「ライムちゃん連れてきましたよぉ~~」
ラーナがちっこいライムを両腕に抱いて戻って来た。
寝ているところを連れてきたので、まだそのかわいいまぶたは閉じられたままだ。
「ライムちゃん、昨日からずっと寝てますよ」
スゥスゥと寝息を立てるライムを覗き込む俺とティナ。
「ん……クレイおにい」
「そうだな、こりゃ熟睡モードだ」
天使のような寝顔のライムを見て確信する。
「無理に起こすと機嫌が良くない」
「ん……それさいあく」
「でもライムちゃんに起きてもらわないと、晴れ女?が発動できないんですよね?」
「そうだなラーナ。だが機嫌が悪いまま起きて能力を使うと、晴れるは晴れるんだが……激晴れになるんだよ」
「えっと……それは危ないんですか?」
ラーナが首を傾げた。
「激熱太陽が出てくる。なにもかも焼かれてしまうだろう」
「ん……全員焼肉」
「ええ……焼肉って。そんなのいやですよぉ~」
晴れ女、この世界でも前例のない力。
ライムのスキル能力が発覚したのは、ちょうど1年前の彼女が4歳の時だ。
お出かけイベントが予定されていた当日のこと、珍しく俺も参加者に加わっていたことが良かったのかライムは当日を楽しみにしていた。
ところが近年まれにみる超豪雨で、イベントは中止となってしまう。
ここでライムが激オコになった。
ここまで感情をあらわにしたこともなかったのだが、よほど楽しみにしていたのだろう。
大声で「はれて」と叫び続けていたら……
その声に呼応するかのように、雨雲は消え去った。
一回だけなら偶然でも済まされようが、その後もたびたびその現象は確認できた。
ただしここまでぶっ飛んだ力なので、乱発はできない。
スキル発動後は深い眠りに入る。力を使い果たしているのと、本人的には晴れたことで満足してしまうようだ。
それに普段から力を補充しているのか、ライムは一般の幼児よりもよく寝る。
「そういえば、クレイさんやティナさんたちは、ライムちゃん起こさないですもんね」
「必要な睡眠だからな。ライムが起きたいときに起きる。これが鉄則だ」
「ああ、それでライムちゃんて寝てばかりなんですね」
さて、悠長にライムが起きるのを待っている時間はない。
となれば―――
俺はポーチから一本のポーションを取り出して、瓶のフタをあける。
「ふぁ……いい匂い」
ラーナがふわっと広がる甘い果実の香りに、思わず目を細める。
覚醒効果のあるポーションだ。ただしライム特別仕様の甘くて味に重きを置いたもの。
ライムはこのポーションが大好きだ。
瓶をライムに近づけると、その小さくて可愛らしい鼻をヒクヒクさせてうっすらと目をあける。
彼女はポーションの存在に気付くと、自ら瓶を手に取りコクコクと飲み干した。
さて、第一段階は通過した。
ここからが勝負どころだ。
「……にいに」
ライムは俺に向かって両手を差し出してきた。
これはだっこじゃないな……フェイントだ。
小さな体を持ち上げて、肩車をする。
俺の肩に乗って、ニッコリ笑顔の小天使ちゃん。
やはり、こちらが最適解だったか。
ライムとの付き合いは彼女が生まれた時からだ。
フェイントとて、かぎ分けることができるぜ。
ライムがフンフン♪と、体を揺らしている。どうやら肩車が偉くご満悦な様子だ。
彼女の寝起き満足度は、スキル発動にとって重要なポイントだからな。
ちなみにライムは基本的に手のかかる子ではない。機嫌が揺れるのは、寝起きに関してだけだ。
おそらくは、寝ながら無意識に力を大量充填していた直後だから、覚醒後に体内バランスが崩れるのではないかと思う。
肩に乗る小天使から、鼻歌が聞こえてくる。
ふむ、これはいけそうだ。と踏んでいたら……ライムが予想外な事を口にした。
「にいに、おしえてくだたい」
「おお……どうしたライム?」
とっさに反応したものの、おれはライムの後ろにいるアイリアとティナに視線を向ける。
2人ともスッと首を振った。
てことは新パターンかよ。まさかの質問バージョンだ。
くっ……俺と離れてから数カ月だが、この年頃の子供の成長力は馬鹿にできない。
「えとねぇ……」
俺に回答できればいいんだが。
「アイリアねえちゃんとパパママになるの?」
「ならないぞ」
「なんで即答ですの……」ガーン
おお、楽勝の質問じゃないか。
アイリアが若干へこんだ声を出した気もするが、そんなことを気にしている場合ではない。
その後も続くパパママになるの(結婚するの)?質問が連発する。
ポーション屋敷メンツほぼ全員の名前が出たが、余裕で即答だ。
現場にいる女子からは、ガーンという効果音ぽい音がやたらと聞こえてくるが気にしないでおこう。
そして最後らしき質問がくる。
「じゃあやっぱり、らーなねえちゃんとパパママになるんだね」
「いや、ならないぞ」
「ええぇ……この流れでなんでぇ……真打登場からの~じゃないんですかぁ」
流れってなんだ。
ふぅ~~簡単な質問で助かったぜ。
まわりの女子テンションがダダ下がりな気もするが。
「じゃあ、にいにはふりーなんだね?」
「ふりー? ああ、結婚の予定は特にないな」
「ふふ、らーなねえちゃんともおやくそくない」
ライムの機嫌がすこぶる良い。
だが、おやくそくないはちょっと違うな。
「ライム、ラーナ姉ちゃんはいまとても困っているんだ」
「うん」
「だから俺は必ず助けてやると約束した」
「うんうん」
俺の肩から降りたライムは、あたりをキョロキョロと見回して空を見上げた。
「にいに、おそとくらい」
「ああ、ライム。これは魔法で暗くしている人がいるんだ」
「なんで?」
「ラーナお姉ちゃんを無理やり連れてこうとしているからだぞ」
「や!」
「そうだな、俺もそんなことはさせない。ライムも手伝ってくれるか?」
「あい!」
ライムが小さな手をおれに差し出してきた。
俺はポーチから一本のポーションを取り出す。
「―――【ポーション(声量増幅)】!」
声量を上げるポーションだ。
ライムのスキルは声に魔力をのせて放たれる。だから、声量が大きければ大きいほどその効果は高い。
「いけそうか? ライム」
『―――あい!!』
空気が振動して、ライムの声がフロンド中に響きわたる。
「ふぁ……ライムちゃん声おっきいぃいい」
ラーナやフロンドの住人たちが何事かと一斉にこちらを見る。
俺の作ったポーションなのだから当然だ。
「よし! ぶちかましてやれ!」
ニッコリと微笑んだ天使がその口を再び開く―――
『てんきにな~~れ!!』
「ええぇ……そんな感じなんだぁ……かわいいんですけど」
「たしかに天使の大声だ。が、上を見てみろラーナ」
「ええ! これって……クレイさん!」
空を覆っていた暗雲が、ゆっくりと裂け始めた。
ラーナがちっこいライムを両腕に抱いて戻って来た。
寝ているところを連れてきたので、まだそのかわいいまぶたは閉じられたままだ。
「ライムちゃん、昨日からずっと寝てますよ」
スゥスゥと寝息を立てるライムを覗き込む俺とティナ。
「ん……クレイおにい」
「そうだな、こりゃ熟睡モードだ」
天使のような寝顔のライムを見て確信する。
「無理に起こすと機嫌が良くない」
「ん……それさいあく」
「でもライムちゃんに起きてもらわないと、晴れ女?が発動できないんですよね?」
「そうだなラーナ。だが機嫌が悪いまま起きて能力を使うと、晴れるは晴れるんだが……激晴れになるんだよ」
「えっと……それは危ないんですか?」
ラーナが首を傾げた。
「激熱太陽が出てくる。なにもかも焼かれてしまうだろう」
「ん……全員焼肉」
「ええ……焼肉って。そんなのいやですよぉ~」
晴れ女、この世界でも前例のない力。
ライムのスキル能力が発覚したのは、ちょうど1年前の彼女が4歳の時だ。
お出かけイベントが予定されていた当日のこと、珍しく俺も参加者に加わっていたことが良かったのかライムは当日を楽しみにしていた。
ところが近年まれにみる超豪雨で、イベントは中止となってしまう。
ここでライムが激オコになった。
ここまで感情をあらわにしたこともなかったのだが、よほど楽しみにしていたのだろう。
大声で「はれて」と叫び続けていたら……
その声に呼応するかのように、雨雲は消え去った。
一回だけなら偶然でも済まされようが、その後もたびたびその現象は確認できた。
ただしここまでぶっ飛んだ力なので、乱発はできない。
スキル発動後は深い眠りに入る。力を使い果たしているのと、本人的には晴れたことで満足してしまうようだ。
それに普段から力を補充しているのか、ライムは一般の幼児よりもよく寝る。
「そういえば、クレイさんやティナさんたちは、ライムちゃん起こさないですもんね」
「必要な睡眠だからな。ライムが起きたいときに起きる。これが鉄則だ」
「ああ、それでライムちゃんて寝てばかりなんですね」
さて、悠長にライムが起きるのを待っている時間はない。
となれば―――
俺はポーチから一本のポーションを取り出して、瓶のフタをあける。
「ふぁ……いい匂い」
ラーナがふわっと広がる甘い果実の香りに、思わず目を細める。
覚醒効果のあるポーションだ。ただしライム特別仕様の甘くて味に重きを置いたもの。
ライムはこのポーションが大好きだ。
瓶をライムに近づけると、その小さくて可愛らしい鼻をヒクヒクさせてうっすらと目をあける。
彼女はポーションの存在に気付くと、自ら瓶を手に取りコクコクと飲み干した。
さて、第一段階は通過した。
ここからが勝負どころだ。
「……にいに」
ライムは俺に向かって両手を差し出してきた。
これはだっこじゃないな……フェイントだ。
小さな体を持ち上げて、肩車をする。
俺の肩に乗って、ニッコリ笑顔の小天使ちゃん。
やはり、こちらが最適解だったか。
ライムとの付き合いは彼女が生まれた時からだ。
フェイントとて、かぎ分けることができるぜ。
ライムがフンフン♪と、体を揺らしている。どうやら肩車が偉くご満悦な様子だ。
彼女の寝起き満足度は、スキル発動にとって重要なポイントだからな。
ちなみにライムは基本的に手のかかる子ではない。機嫌が揺れるのは、寝起きに関してだけだ。
おそらくは、寝ながら無意識に力を大量充填していた直後だから、覚醒後に体内バランスが崩れるのではないかと思う。
肩に乗る小天使から、鼻歌が聞こえてくる。
ふむ、これはいけそうだ。と踏んでいたら……ライムが予想外な事を口にした。
「にいに、おしえてくだたい」
「おお……どうしたライム?」
とっさに反応したものの、おれはライムの後ろにいるアイリアとティナに視線を向ける。
2人ともスッと首を振った。
てことは新パターンかよ。まさかの質問バージョンだ。
くっ……俺と離れてから数カ月だが、この年頃の子供の成長力は馬鹿にできない。
「えとねぇ……」
俺に回答できればいいんだが。
「アイリアねえちゃんとパパママになるの?」
「ならないぞ」
「なんで即答ですの……」ガーン
おお、楽勝の質問じゃないか。
アイリアが若干へこんだ声を出した気もするが、そんなことを気にしている場合ではない。
その後も続くパパママになるの(結婚するの)?質問が連発する。
ポーション屋敷メンツほぼ全員の名前が出たが、余裕で即答だ。
現場にいる女子からは、ガーンという効果音ぽい音がやたらと聞こえてくるが気にしないでおこう。
そして最後らしき質問がくる。
「じゃあやっぱり、らーなねえちゃんとパパママになるんだね」
「いや、ならないぞ」
「ええぇ……この流れでなんでぇ……真打登場からの~じゃないんですかぁ」
流れってなんだ。
ふぅ~~簡単な質問で助かったぜ。
まわりの女子テンションがダダ下がりな気もするが。
「じゃあ、にいにはふりーなんだね?」
「ふりー? ああ、結婚の予定は特にないな」
「ふふ、らーなねえちゃんともおやくそくない」
ライムの機嫌がすこぶる良い。
だが、おやくそくないはちょっと違うな。
「ライム、ラーナ姉ちゃんはいまとても困っているんだ」
「うん」
「だから俺は必ず助けてやると約束した」
「うんうん」
俺の肩から降りたライムは、あたりをキョロキョロと見回して空を見上げた。
「にいに、おそとくらい」
「ああ、ライム。これは魔法で暗くしている人がいるんだ」
「なんで?」
「ラーナお姉ちゃんを無理やり連れてこうとしているからだぞ」
「や!」
「そうだな、俺もそんなことはさせない。ライムも手伝ってくれるか?」
「あい!」
ライムが小さな手をおれに差し出してきた。
俺はポーチから一本のポーションを取り出す。
「―――【ポーション(声量増幅)】!」
声量を上げるポーションだ。
ライムのスキルは声に魔力をのせて放たれる。だから、声量が大きければ大きいほどその効果は高い。
「いけそうか? ライム」
『―――あい!!』
空気が振動して、ライムの声がフロンド中に響きわたる。
「ふぁ……ライムちゃん声おっきいぃいい」
ラーナやフロンドの住人たちが何事かと一斉にこちらを見る。
俺の作ったポーションなのだから当然だ。
「よし! ぶちかましてやれ!」
ニッコリと微笑んだ天使がその口を再び開く―――
『てんきにな~~れ!!』
「ええぇ……そんな感じなんだぁ……かわいいんですけど」
「たしかに天使の大声だ。が、上を見てみろラーナ」
「ええ! これって……クレイさん!」
空を覆っていた暗雲が、ゆっくりと裂け始めた。

