俺にはとても可愛い彼女がいる。
皆が彼女に憧れ、彼氏である俺に嫉妬する。彼女は学校でもトップクラスに人気があり、男の好みで好き嫌いが分かれるものの、男子アンケートでは常に美少女のランカー保持者である。
名を、村越瑞葉という。高校二年生の文系コースに通っている。彼氏である俺も同学年の文系コースでクラスメイトだ。彼女はバドミントン部。幼いころから体が弱かった為に、健康目的で始めていた。
そして俺は西之原義孝──バスケ部だ。一年下には可愛い妹がいる。
瑞葉とは幼稚園からの腐れ縁、ゆえに幼馴染であり、中学一年の学期末、俺の告白から付き合い出して、一緒の高校に行こうねと志望校を話し合ってこの学校に決め、二人とも無事合格。
青春というのを謳歌している真っ最中という訳である。
今日は三年のサッカー部の先輩たちがグランドに訪れ、基礎体力を見直そうという”なぜ?”というイベントのせいで、我らバスケ部も集合させられていた。
友人の小林幹夫が俺に言う。
「なぁ、なんでバスケ部の俺たちがサッカー部の先輩にしごかれるんだ?」
俺にも分からん。
「まさに謎イベント、というか知らんよ」
またバドミントン部も呼ばれたみたいで、ついでに俺の応援も、と傍に来ていた瑞葉や妹もいた。総勢三十名ぐらいの規模で先輩たちのしごきを受けるようだ。早く終わると良いな。
「全員集合、よく集まってくれた。感謝する。市のスポーツ交流事業のモデル校に選ばれた」
サッカー部キャプテンの木下先輩が説明する。今年から学校間の交流を推し進める自治体の政策のため、テストケースとして我が校が他校の運動部を巡回してテクニック交流をすることになったらしい。
全員で動くわけにはいかないので、この中からえりすぐりのメンバーを決めて他校を武者修行・巡回しよう、内申点にも有利だぞ、という本音が見え隠れしていた。
平たく言えば、選抜メンバー四人を決めるために俺たちは集められたっぽい。全員が困惑顔だ。
メンバー選出は男女半々、主に、二年生が担当する。引率は先生ではなく木下先輩で、あっけなくキャプテン推薦、部長推薦、学年代表で決まった。
木下先輩、瑞葉、妹、俺であった。急病の際の代理は友人の小林。
小林
「木下先輩は男女関係なく肩を叩いたり腕を組んだりする癖があるらしい」
「チャラいんだな」
と俺の印象。
他の部員たちを前にして、木下先輩が宣言する。
「俺たちで巡回するが、皆も参加している気持ちで我々を応援して欲しい」
「最後に費用対効果みたいなレポートを書いて提出するだけでOKだから気軽にな。この五人の顔と名前を覚えてくれ。お前らの代わりに生贄になってくれたんだからな」
と笑いながら話した。選抜者はみんなの前で揃って立ち並んだ。
「お兄ちゃん……」
俺の顔を見てはにかむ妹。
「あ、そうそう、最初は二名で予算を節約しながらやろう。西之原君と小林君は友人同士だったね、バックアップとして助けてやってくれ」
「はい。分かりました」と補欠の小林。
──握手
「じゃ、もう一チームは俺木下と村越さんだね。皆よろしく」
瑞葉と木下先輩が顔を合わせて挨拶しあう。
──肩を叩く
体育会系で距離感がおかしい。
「仲良くガンバロー」
──そこで木下先輩が瑞葉の肩に腕を回した。
「ハイ、木下先輩」
そう笑顔で返事をしながら、木下先輩に腕を回された瑞葉はワンテンポ置いたあと、彼の腕を振り払う。
──手を振り払うのが遅い! 俺には、瑞葉がまんざらでもなかったように見えた。
木下先輩はハッとしながら「ごめん」と謝っていた。そして瑞葉はバツが悪そうにチラリと俺の顔を見た。
──俺は心の中で怒り狂っていた。
(大切な幼馴染で彼女である瑞葉に、勝手に触るなど言語道断、許せん。もう木下先輩だなんて呼ばん、木下だ)
瑞葉は俺の怒り顔を見て察し、急いで俺の傍に寄ってきて耳打ちする。
「酷いわね、木下先輩って。ドライブシュートを教えてくれるのだとばっかり、勘違いしてたわ失礼しちゃう。義孝くん落ち着いてね」
しかし言葉とは裏腹に、少し恥ずかしそうに俯いた瑞葉は、目が潤み、耳が真っ赤で、まるで頬を赤く染めたその表情は、嫌がったというより照れてしまったようにも見えた。
くどいが、そう、いわゆる喜んでいるように見えるではないか。
「!」
こ、こいつ……。
木下先輩は爽やかな笑顔を浮かべている。だが俺には、その笑顔が女慣れした男の余裕にしか見えなかった。
……嫌な予感しかしない。
◇
「四人そろうのも久しぶりよね」
「四人といえば今年の初詣、楽しかったなー」
妹の由愛は思い出していた。
「ああ、ラッキーだったな」
左から、小林幹夫、妹(由愛)、義孝(俺)、瑞葉
↓

楽しい話を妹や瑞葉に振られても気分は晴れなかった。
木下先輩、ああいう男が一番危ない。
根拠なんてない。
それでも俺の胸騒ぎは、どんどん大きくなっていった。
皆が彼女に憧れ、彼氏である俺に嫉妬する。彼女は学校でもトップクラスに人気があり、男の好みで好き嫌いが分かれるものの、男子アンケートでは常に美少女のランカー保持者である。
名を、村越瑞葉という。高校二年生の文系コースに通っている。彼氏である俺も同学年の文系コースでクラスメイトだ。彼女はバドミントン部。幼いころから体が弱かった為に、健康目的で始めていた。
そして俺は西之原義孝──バスケ部だ。一年下には可愛い妹がいる。
瑞葉とは幼稚園からの腐れ縁、ゆえに幼馴染であり、中学一年の学期末、俺の告白から付き合い出して、一緒の高校に行こうねと志望校を話し合ってこの学校に決め、二人とも無事合格。
青春というのを謳歌している真っ最中という訳である。
今日は三年のサッカー部の先輩たちがグランドに訪れ、基礎体力を見直そうという”なぜ?”というイベントのせいで、我らバスケ部も集合させられていた。
友人の小林幹夫が俺に言う。
「なぁ、なんでバスケ部の俺たちがサッカー部の先輩にしごかれるんだ?」
俺にも分からん。
「まさに謎イベント、というか知らんよ」
またバドミントン部も呼ばれたみたいで、ついでに俺の応援も、と傍に来ていた瑞葉や妹もいた。総勢三十名ぐらいの規模で先輩たちのしごきを受けるようだ。早く終わると良いな。
「全員集合、よく集まってくれた。感謝する。市のスポーツ交流事業のモデル校に選ばれた」
サッカー部キャプテンの木下先輩が説明する。今年から学校間の交流を推し進める自治体の政策のため、テストケースとして我が校が他校の運動部を巡回してテクニック交流をすることになったらしい。
全員で動くわけにはいかないので、この中からえりすぐりのメンバーを決めて他校を武者修行・巡回しよう、内申点にも有利だぞ、という本音が見え隠れしていた。
平たく言えば、選抜メンバー四人を決めるために俺たちは集められたっぽい。全員が困惑顔だ。
メンバー選出は男女半々、主に、二年生が担当する。引率は先生ではなく木下先輩で、あっけなくキャプテン推薦、部長推薦、学年代表で決まった。
木下先輩、瑞葉、妹、俺であった。急病の際の代理は友人の小林。
小林
「木下先輩は男女関係なく肩を叩いたり腕を組んだりする癖があるらしい」
「チャラいんだな」
と俺の印象。
他の部員たちを前にして、木下先輩が宣言する。
「俺たちで巡回するが、皆も参加している気持ちで我々を応援して欲しい」
「最後に費用対効果みたいなレポートを書いて提出するだけでOKだから気軽にな。この五人の顔と名前を覚えてくれ。お前らの代わりに生贄になってくれたんだからな」
と笑いながら話した。選抜者はみんなの前で揃って立ち並んだ。
「お兄ちゃん……」
俺の顔を見てはにかむ妹。
「あ、そうそう、最初は二名で予算を節約しながらやろう。西之原君と小林君は友人同士だったね、バックアップとして助けてやってくれ」
「はい。分かりました」と補欠の小林。
──握手
「じゃ、もう一チームは俺木下と村越さんだね。皆よろしく」
瑞葉と木下先輩が顔を合わせて挨拶しあう。
──肩を叩く
体育会系で距離感がおかしい。
「仲良くガンバロー」
──そこで木下先輩が瑞葉の肩に腕を回した。
「ハイ、木下先輩」
そう笑顔で返事をしながら、木下先輩に腕を回された瑞葉はワンテンポ置いたあと、彼の腕を振り払う。
──手を振り払うのが遅い! 俺には、瑞葉がまんざらでもなかったように見えた。
木下先輩はハッとしながら「ごめん」と謝っていた。そして瑞葉はバツが悪そうにチラリと俺の顔を見た。
──俺は心の中で怒り狂っていた。
(大切な幼馴染で彼女である瑞葉に、勝手に触るなど言語道断、許せん。もう木下先輩だなんて呼ばん、木下だ)
瑞葉は俺の怒り顔を見て察し、急いで俺の傍に寄ってきて耳打ちする。
「酷いわね、木下先輩って。ドライブシュートを教えてくれるのだとばっかり、勘違いしてたわ失礼しちゃう。義孝くん落ち着いてね」
しかし言葉とは裏腹に、少し恥ずかしそうに俯いた瑞葉は、目が潤み、耳が真っ赤で、まるで頬を赤く染めたその表情は、嫌がったというより照れてしまったようにも見えた。
くどいが、そう、いわゆる喜んでいるように見えるではないか。
「!」
こ、こいつ……。
木下先輩は爽やかな笑顔を浮かべている。だが俺には、その笑顔が女慣れした男の余裕にしか見えなかった。
……嫌な予感しかしない。
◇
「四人そろうのも久しぶりよね」
「四人といえば今年の初詣、楽しかったなー」
妹の由愛は思い出していた。
「ああ、ラッキーだったな」
左から、小林幹夫、妹(由愛)、義孝(俺)、瑞葉
↓

楽しい話を妹や瑞葉に振られても気分は晴れなかった。
木下先輩、ああいう男が一番危ない。
根拠なんてない。
それでも俺の胸騒ぎは、どんどん大きくなっていった。



