猫と王子と恋ちぐら

【1話】

 途端に世界が色づいた、なんてことはなかったけれど。

 あの瞬間から俺は、少しだけ呼吸がしやすくなったんだ。



「か~ぶちっ、何聴いてんの!」
「うわっ!?」

 教室の後ろで気を抜いていた俺は、装着していたヘッドホンを奪い取られて声を上げる。

「あれ、音出てねーじゃん」
「今終わったトコだったんだよ、返せ!」
「あー、もしかして! 金髪頭の(かぶち) 真宙(まひろ)がエロいの聴いてま~す」
「塚本シメるからちょっとそこに立て」

 高校入学から約二か月。最初にできた友人で何かとつるむ機会の多い塚本は、度々俺をからかいにやってくる。やましいものなんて聴いてない。というか、その質問に対する答えを俺は持ち合わせていない。塚本から取り返したヘッドホンは、基本的に音を流すことはないからだ。

(別に、勝手に納得してくれんならそれでいいんだけど)

 ただこれ以上この場で騒がれるのも迷惑なので、俺は帰り支度を始めることにする。

千蔵(ちくら)くん! 先生が職員室まで来てほしいって」

 ふと、耳に届いた女子の声に視線がそちらへと向く。正確には彼女の口にした名前に反応してしまったのだが。

「ああ、わかった。知らせてくれてありがとう」
「ううん、役に立てて良かった!」

 愛想良く微笑む男を前に白い頬を色づかせた彼女は、教室の後ろで待つ友人たちのもとへと駆け出していく。

王子(・・)、やっぱ今日もかっこよかったねー!」
「顔面が国宝級すぎ。尊い。一生推せる」
「わたし喋っちゃったけど、今年の運使い果たしたかも」

 黄色に近い悲鳴と共に興奮気味の会話を交わす彼女たちは、何度か王子――千蔵紫稀(しき)を振り返りながら姿を消していった。

「ツラのイイやつはいいよなあ、笑っただけであんな騒がれんの」

 不満そうな塚本の呟きは、おそらくクラスの男子の総意に近いものがあるだろう。同じクラスの千蔵という男は、同性から見てもとにかく顔がいい。穏やかな物腰も相まって王子というあだ名で親しまれている。ハーフアップの黒髪に右の目元にある泣きボクロがまた色っぽいだとか、女子が話しているのを聞いたことがあった。

「そうかあ? 俺は別に騒がれたいと思わねーけど」
「おいおい、負け惜しみはよせって橙クンよぉ。おまえもコッチ側の男なんだからさ」
「ただの事実だっての。さっさと帰るぞ」

 もの言いたげな塚本を無視して鞄を持つと、俺は廊下へ向かって歩き出す。

(……?)

 一瞬千蔵と目が合った気がしたけれど、おそらく勘違いだろう。同じクラスにいたってタイプが違いすぎて、言葉を交わしたことすらないのだから。





(……ミスった)

 帰りの電車内は中途半端に混み合っていて、吊り革を握った俺は不規則な揺れに身を任せている。最寄り駅まで約一時間。本来ならもっと近場に通える高校があったのだが、この距離を選んだのは俺自身だ。塚本が帰り際にカラオケに行こうなどと言い出さなければ、空いた電車で帰ることができたのに。

(結局付き合う俺も悪いんだけど。あいつの音痴はもうちょっとどうにか……)
「おい」

 十数分前の出来事を思い返していた時、向けられた声に気がついて俺は隣を見る。分厚い眼鏡をかけたスーツ姿の中年男性が、眉間に深い皺を刻みながら自分の耳元を指でトントンと叩いて示していた。

「音漏れしてるぞ」
「え……いや、音出してないスけど」

 あくまで装着しているだけの機械はなんの音も流してはいない。だから音漏れなどしようはずもないというのに、俺に反論されたことが面白くなかったのか目の前の男はますます不快そうに声を荒げる。

「言い訳はいい。公共のマナーも守れないくせに口先だけは一丁前か!」
「いや、だから出してねえって……ッ」

 事実を証明して見せようとヘッドホンを外したところで、俺は周囲から向けられている視線に気がつく。途端に喉に蓋をされたみたいに言葉が詰まってしまい、冷たくなる指先にじんとした痺れを覚える。

(あ、ヤバイ……)

 慌ててヘッドホンを元に戻すが、意識をしてしまった今ではそんなものは意味を成さない。ドクドクと脈打つ心臓の音がいっそ遮ってくれたらと思う男の声は、どうしてだかヘッドホン越しにも鮮明に聞き取れてしまう。

「そのバカみたいな色の頭じゃ、他人の迷惑も考えられないか!」

 男が騒ぐほどに何事かとこちらに向けられる視線の数は増えていき、俺の額に冷や汗が滲んでいくのがわかる。

(どうしよ、息の吸い方わかんね……っ)

 唇が震える。次の駅にはまだ着かないのか。この場でしゃがみ込んだら余計に注目を浴びてしまうだけなのに。
 ぐるぐると回転する思考の中で必死に打開策を探し出そうとしていた俺は、不意に暗転した視界に呼吸が止まりかける。

「っ、え……?」
「このヘッドホン、本当に音は出してないですよ」

 次いで耳元の圧迫感が消えたかと思うと、すぐ近くから覚えのある声が聞こえてくる。混乱する頭で顔を上げた先にあったのは、至近距離でも驚くほどに整った千蔵紫稀の顔だった。ああ、コイツのデカい手が後ろから俺の顔面を掴んで引き寄せたのか、なんてどこか他人事の思考。

「そっ、そんなわけがないだろう……!?」
「なら聞いてみてくださいよ、ほら」
「しっ、知るか知るか知るかっ!!」

 あくまで穏やかな笑顔でヘッドホンを差し出す千蔵に対し、男はようやく自分の勘違いに気づいたらしいが、己の非を認めようとはしない。電車が駅に到着したかと思うと、男は転がるみたいな慌てぶりでホームへと姿を消していった。

「あーあ、行っちゃった」
「え……っと、千蔵……?」
「オレたちも一旦降りようか」

 未だ混乱状態の俺を背後から抱き締めたままだった千蔵によって、自然な動作で電車の外へと連れ出されていく。ホームの隅に設置されたベンチに腰掛けると、千蔵は自販機で買ってきたお茶の缶を差し出してきた。

「……どーも」
「ふふ、災難だったね」

 笑いながら隣に座る千蔵の手には、コーヒーの缶が握られている。こいつもここで休憩していくつもりなのか。貰った缶のプルタブを起こして口をつけると、胃に流れ込む温かさに少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「あのおじさん、たまに出没する有名人だよ」
「そうなのか?」
「知らない? 音漏れ警察とか呼ばれてるの」
「知らねえ……つーか、よく声掛けたな」
「ん?」
「ああいう時、普通は見て見ぬふりすんだろ」

 一般的にはトラブルに関わりたくない人間の方が多いと思うのだが、さすがは王子といったところなのだろうか。

「橙がすごい顔してたから」

 自分はそんなにひどい顔をしていただろうか。言葉を発する余裕もなかったのだから、どんな顔をしていたかなんて覚えているはずもない。

「……なら、スゲー顔しといて良かった。助かったし」

 現状の素直な気持ちではあるのだが、それを聞いた千蔵は意表を突かれたみたいな顔をした後に数度瞬きを繰り返す。

「っはは、なんだそれ……!」
「……!?」

 珍しく大きな口を開けて笑った千蔵の表情に、俺の心臓がドキリと跳ねたのがわかる。いや、正確にはその表情に対しての反応ではなかったのかもしれない。なぜなら、優等生で王子の千蔵紫稀という男にはあまりにも似つかわしくないものが、俺の視界に飛び込んできたからだ。千蔵の舌の上に見えた、小さくて異質な存在。

(し、舌ピ……!?)
「……あ、バレちゃった?」

 そう言って口角を持ち上げた千蔵の笑みは、またしても見たことのない悪い色をしていた。







(見間違い、だったのか……?)

 翌日。教室に入って真っ先に視界に入ったのは、机に向かって読書をしている千蔵の姿だった。本を読んでいるだけでも絵になるやつだと思うが、俺の脳裏にはどうしたって昨日の光景が鮮明に重なって離れてくれない。
 舌の上の異質な存在。忘れろと言われても到底無理なものだが、それ以上に胸の奥に残ったのは、千蔵もあんな風に笑うのかという事実だ。

(そりゃ、普通に笑うんだろうけど)

 千蔵のことなんて何も知らない俺だって、あの男がああいった笑い方をする人間ではないという印象がある。少なくとも王子と呼ばれるだけあって、校内では口元に手を当てて”こぼす”という表現が正しいような笑い方をする。
 だから余計に強烈で、俺はつい千蔵のことを目で追ってしまっていた。自分が今日一日をどんな風に過ごしていたかなんて記憶にないほどに。

「橙、一緒に帰ろう」
「……は?」

 放課後になると、塚本よりも先に俺の名前を呼ぶ声があった。顔を確認するまでもなく穏やかな声は千蔵のものだ。彼の行動を意外だと感じたのはなにも俺だけではなく、教室内に残っていたクラスメイトの半数以上がこちらに視線を寄越しているのを肌で感じる。

「帰るって、なんでおまえと……」
「いいじゃん。それともなんか予定ある?」
「いや、別にねえけど」
「じゃあ決まり、行こ」

 断るための上手い理由がすぐには見つからなくて、俺は半ば腕を引っ張られる形で千蔵の後に続くことになった。千蔵も電車通学なのは間違いないのだろうが、方角が同じだという人間ならばいくらでもいるだろう。わざわざ俺に声を掛けた理由があるのだとすれば、昨日の一件以外には考えられなかった。

「どういうつもりだよ?」
「ん? なにが?」
「とぼけんな。今までロクに話したこともねえだろ」
「あっ、千蔵くん、さようなら……!」
「うん、さようなら」

 通りすがりの女子生徒から挨拶を受けた千蔵は、見慣れた王子スマイルで言葉を返すと俺の方へと顔を向ける。

「それならオレも橙に聞きたいけど」
「なんの話だよ?」
「今日一日、オレのこと見てたでしょ」
「ッ……」

 問い掛けと呼ぶには断定的な語尾が、逃がすつもりはないと言っている。つい目で追っていたのは事実だが、まさか気づかれているとは。それほどまでに、俺は千蔵を見てしまっていたらしい。肯定するのも悔しくて視線を泳がせるが、結果的にその反応が肯定に繋がってしまっていることは考えるまでもない。

「やっぱ、コレ(・・)のせい?」

 そう言いながら、千蔵はべえっと悪戯に舌を出して見せる。その中央には間違いなく昨日目にした銀色の異物が乗っていて、俺の見たものが紛うことなき現実なのだと教えられた。

「おまえ、それ……っ」
「あはは、やっぱ見られてたかあ」

 呑気な様子で笑う千蔵は普段通りに見えるのだが、悪いことをしている気分になるのは、目の前の男が王子と呼ばれているせいなのだろう。ピアスなんてものは珍しくもないけれど、それを千蔵がしているとなれば話は別になる。ましてや一般的とは言い難いそんな場所に。

「……いつから開けてんの」
「ん-、中学卒業してすぐくらいかな」
「毎日してきてたのかよ」
「まあね。意外とバレないもんだよなぁ」

 バレないという言葉の通り、おそらく千蔵の舌にピアスがあることなんて俺以外のクラスメイトは知る由もないだろう。

「秘密にしてくれる?」

 向けられた問い掛けには困惑の色は見られない。千蔵自身、知られたところで問題はないと思っているのかもしれない。
 だからといってわざわざ誰かに言いふらす気にもなれなくて、俺は素直に頷いた。

「別に、おまえがピアスしてようが刺青入れてようが、俺が困ることじゃねーし」
「はは、刺青はさすがに入れてないかなあ。痛そうだし」
「そういう問題か」

 そんなことを話しているうちに、駅の改札を抜けて最寄り駅の方角へと向かう電車のホームに辿り着く。特に尋ねることもなくいつもの場所に来てしまったけれど、何も言われなかったので千蔵も同じ方角なのだろう。

(まあ、昨日も同じ電車乗ってたわけだしな)

 そうしていつもの癖でヘッドホンに手を掛けた俺は、そういえば千蔵が一緒にいるのだと思い直してそれを首元にかけ直す。横目にその仕草を見ていた千蔵は、疑問を抱くかと思いきや不自然な挙動について特に尋ねてくることもなかった。

「あ、電車きた」

 ホームに滑り込んできた電車の扉が開いた時、俺は一瞬動きを止めてしまう。扉のすぐ向こうに、分厚い眼鏡の中年男性が立っていたからだ。

(っ、昨日の……!)

 音漏れ警察と呼ばれていたその男も、俺の顔を見て昨日の奴だと気がついたらしい。それはそれは物言いたげな顔をしていたが、どちらかが動くよりも先に千蔵が俺の腕を取って、そのまま電車に乗り込んでいく。

「おい、千蔵っ……!」
「あ、向こうの席空いてるね。座ろっか」

 電車内はそれほど乗客はいないようで、優先指定ではない端の席には誰も座っていないらしい。そちらを目指して歩き出した千蔵は、学校でよく見る王子スマイルを中年男性に向けて会釈をしつつ、何でもない顔をして傍を通り過ぎた。俺を端に座らせた千蔵が隣に腰を下ろしたことで、音漏れ警察の姿は俺の視界から見えなくなる。

「……聞かねえのな」
「ん?」
「昨日のこと」

 わざわざ一緒に帰ろうなどと言い出した時に、てっきり昨日の件について尋ねられるんじゃないかと予想していた。もちろん千蔵のピアスのこともあったのだろうけど、ヘッドホンのことといい、一切触れてくる様子が無いことが不思議でならない。

「聞かなくても、オレは困らないから」

 まるで千蔵に対する俺の発言を真似したみたいな物言いに、思わず隣に抗議じみた視線を送る。

「っ……」

 対して向けられた瞳は蜂蜜みたいに蕩けていて、不本意にも甘く絡め取られてしまうせいで、吐き出そうとした言葉を見失う。

(ムカつく。……ムカつくのに、なんか)

 千蔵という男の持つ独特の空気感のせいなのだろうか。妙な居心地の良さを感じてしまって、知らず知らずのうちに毒気を抜かれる。

「……中学ン時にさ」
「うん?」
「好きだった奴がいたんだけど」
「え、なに、橙の恋バナ?」

 少しだけ茶化すように上がる語尾に肘で隣にある脇腹を小突くが、千蔵は大袈裟に痛がる真似をしつつもこちらに耳を傾けているのがわかる。

「好きなのがバレて、全否定されたんだよ。電車ン中で」

 思い出そうとすればあの日の光景はいつでも鮮明に脳裏に蘇ってきて、吐き気すら催しそうになるほどだ。

「そん時から、まあ電車が多いんだけど。注目される場が苦手になっちまってさ」
「そんなに目立つ金髪してるのに?」
「これは荒療治……のつもりだったけど、あんま効果なかったな。結局過呼吸っぽくなるのは変わんねーし」

 前髪をひと房摘まんで持ち上げれば、それまで真っ黒だった髪を初めてブリーチした日のことを思い出す。予想以上に色が抜けて焦りはしたものだったが、今になってはこの金もすっかり見慣れた髪色だ。

(って、こんな話されても困るよな)

 同情が欲しいわけでも共感されたいわけでもないが、これまで友人の誰一人にも打ち明けることのできなかった話だ。
 自分の中だけで消化していくべきことだったはずなのに、近しい人間ではない千蔵だからこそ、逆に抵抗なく話すことができたのかもしれないが。

「そっか」
「いや、変なこと聞かせて悪……」
「だから、ヘッドホンがあると安心するんだ」

 落とされた言葉に隣を見れば、千蔵は一人納得した様子でうんうんと頷いている。

「今は平気なの? ヘッドホンしてなくて」
「え、ああ……今はおまえが一緒にいるし」

 基本的に注目を集める場であっても、親しい友人が傍にいたりすれば過呼吸を起こすこともない。だからこそ一人で電車に乗ったりする際には、周囲を気にしなくて済むようにヘッドホンを装着するようになったのだ。

「そうなんだ。けど、音漏れ警察に目をつけられるとしばらく面倒だと思うよ」

 言葉と共に千蔵が身体をずらすと、彼の肩越しに見つけた中年男性とばっちり目が合う。すぐに視線は逸らされたものの、どうやらこちらを気にして見ているらしいことは明らかだった。

「う……まあ、しょうがねえ。どうにかする」

音漏れ警察がいるとはいえ、自転車で通学するには距離がありすぎる。電車に乗らないという選択肢がない以上、自身でどうにかするよりほかないだろう。

「じゃあさ、オレと一緒に登下校しようよ」
「え?」

 だからこそ、千蔵の提案してきた内容を理解するのに一瞬頭が追い付かなくて。

「オレが一緒なら、ヘッドホン無しでも大丈夫なんでしょ?」
「そう、だけど……」
「他に頼める友達がいるなら、オレがでしゃばることじゃないけどさ」

 友人はいるが方角も違うし、頼むとしたら事情を最初から説明しなくてはならない。過呼吸の話をしたことすらないというのに、わざわざそんな手間をかけようとは思えなかった。

「いや、けど……俺と一緒にいたら変な噂立てられるかもしんねーぞ?」

 自業自得ではあるのだが、金髪にしたせいで不良扱いされることも少なくない。それ自体を気にしたことはないけれど。そんな俺と優等生たる王子が一緒に行動していたら、意図せずとも千蔵に悪い噂が立てられてしまう可能性も十分にあるだろう。第一、そんなことをしてもらうほど千蔵と親しいわけでもない。

「上等。噂立てる奴らなんて好きにさせとけばいいよ」
「っ……」

 そう言って笑う千蔵の顔は、昨日のそれとは全然違っていて。王子と呼ぶには程遠い、まるで悪事を企んでいるかのような悪い男の顔をしていた。

(コイツ……どっちがホントの顔なんだ)

 それから最寄り駅に着くまでとりとめのない話をしつつ無事に帰宅をした俺は、自室に荷物を放り投げてから家族不在のリビングへと向かう。壁際に置かれた猫ちぐらの中では、茶トラ模様の我が家の愛猫が丸くなって健やかな眠りについていた。

「ただいま、きなこ」

 返事は無いが構わずに毛並みを撫で付けると、小さな鼻がプゥと鳴って口元が緩んでしまう。同時に頭の中に浮かんできたのは、これまで見たことのない千蔵の笑う顔だった。これまで王子と呼ばれる男と距離を置き続けてきたが、ふたを開けてみればなんとも居心地のいい空間だったことは、もはや認めざるを得ない。

(……アイツ、ああいう顔してた方が王子よりよっぽどいいと思うけどな)

 本人を前に言えるはずもないようなことを考えながら、俺はどうしてだか明日の登校が少しだけ待ち遠しく思えていた。






「橙、おはよ」
「……マジで来た」

 翌朝。電車に乗るためにホームに立っていた俺は、開いた扉の向こうから爽やかな笑顔で登場した千蔵の姿に目を見張る。一緒に登下校をするのだと決まった手前、乗る電車の車両と時刻は伝えていたのだが。まさか本当にその車両の中から登場するというのは、よもや半信半疑の状態だった。

「そりゃあ来るでしょ。約束は守るよ」
「律儀な男だな……」

 念のためにと首元にかけていたヘッドホンは、どうやら今日はお役御免となりそうだ。電車に乗り込むと通学時間帯ということもあって、車内は多少混み合っている。千蔵と隣り合って吊り革に掴まると、ゆっくりと電車が動き出した。

「なに見てたの?」
「え、なに?」
「さっき、ホームで電車待ってる時にスマホ見てたでしょ」
「見てたっつーか、画像整理してただけ」

 開いていた画面はそのままだったので、俺は飼い猫の画像が並んだフォルダを表示して千蔵の方に傾ける。

「わ、可愛い……! これって橙の家の猫?」
「ああ、母さんが拾ってきたやつ」
「茶トラだよね、名前は?」
「きなこ」
「あはは、可愛い名前。こっちも見ていい?」
「いーけど」

 表情を綻ばせながら画面を指差す千蔵に許可を出すと、スワイプした長い指先が新たな猫の画像を表示させる。可愛い可愛いと同じ言葉を繰り返してはいるが、猫を前に語彙力を失うのはよく理解できるのでなんだか微笑ましくなってしまう。

「……おまえ、猫好きなの?」
「うん、好き。あんまり触る機会とか無いんだけどさ」
「家で飼ったりしねーの?」
「うちは妹が猫アレルギーなんだよね」

 残念そうに眉尻を下げる千蔵は、今日もまた俺の見たことのない顔を惜しげもなく晒してくる。

(こんなにコロコロ表情変わる奴だったんだな……)

 俺が知らなかっただけで元々がこういう人間なのか、それとも猫のなせる業なのかはわからないが。そんな風に見慣れない姿ばかりを見ていたせいで、口が滑ったのかもしれない。

「……なら、見に来るか?」
「え……?」

 きょとんとした顔で千蔵がこちらを見たことで、ようやく俺は何を口走ってしまったのかと気がつく。

「あっ、いや、違……!」
「いいの!?」
「えっ……あ、ああ」

 けれど俺が訂正を挟むよりも先に千蔵の嬉しそうな声が聞こえて、肯定を重ねてしまう。それじゃあ今日の放課後に、とトントン拍子で話が進んでいき、その日の授業はなんだかまるで身に入らなかった。






「お邪魔しまーす」
「どーぞ。別に親いねえけど」
「ニャア」

 千蔵と連れ立って帰宅した自宅の玄関を開けると、今日は起きていたらしい愛猫のきなこが出迎えをしてくれた。けれど家族以外の人間がいることに気がついたきなこは、目を丸くしてリビングの方へと引き返していく。

「あれ、嫌われちゃった?」
「いや、人見知りだからあれがデフォ。部屋そっちな」
「はーい」

 廊下の奥にある扉を指差してリビングに向かうと、案の定全身で警戒をしているきなこが丸い猫ちぐらの中で俺を見ていた。見知らぬ他人を家に上げるなと言いたげな瞳は、予想はしていたものの申し訳なくもなる。

「怖い奴じゃないって。大丈夫だぞ、きなこ」
「ニャウ……」

 不満げな唸り声を背中に受けつつ、俺は客人に飲み物を出すべく冷蔵庫を漁る。千蔵をもてなす必要もないとは思うのだが、会話に詰まった時に何か手元に無いと困るだろうという思いもあった。

(なに飲むか聞いてくりゃ良かったな。まあいいか)

 冷蔵庫にあったウーロン茶をグラスに注ぐと、棚から適当な袋菓子を掴んで俺は自室に向かう。両手は塞がっていたが部屋の扉は開いていたので、問題なく室内に足を踏み入れることができたのだが。

「……は?」
「あ、おかえり橙」

 目の前に広がる見間違いとしか思えない光景に、俺は言葉を失ってしまう。床で胡坐(あぐら)をかいている千蔵の膝の上に、つい今しがたまでリビングで来客に警戒心全開だったきなこが、当たり前のような顔をして鎮座していたのだ。

「嘘だろ、きなこ……?」
「なんか、大丈夫だと思ってくれたみたい」
「いやいやいや、こいつマジで人見知りすんだぞ!?」

 茶トラ猫という種類は甘えん坊で人懐っこい性格をしていることが多い。けれどきなこは別だ。元が捨て猫だった経緯もあるせいか、基本的に人間という生き物に対して並々ならぬ警戒心を抱いている。同じ家に住む家族であれば気を許してくれているのだが、親父が出張で一週間ほど留守にしただけでも威嚇の日々が続くほどだ。

「じゃあ珍しいんだ? 嬉しいなあ」

 きなこが自ら他人の膝に乗る姿なんて見たこともないが、さらに背中を撫でさせてすらいる。もはや緊急事態だ。

(いや……きなこにもわかるのかもな)

 千蔵という男の持つ穏やかな空気。妙に惹きつけられる居心地の良さのようなものが、猫にも伝わっているのかもしれない。

(俺だって、猫だったらきっとああやって撫でられたって……)

 などと考えかけたところで、我に返った俺は自身の思考回路が理解できずに全身に鳥肌を立ててしまう。

(なに考えてんだ俺キモすぎんだろ!? きなこが予想外の行動したりするからだ!)

 ローテーブルの上に菓子類を乗せて隣に腰を下ろすと、背後にあるベッドを背凭れに恨みがましくきなこを見る。指先で顎の下をくすぐられる姿は気持ちが良さそうで、きなこはすっかり千蔵のそばを気に入ったようだった。

「ふわふわしてて触り心地いいね、きなこちゃん」
「あー、おふくろが熱心にブラッシングしてるからな」
「橙の髪もふわふわしてそう。触っていい?」
「ダメに決まってんだろ」
「ははっ、即答!」

 そんな質問をされるなんて予想できるはずもなく、反射的に拒否した俺に思わずといった風に千蔵は笑う。その拍子に僅かだが口内のピアスがちらつく。

「……おまえさ、なんでピアス開けてんの?」
「ん? 特にこれって理由もないんだけど……反抗期かな」
「反抗期」

 千蔵という男に反抗期というものが存在したのかは定かではないが、少なくとも想像が難しいと感じる程度には似合わない言葉だとも思う。

「橙はさ、ピアス開けてないよね」
「あ?」

 そう呟いた千蔵の手が動いたかと思うと、きなこに触れていた指が俺の耳元に伸ばされる。耳の輪郭をなぞって耳朶へと滑り落ちていく指がくすぐったくて、意思に反して肩が大袈裟なほどビクリと跳ねてしまう。

「ッ……おい」
「あ、ごめん。橙って敏感なんだ?」
「はぁ……っ!?」

 次いだ言葉がなんだか意地悪く聞こえてしまったのは、千蔵の表情が少しばかり悪い色を滲ませていたからだろう。

(コイツ、教室じゃこんな悪い顔しないクセに……!)

 耳元から離れていく指は、再びきなこの毛並みを撫で付けている。やたらと煩い心臓を落ち着かせるために、俺は手に取ったグラスの中身を一気に飲み干した。

「ピアス、似合いそうなのに」
「……痛ェだろ、穴開けるとか」
「そうかな。オレはあんまり痛くなかったけど」

 耳朶を貫通させるのもハードルが高いと思うのに、千蔵はなんでもないことのように言ってのける。

(舌の方がよっぽど痛そうだけど、そうでもねえのか……?)

 開けてみなければ真実はわからないだろうが、少なくとも俺は自分の舌を使って挑戦するつもりは微塵もない。

「そういえば、そろそろ学力試験だね」
「……あ」

 できれば聞きたくなかった単語ではあるが、避けて通れない学力試験という存在を嫌でも思い出してしまう。俺が眉間に皺を寄せたことに気づいたらしい千蔵は、きょとんとした顔で首を傾げている。

「あれ、もしかしてあんまり自信無い感じ?」
「……最低限点数取れりゃいいだろ」

 うちの学校はそもそもの校則がゆるい。だからこそ俺は髪を金色に染めたりもしているし、ピアスを開けること自体も別に校則違反ではない。しかし学力試験で赤点を取った場合は別の話だ。

「うちって赤点取ったらバイトとか染髪禁止になるよね」
「…………」

 校則がゆるい代わりに最低限のラインを守らせる。それがうちの高校のやり方だ。すっかり見慣れてしまったこの金髪を、今さら黒に戻すのは気が引けてしまう。いずれはバイトだってしたい。だからこそ赤点を回避する必要があるのだが、勉強ははっきり言って嫌いだった。

「じゃあ、一緒に勉強する?」
「勉強? おまえと……?」
「赤点回避したいんでしょ? 教えられそうなトコがあれば、オレ教えるけど」

(そういや、こいつの成績って学年上位だったか)

 王子と呼ばれる所以(ゆえん)はその見た目や言動だけでなく、一定以上の学力も併せ持っているからこそのものだ。

「……じゃあ、頼む」
「うん、なら目指せ赤点回避だね」

 こうして俺は、なぜだか千蔵と勉強をすることになったのだった。







「かーぶちー、帰ろうぜー!」
「悪い、今日ちょっと用事ある」

 放課後になると声を掛けてくる塚本に即答で言葉を投げると、1ミリたりとも断られるとは思っていなかったと顔に書いてある。

「なんでだよー!? 一緒にカラオケ行こうぜ!?」
「だから用事だって、また今度な」
「おのれ、橙の裏切り者ーっ!」

 抗議の声を背中に受けながら教室を後にすると、俺は下校する生徒たちの流れとは真逆の方向へと足を進めていく。向かった先の室名札には『図書室』と記されている。
 がらりと音を立てて扉を開いた先では、数名の生徒が机に向かって本を開いている姿が見える。受付に座る図書委員らしき女子生徒は、俺を見て僅かにぎょっとしたような顔をしたが、それは見なかったことにした。癖で首元のヘッドホンに手を掛けつつ室内に視線を巡らせたところで、誰かの片腕が持ち上げられるのが見えた。

「橙、こっち」

 控えめな声音で俺を呼ぶのは、先に図書室へとやってきていた千蔵だ。俺はテーブルを挟んで千蔵の向かい側に置かれた椅子に座ろうとする。

「あれ、こっちの方が良くない?」
「いや、別に隣じゃなくても……」
「隣の方が教えやすいよ、あんまり大きい声で話せないし」

 自身の隣を指差す千蔵に抵抗の意思を見せるのだが、確かに彼の言う通り図書室では発することのできる声量も限られるだろう。悩む時間ももったいないかと、俺は結局千蔵の言う通りに隣へと移動することにした。

「で、何からやる?」
「あー……全部やりたくねえけど」
「ふふ、じゃあ数学からにしようか」

 わざわざ図書室なんて場所に足を運んだ理由はほかでもない、千蔵に勉強を教わるためだ。俺の家でやっても良かったのだが、愛猫のきなこがすっかり千蔵に懐いてしまい、千蔵側としても勉強どころではなくなる可能性があるとのことだった。

(確かに、猫はそんな場合じゃねー時に限って構われに来るからな)

「ひとまず範囲になりそうなのが、ココとこの辺りかな」
「そんなことわかんの」
「この間の授業で先生がそれとなく話してたよ」
「……寝てたかも」

 言われてみれば聞いたような気もするけれど、覚えていないのだから右から左に通り抜けていってしまったのだろう。教科書を開いた途端、視界に飛び込んでくる数式の数々がまるで俺に呪文をかけてくるみたいで、自然と眉間に皺が寄ってしまう。
 始めは理解しようと努力をしていたのだが、一度(つまづ)いてしまうとどうにも別の星の言語のように見えてきてしまうのだ。

(やべ、後でやるかの繰り返しで放置したトコだ)

 後回しにせざるを得なかったのは、やたらと放課後に遊びたがる塚本のせいだ。大体のことは全部アイツのせいだと思っている。

「早速わからないところある?」
「え、あー……」

 わからないところをわからないと言うのも妙に悔しい気がするのだが、試験勉強に来ているのだから1つでも理解ができなければ時間を無駄にするだけになる。

「ココ、そもそもなんでこの数字が出てくんだ。納得いかねえ」
「ああ、これややこしいよね。引っ掛けってほどでもないんだけど」

 俺の手元を覗き込んでくる千蔵は、どうやらこの数字たちについて理解できているらしい。俯いたことで癖のない黒髪がさらりと頬を滑り、千蔵の顔に影を落とす。

(……マジで綺麗なツラしてるよな。つーかなんかいい匂いしやがるし)

 香水のそれともまた違った、ほのかに甘いような不思議な香り。汗臭さを纏うコイツの姿なんて想像もできないのだけど。性格も伴ってこれほど王子らしい顔をしているのだから、クラスの女子たちが騒ぐのもわかる気がする。なんてことを考えるうちに、知らず知らずその顔をもっとよく見てやろうと距離が近づきすぎていたらしい。

「それでこれが、って……橙?」
「ッ……うわ……!?」

 俺の方を見た千蔵の鼻先が自分の鼻につくんじゃないかと思った。そのくらい間近に迫っていたせいで、俺は反射的にのけ反って大きな声を出してしまう。当然ながら周囲の視線が一斉に俺の方を向いていて、小さく咳払いをしてから何でもない顔をして席に座り直す。

「っふふ、なにしてんの」
「るせ……集中しすぎてたんだよ」
「オレに?」
「っ、問題に!」

 楽しそうに口元をゆるませて揶揄する言葉を紡ぐ千蔵に、俺は再び増した声量で反論してしまう。

「図書室では静かにしてもらえますか」
「……すんません」

 とうとう図書委員らしき女子生徒から注意を受けてしまい、俺は背を丸めて小さく謝罪を落とした。当の千蔵は隣で肩を震わせて笑っているのが腹立たしいが、ここは千蔵の上履きを踏みつけることで手打ちにしてやることにした。

「……で?」
「ああ、ごめんごめん。ココはひとつ前の数字をさ」

 笑いの余韻は残っているものの、そこからの千蔵の教え方は教師のそれよりよっぽど理解がしやすいものだった。あれほど他の星の言語だと思っていたものが、今や日常会話レベルまで扱うことができている気がする。……いや、さすがにそれは言いすぎかもしれないが。

「……スゲ、こんな単純な話だったのかよ」
「オレの教え方で理解できたなら良かった。他はこれの応用だから、よっぽどの引っ掛け以外は問題ないと思うよ」
「おまえが山センの代わりやったらいいんじゃね?」
「あはは、そんなこと言ったら山田先生に怒られるよ」

 俺としては割と本気の発言なのだが、千蔵はあくまでそれを謙虚に受け取る。

「でもさ、そう言ってもらえるのも橙に理解力があるからだよ」
「そうかあ? 山センがなに言ってんのかさっぱりだぜ?」
「それはまあ、相性もあるのかもしれないけど」

 そこに否定を挟まない姿を見るに、もしかすると千蔵も山センの教え方については上手くないと感じているのかもしれない。

「橙さ、勉強嫌いなだけで、苦手じゃないでしょ?」
「え……?」

 急な問い掛けの意図がわからずに、俺は教科書の上の数字から千蔵の方に顔を向ける。どこか悪戯っ子のような表情を浮かべた千蔵は、手にしていたペンの先端で俺の手元にあるノートをトントンと叩く。

「ノートの取り方綺麗だし。本気でやればきちんと結果出せる奴だと思うよ」
「そ……そうかあ?」

 言われて手元に視線を落とすと、確かに自分のノートの取り方は見やすい方なのではないかと感じる。後から自分がわかりやすいようにと昔からの習慣だったが、特別なことでもないと思うし、そんな風に見られていると思うとなんだか気恥ずかしい。

(確かにめんどくせえだけで、勉強も苦手意識は持ってねえのかも……)

 どうやら千蔵は、俺よりも俺のことが見えているらしい。そう気がつくと途端にムズムズしてしまう。

「ま、まあ、褒美とかあれば頑張れるかもな」
「ご褒美? なるほど……橙の好きな物ってなに?」
「え?」

 誤魔化しのつもりで口にした言葉に、千蔵は神妙な面持ちで食いついてくる。

「えーっと……なんだろ、甘いもんとか?」
「へえ、橙って甘党なんだ」
「美味いもんなら何でも好きだけどな」
「そっか。じゃあさ、赤点回避したら甘いもの奢るよ」
「……いいけど」

 そんな提案をされるとは思っていなかったのだが、頑張った後に褒美が待っているというのは実際悪くはない。けれど俺は褒美以前に勉強を教わっている身で、千蔵にとってメリットのある提案だとも思えない。

「俺だけ貰うっつーのもどうなんだ」
「え、じゃあ……橙も何かくれる?」

 軽く首を傾げて俺を窺い見てくる千蔵は、どことなくあざとさを感じさせる視線で答えを待っている。

「何か……まあ、やれる範囲のもんならなんでもやるけど」

 千蔵はきょとんと目を丸くした後に、口元に手を当てて思案する素振りを見せた。

「なんでも……ねえ?」
「いや、マジでやれる範囲だぞ? 焼肉奢るとかはしねーからな?」
「……考えておく」

 ゆるりと口角を持ち上げる千蔵の姿に、俺は早まった回答をしてしまったのではないかと後悔する。その日から試験当日まで、俺たちはほぼ毎日図書室に通って試験勉強を続けていた。

(あれだけ面倒だって思ってたのになあ)

 気がつけば、帰りの電車の中でも俺は単語帳を片手に試験前日を迎えることとなる。こんな自分の姿は少し前には想像もできないものだったが、勉強する時間が少しだけ楽しみになっているのも事実だった。

(頑張れんのは、やっぱ褒美が待ってるからだよな)

 そんなことを考えている時、ふと肩に重みが増したのを感じて隣を見る。俺と同じように隣で英単語帳と向き合っていたはずの千蔵が、いつの間にか目を閉じてこちらに凭れ掛かってきていたらしい。
 黒髪が頬をくすぐる感触に千蔵を起こそうとするが、滅多に見られないであろうこの男の気の抜けた姿を前に、なぜか少しばかりの優越感のようなものを覚えていた。

(……コイツもうたた寝とかすんだな)

 目元にかかる前髪をそっと指先で払ってやると長い睫毛が僅かに震えた気がしたが、千蔵が起きる気配はない。

(もうちょっとだけ寝かせといてやるか)

 頑張れるのは褒美があるからか。

 それとも、千蔵が一緒にいるからなのか。