婚約破棄されましたが、こちらから破棄します!〜第二王子と手を組んで復讐しますわ〜

白百合部隊が動き出した夜、王都の一角で火が上がった。



 旧温室は炎に包まれ、瓦礫と魔力の爆ぜる音が轟く。

 クラリッサは、ミリアの手を引きながら、濛々と立ち込める黒煙の中を走った。



「このままだと包囲される……!」



 追撃は容赦がなかった。

 白百合は、王家直属の対魔特化部隊。

 その目的は“捕縛”ではなく、再利用不能な排除。すなわち、殺処分だった。



「ミリア、魔力制御はできる?」



「少しだけ……でも、何かが……おかしいの……。私の中にある魔力、動きが違ってて……」



 クラリッサは一瞬迷い決断する。



「隠れていて。あなたまで連れていけない。私は、あいつらを引きつける」



「でも、そんな!」



「私は悪役令嬢よ。悪役は、いつだって先に舞台に立つの」



 それだけ言って、クラリッサは踵を返した。

 燃え落ちる温室の前、彼女は立つ。



「クラリッサ・ローレンス。投降を勧告する。従わない場合、戦闘行為をもってこれを制裁とする」



 四方から兵士たちが現れ、魔道銃と杖を構える。



 だが、クラリッサは一歩も退かない。

 扇子を開くと、そこから紫紺の光が溢れ出す。



「悪役を甘く見ないことね。私は王族が作った“お人形”とは違う。自分の足で、ここに立ってる」



 指を鳴らす。



 刹那、地面が割れ、魔力結晶が噴き上がる。

 ローレンス家代々が封じてきた、真祖の魔術。

《血契・反律(ブラッド・リヴェリオン)》

が解き放たれた。



「行くわよ……主役が登場するその前に、舞台を全部、燃やしてあげる」



 一方その頃。



 王宮・暗部塔にて、第二王子レオニスは報告を受けていた。



「……温室が壊滅?白百合が負けた?」



「現在、半数が行方不明、3名が即死。相手は真祖化した悪役令嬢……もはや規格外です」



 レオニスは天井を仰いだ。



「面白い。ようやく、俺を楽しませてくれる存在が現れたようだ」



 その声に、どこか狂気がにじんでいた。

 彼にとって、クラリッサも、王太子も、国家すら、ただの遊戯の駒でしかなかった。



「よし。ならば、舞台を変えよう。学園という劇場では足りない。今度は王都を使う」



「何を……?」



「国の英雄を呼べ。伝説の第一騎士団、そして天秤の巫女。この国が誇る最強で、あの女を倒させる。そうすれば、国民はこう言うだろう。『悪役令嬢クラリッサ・ローレンスは、やはり災厄だった』とな」



 それが、レオニスの計画だった。



 最強という正義で、正しさを上書きする。

 真祖の覚醒を、悪として封殺する国家の方法。



(でもそれは、あの女には効かない。彼女は……正義と悪のどちらでもない。ただ自分だけの真実を貫こうとしている)



 だからこそ面白い。



「クラリッサ。君がどこまで壊れていくのか、僕は見たい。悪役令嬢という役を、どこまで演じ抜けるのか」



 夜明け前、クラリッサは一人で立っていた。



 血と煤と、焼けた花の匂いが残る戦場で。

 誰の歓声も、拍手もない勝利。



 けれどその顔に、確かな誇りが浮かんでいた。



「……これが、私の道」



 震える脚で、ゆっくりと歩き出す。



 その先にあるのは、さらなる戦い。さらなる嘘。さらなる悪意。



 でも。



(私が悪役であることを、恐れはしない)



 なぜなら。



 本当に怖いのは、善人の仮面をかぶった連中のほうだから。