俺の彼女や妹が寝取られそう

 瑞葉に対してメッセージを素早く打つ俺。大興奮である。

 内容は以下である。

「なんでだよー、なんでだよー、浮気するならキッチリ俺と別れてから新しく交際を始めろよなー」

「どうして木下と恋人つなぎしてるんだ。俺たち別れるぞ、もう付き合えない。お前に対する信頼を失った。信じてたのに瑞葉。キスだってトータル三回だぞ、十数年一緒にいて、たったの三回しかキスしてないだろ。注:幼児時代は除く」

「しかもだ、風呂も一緒に入ったことがなかった。幼少期は除くだがな。あの頃は子供だったから良かっただけだ。今ならもっと入浴したい。お前と一緒に。いや、今はそんなことは関係ない。忘れてくれ、不毛だ。意味わからん」

「木下と仲良くしてるのを観たぞ。観察しているニュアンスを入れて、観たって書いたぞ。”見た”でもいいが、意味わかってるか、ちくしょー瑞葉!」

「で、瑞葉さんは何してんの? 木下先輩とさ。恋人つなぎして、木下先輩と風呂に入って『あ~極楽』とか言ってるんだろ、新婚みたいなキスをしたり、腕を組んで胸を押し付けたりしてるんだろ」

「俺は悲しいぞ瑞葉。なんで、なんで俺を裏切ったんだよ。信じてたのに。また遊びに行こうって、夏はプールと水着、祭りと浴衣だろ、タコ焼き、ヤキソバ、リンゴアメ、標的打ちやろうって約束したろ。ピラミッドパワーってあるのか?」

「もう木下と”した”のか? なぁ、エッチしたのか、アレしたんだろ! この裏切り者が! お前、お母さんやお父さんに顔向けできるのか? お金一杯出してもらって学校行かせてもらってるのに、恩をあだで返すのか? あ、いや、すまん、ちょっと言い過ぎた」

「瑞葉さんさぁ、オレがどれほど君を信じていたのか、分かってるかい? それはそれは深みの深淵を覗くぐらいのレベルでさぁ。もう世界一深く瑞葉を愛していたんだよ」

 裏切りだ!
 木下と何してる!
 エッチしたのか!

「女の長い買い物時間だってへっちゃらさ。俺は平気で待てる男さだから」

 将来一緒に暮らしたかった!

「そのいたいけな夢をお前は壊した。俺はオレはとても悲しい。お前の下着が見たかった」




「義孝ちょっとマテ! メッセージがおかしくなってるぞっ」


 ◇


 行くぞ、突撃だぁ!

 小林によって狂乱をおさめた俺は、自分の精神錯乱を戒め、喫茶店の清算をすませ、一緒に外に飛び出した。二人の行先は小林が追っていたので方向もばっちり、たぶん、直ぐに追いつけるだろう。

 出来ることならばホテルの入口でパチリと撮影しておきたい。

「なぁ義孝、リアルタイムで目撃し、メールで追及したんだから、証拠云々ってのはそれほど大切じゃないと思うぞ。写真は撮れればラッキー程度でいい」

「ああ……そうだな……」

「スパムメール級の文章をあっという間に書いて送っていたが、誤送信してないだろうな? あんなん親や先生に間違って送ったらヤバいぞ、マジな話が」

「誤送信か……やってるな……」

「?」

「女子校で連絡先交換した女の子Aちゃんに送っちまってた。ヤベっ。何やってんだろ俺」

「返信きてる」

「なんて?」

「『誰ですか?』って」

「義孝、気にするな。そう関係のある相手じゃないだろ。平気へいき。まぁ二度とあの学校には行けないだろうがな」

「瑞葉に送りなおしたよ……」


 ◇


 二人にようやく追いついた。まだ恋人つなぎをしているままだ。瑞葉がまたフラついて身体を木下に預ける。と同時に俺の嫉妬がさく裂する。

 俺の送ったメッセージがそろそろスパムするだろうし、すでに写真を撮ったので、電話を掛けてみる。この場でケリをつけるぜ。小林は動画撮影担当だ。

 プルルルル……

 二人は手を繋いだまま、瑞葉は空いた手でスマホを取り出し画面を見る仕草、そして、すかさず切られた。なぜっ

「くっ! こうなりゃ現行犯だ。オレは突っ込んでくるぞ」

「おう、骨は拾ってやるぜ。念のため、瑞葉ちゃんの様子だけはしっかり観察しろよ」


 ……この間に、瑞葉が木下の腕を軽く引く。

 自動ドアが静かに開く。

 二人はそのまま迷いなく中へ消えた。

 俺は小林の方へ顔を向け、一言いうのであった。


「幹夫君、帰ろうか」

「いいのかオイ」と小林

「ああ、いいんだ」

 もう追い掛ける気力も残っていなかった。怒りも悲しみも、不思議なくらい消えていた。