした女性の様な末路が待っている。
最後に望むのは自らの死。そこまで追い詰められ、このマリアンヌを彷徨い続ける。
出られる人と出られない人、その違いは不明だが、囚われた時点で終わりが待っている。
多くのホラーファンが望んだのはマリアンヌの真実。しかし今となっては、知りたくも無かった現実。
悲しみに暮れる2人の高校生を観て、知れて良かったと思う者がどれだけ居ようか。
せめて2人だけでも助かって欲しいと、大勢が願っている。
「行こうユア、俺達だけでも大人を呼びに行くんだ」
せめてそれだけでもと、ミナトは果たそうとする。皆で決めた方針だからと。
「うん……」
弱りきったユアが、ノロノロと立ち上がる。目的の換気ダクトまで、後少しの位置らしい。
ミナトが声を掛けながら、ユアを連れて進んで行く。きっと彼だって、怖い筈だ。
それでも彼は、最後まで諦めていない。なんて勇気のある男子だろうか。
真っ暗な廊下を、僅かなヘッドライトの明かりが照らしている。
最初にこの廊下を通っていた時は、ドキドキを楽しむ配信だった。
それが今では、地獄の様な映像が流れている。今回の配信が、トラウマになった視聴者も居るのではないだろうか。
「ここだ! ユア、俺の肩に乗れ」
目的の換気ダクトに辿り着いたミナトとユア。ここから入口へと移動する事が出来る。
「分かったわ」
ミナトはドライバーをユアに手渡し、肩車でユアを換気ダクトに近付ける。
ユアのカメラ映像では、少しずつダクトカバーのネジが外ずれて行く。
四隅のネジを外しきったユアが、ダクトカバーをミナトに渡す。
「よし、登ってくれ」
ミナトの肩に立ったユアが、換気ダクトの中に入って行く。
サイズ的には少し狭い様だが、人が通る事は出来そうだ。先ずはユアが換気ダクトに全身を収めた。
器用に彼女は中で方向転換し、今度はミナトを引っ張り上げる為に顔を出す。
「良いよ、ミナト……急いで! 早く!」
ユアのカメラ映像には、ゆっくりと歩いて来る白い物体が映っている。
先程の様に、カメラ映像がまた乱れ始める。支配人の影響なのか、それとも偶然か。
ミナトが登ろうとするが、上手く登れない。ユア1人の腕力では、ミナトの体重は支え切れないのだろう。
乱れた映像の中で、白い腕がミナトの頭を掴むのが見えた。
「君……生きて……れ」
最後の一言を残し、ミナトの体は暗闇に消えて行った。大声で泣き叫ぶユアのカメラ映像は、次第に乱れが収まり平常通りに戻った。
コメント欄は阿鼻叫喚で、もはや観て居られない。多くの視聴者が悲しみ、辛い気持ちをユアと共有している。
昔からこのチャンネルを知っていた者達は、嘆き悲しみ悲痛な気持ちで一杯だろう。
これが映画の撮影であるなら、どれだけ喜ばしい事か。もうこの配信を観て、ヤラセだと言う者は居ない。
こんなに泣き叫ぶ女の子が、嘘泣きをしていると思える者はよほど斜に構えた人間ぐらいだ。
最後の1人になったユアは、涙を拭いながら出口を目指す。
狭いダクトの中を通り、奥まで進んで行く。5分ぐらい匍匐前進を続けたところ、反対側の出口へとユアは辿り着く。
全力でダクトカバー蹴り、強引にダクトを出るユア。何時間ぶりかの入口に、彼女は戻って来る事が出来た。
「出口…………」
ユアは疲労困憊ながらも、どうにかエントランスに戻って来た。ここまでやっと来たのだ。
最後の気力を振り絞り、ユアは両開きのドアへと手を伸ばす。それで終わる筈だった。
「…………え?」
良く見るとガラス越しに、カズトが破壊した筈のチェーンロックが掛けられていた。
間違いなく入る時に壊したのは、観ていた全員が知っている。まるであの窓の様に、元通りに戻っている。
「何でよ! どうして! ここまで来たのに……」
ガチャガチャとドアをユアが動かしているが、チェーンロックは外れない。
カズトほどの腕力を持たないユアに、破壊する術は残されていない。
仮にカズトが居たとしても、ガラス戸な窓ガラスと同じ運命を辿ったのだろうが。
果てしない絶望が、ユアと視聴者に広がる。支配人に見つかった者は、二度マリアンヌを出られない。
本当だった。真実であった。行方不明者はきっと、この様に絶望をしたのだろうか。
ひたすらに泣き続けるユアの泣き声が、配信画面から流れて来る。
あまりに悲痛で、あまりにも悲劇的で、誰もコメントを打たない。きっと打てないのだろう。
1万6千人が観ているが、コメントは止まったままだ。この状況で何を言えるというのか。
「え?」
何かを感じたらしいユアが、振り返った時に映ったのは白い何か。
その瞬間にカメラが真っ暗になった。NO SIGNALと表示されている。恐らくは電池切れだろう。
それから暫くして、配信自体が終了となった。マモルのノートパソコンも、バッテリーが切れたのだろう。
拭い切れない悲壮感だけが、視聴者達の心に残った。
26:21 視聴者数:16532
遂に2人にまで減ってしまったユア達。その悲しみと辛さは、計り知れない。
今日まで明るく配信をして来た彼女だが、もうそんな面影は全くない。
友人達を失い続けて、彼らは行方不明のまま。マリアンヌの噂が事実であった以上、消えた彼らは帰って来ないだろう。
仮に帰って来られたとしても、飛び降り自殺をした女性の様な末路が待っている。
最後に望むのは自らの死。そこまで追い詰められ、このマリアンヌを彷徨い続ける。
出られる人と出られない人、その違いは不明だが、囚われた時点で終わりが待っている。
多くのホラーファンが望んだのはマリアンヌの真実。しかし今となっては、知りたくも無かった現実。
悲しみに暮れる2人の高校生を観て、知れて良かったと思う者がどれだけ居ようか。
せめて2人だけでも助かって欲しいと、大勢が願っている。
「行こうユア、俺達だけでも大人を呼びに行くんだ」
せめてそれだけでもと、ミナトは果たそうとする。皆で決めた方針だからと。
「うん……」
弱りきったユアが、ノロノロと立ち上がる。目的の換気ダクトまで、後少しの位置らしい。
ミナトが声を掛けながら、ユアを連れて進んで行く。きっと彼だって、怖い筈だ。
それでも彼は、最後まで諦めていない。なんて勇気のある男子だろうか。
真っ暗な廊下を、僅かなヘッドライトの明かりが照らしている。
最初にこの廊下を通っていた時は、ドキドキを楽しむ配信だった。
それが今では、地獄の様な映像が流れている。今回の配信が、トラウマになった視聴者も居るのではないだろうか。
「ここだ! ユア、俺の肩に乗れ」
目的の換気ダクトに辿り着いたミナトとユア。ここから入口へと移動する事が出来る。
「分かったわ」
ミナトはドライバーをユアに手渡し、肩車でユアを換気ダクトに近付ける。
ユアのカメラ映像では、少しずつダクトカバーのネジが外ずれて行く。
四隅のネジを外しきったユアが、ダクトカバーをミナトに渡す。
「よし、登ってくれ」
ミナトの肩に立ったユアが、換気ダクトの中に入って行く。
サイズ的には少し狭い様だが、人が通る事は出来そうだ。先ずはユアが換気ダクトに全身を収めた。
器用に彼女は中で方向転換し、今度はミナトを引っ張り上げる為に顔を出す。
「良いよ、ミナト……急いで! 早く!」
ユアのカメラ映像には、ゆっくりと歩いて来る白い物体が映っている。
先程の様に、カメラ映像がまた乱れ始める。支配人の影響なのか、それとも偶然か。
ミナトが登ろうとするが、上手く登れない。ユア1人の腕力では、ミナトの体重は支え切れないのだろう。
乱れた映像の中で、白い腕がミナトの頭を掴むのが見えた。
「君……生きて……れ」
最後の一言を残し、ミナトの体は暗闇に消えて行った。大声で泣き叫ぶユアのカメラ映像は、次第に乱れが収まり平常通りに戻った。
コメント欄は阿鼻叫喚で、もはや観て居られない。多くの視聴者が悲しみ、辛い気持ちをユアと共有している。
昔からこのチャンネルを知っていた者達は、嘆き悲しみ悲痛な気持ちで一杯だろう。
これが映画の撮影であるなら、どれだけ喜ばしい事か。もうこの配信を観て、ヤラセだと言う者は居ない。
こんなに泣き叫ぶ女の子が、嘘泣きをしていると思える者はよほど斜に構えた人間ぐらいだ。
最後の1人になったユアは、涙を拭いながら出口を目指す。
狭いダクトの中を通り、奥まで進んで行く。5分ぐらい匍匐前進を続けたところ、反対側の出口へとユアは辿り着く。
全力でダクトカバー蹴り、強引にダクトを出るユア。何時間ぶりかの入口に、彼女は戻って来る事が出来た。
「出口…………」
ユアは疲労困憊ながらも、どうにかエントランスに戻って来た。ここまでやっと来たのだ。
最後の気力を振り絞り、ユアは両開きのドアへと手を伸ばす。それで終わる筈だった。
「…………え?」
良く見るとガラス越しに、カズトが破壊した筈のチェーンロックが掛けられていた。
間違いなく入る時に壊したのは、観ていた全員が知っている。まるであの窓の様に、元通りに戻っている。
「何でよ! どうして! ここまで来たのに……」
ガチャガチャとドアをユアが動かしているが、チェーンロックは外れない。
カズトほどの腕力を持たないユアに、破壊する術は残されていない。
仮にカズトが居たとしても、ガラス戸な窓ガラスと同じ運命を辿ったのだろうが。
果てしない絶望が、ユアと視聴者に広がる。支配人に見つかった者は、二度マリアンヌを出られない。
本当だった。真実であった。行方不明者はきっと、この様に絶望をしたのだろうか。
ひたすらに泣き続けるユアの泣き声が、配信画面から流れて来る。
あまりに悲痛で、あまりにも悲劇的で、誰もコメントを打たない。きっと打てないのだろう。
1万6千人が観ているが、コメントは止まったままだ。この状況で何を言えるというのか。
「え?」
何かを感じたらしいユアが、振り返った時に映ったのは白い何か。
その瞬間にカメラが真っ暗になった。NO SIGNALと表示されている。恐らくは電池切れだろう。
それから暫くして、配信自体が終了となった。マモルのノートパソコンも、バッテリーが切れたのだろう。
拭い切れない悲壮感だけが、視聴者達の心に残った。


