夜は何事もなく平和であった。そして朝を迎える。集合時間を知らせるスマホのタイマーが鳴った。

 チュン、チュン

 隣を向くと可愛い女の子が裸で……なんてことはなく、俺は妹に叱られ、リビングのソファーに一人移動しており、自分の部屋には瑞葉が眠った。朝チュンか、健全な高校生の俺にはキツいぜ。

 起きた瑞葉と由愛が上階から降りてきた。

「「おはよう~」」

 ピンポーン

「お、小林も来たか」

 玄関を開けると小林がいた。

「おっす」

「おう、おはようさん」

 リビングに小林を通し、その間に女子達が朝食を作る。トーストを焼いてバターを塗る、タマゴを焼くという簡単なものだ。

 バタートーストは旨い。俺の大好物だ。パクパクと五枚ほど食べた。

「さて、みんな食べながら聞いて欲しい」

「俺はな、鉱泉宿の()()()()()()がポイントだと確信している」

 瑞葉
「電話ボックス? 確かにあれだけ異様な雰囲気だったわね」

 俺
「そうだ。数日前から俺の中の”何か”が知らせてくるんだ。あそこに行けと」

 瑞葉
「車を出してくれるご両親はいないし、どうやって行くの?」

 俺
「それは後でのお楽しみ」

 小林
「電話ボックス……賛成だ。オレも第一候補として考えていた」

 俺
「リュックに財布とか飲み物とか入れて、長袖で準備だ。用意できたら行くぞ」

 小林
「行くってどこへ?」

 俺
「電話ボックスに直接さ」


 ☆

「準備できたか? そしたら俺に捕まってくれ。たぶん、接触してればOKだ。テレポーテーションを敢行する」

 いいから、いいから、と小林と瑞葉の手を取り、後ろから由愛に抱き着かれたが、ちゃんと捕まってろよと声をかけ伝える。

「いくぞ! ロイヤルデモンローズ」

「「「えっ!」」」

 ギューーーン

 空間が歪んで、目が覚めたら電話ボックスの前だった。到着したと同時に皆が手を放して倒れ込んだ。行き当たりばったりの戦法だったが、どうやら上手くできたようだ。

 由愛
「ど、どうしたのコレ、ねぇーねぇーねぇーっ」

 瑞葉
「うわ~~~、電話ボックスまで一瞬で来ちゃったよ」

 小林
「ロイヤル…はないだろ。ギャラクシアn…は省いてエクスプロージョンだけでも好いだろうが。異次元へ放り込むならスターライン・エクスティンクションとかさ」ブツブツ

 俺
「いやな、俺はどうやら空間魔法のスキルに覚醒したみたいでさ、行ったところなら強く念じれば、即座に移動できちゃうんだよ。平たく言えばチート勇者だな」

 瑞葉
「へ? 義孝君、勇者様になったの?」

 由愛
「ちょっと小林さんと瑞葉ねえちゃん、ズレてるよ」

 小林
「ぜひ説明して頂けないだろうか?」

 俺
「小林君。最近、夢の中で啓示があってさ。多分、神様からだと思うんだが、こうしろ、ああしろって指示貰ったりして。ちなみに掛け声は俺が勝手に趣味でつけた」

 由愛
「掛け声、”ワープ”とか”転移”で良かったんじゃ」

 小林
「お前だけ俺たちとは違う夢を見てたのか」

 瑞葉
「義孝君、チート勇者様になったのなら、極大魔法のエクスプロージョンとか、オーロr・エクスキューションとか、鳳翼天(ほうよくてん)とか、波動砲火(はどうほうか)とか、すんごいの放てるんだよね?」

 由愛
「瑞葉ねえちゃん、やめて、それ以上はダメ、お願い」

 小林
「なるほど、アウトみたいに思えるがな、じゃ次は?」

 俺
「間もなく夜になる」


 ☆

 あっという間に周辺が真っ暗になった。電話ボックスだけが緑色の光に包まれて浮かび上がっている。

 小林
「本当に義孝の言う通り、真っ暗になってるな」

 瑞葉
「なんだか異世界の聖女様になった気分だわ……」

 由愛
「聖女は止めて! いつも寝取られちゃうんだから」

 俺
「次に電話ボックスの中に入る。そして電話機に貼り付けられた電話番号に掛けるんだ」

 ピポパポ、ピポパポ、トゥルルルル、トゥルルルルル、ガチャ。

 謎
「お疲れさま、義孝君。よく頑張ったね」

 俺
「こんばんわ、神様。元の世界に戻れますか?」

 謎
「もちろん、三十秒後に()()()()()()()()()転送するからね」

 俺
「この夢の中の体験って意味があるんですか?」

 謎
「意味か、意味はないかな。なぜなら君の夢だから」

 俺
「俺の夢の中ですか……」(コレ、アウトだよな)

 謎
「この世には絶対というものはないんだ。そして常に動いている。良いものを探し求め、見つけ出すのは、愛やら趣味やら多々あるけど、それは君次第。頑張れ、若人」

 俺
「はい」

 謎
「それでは、元の世界へ戻り給え。アディオス!」


 ☆

「ふぅ~戻ってきたか」

 気づけば朝に出発した自宅に戻っていた。瑞葉や由愛、小林も一緒にいる。成功だったみたいだ。

 リビングの様子は今朝と同じ。一見すると夢の世界と全く変わらないのだが、元の世界へ戻ってきたという証拠がある。

 母
「あらあら、みんなで揃っちゃって。どうしたの、お菓子食べる?」

 俺
「ただいま、お母さん」

 由愛
「お母さん、ただいま」

 瑞葉
「お菓子、いただきます」

 小林
「お、お邪魔してます。ご挨拶が遅れまして、わたくし、小林と申します。由愛さんの……、由愛さんの、ゆ、友人です」

 俺
「普通は由愛じゃなくて、俺の友人だろ」


 みんな気づいてない? 解決したのか? セーフ? セーフだよね?


 ☆

 一週間後