晴れ渡る空から陽が入る、ポーション屋敷のリビング。
 今日はポーション店舗の休日である。

 「おお、これは素晴らしいぞ!」
 「キャンキャン!」
 「ムフフ、フェルもわかるか。この素材の素晴らしさが」

 小さなモフモフの頭を撫でながら素材を愛でる、至福の時間だ。

 俺はリビングにて、王女たちが持ってきてくれた素材を整理している。
 王城から脱出する際に、俺のラボからいくつか拝借してくれたとのこと。

 追放された時は急だったから、ラボには寄れなかった。

 これは嬉しい誤算だ。

 俺が一人ニマニマしていると、女子たちのキャッキャウフフな声が聞こえてくる。

 「わぁ~~すごいですぅ~~」
 「綺麗ですね~~」
 「このデザインかわいいです!」

 どうやら、王城から持って来たドレスや宝石類を整理しているようだ。
 メイドのリアナが言うには、とにかく馬車に詰め込められるだけの荷物を持ってきたそうな。

 「ふふ、ラーナも着てみます?」
 「ええっ、いいの? アイリア」
 「もちろんですわ。遠慮は不要でしてよ。ユリカたちもよろしければお試しあれ」

 「やった~~どれにしようかなぁ~~」
 「いいんですか! 凄い、ええぇ迷っちゃいますね」

 どうやら今からドレスの試着大会がはじまるようだな。
 ちなみに先住組も押しかけ王女組も、フランクな話し方に変わっている。アイリアが王女としての扱いはいらないと、みんなにお願いしたそうだ。

 ま、先も後も些細なことだ。
 彼女たちも王族としてではなく、一般人として生きていくのだから。

 あとはやりたいことを見つけて、好きなことをしてくれればそれでいい。


 いいんだが―――


 「ちょっと待ちなさい。君たち」

 「どうしたんですか、クレイさん?」

 どうしたんですか、じゃないよ。

 「なぜここで脱ぐ?」

 「だって、ここにドレスがあるからですよ」

 なんだその、ここに山があるから登るみたいな答えは。

 「俺は男なんだぞ。ちゃんと別部屋で着替えてくれ」

 「「「「「は~~い……」」」」」

 若干不満気な顔をしながらも、ゾロゾロとリビングを出ていく美少女たち。

 この子たちに恥じらいというものはないのだろうか。
 毎日同じベッドで寝ているので、もはやいまさら感は無きにしもあらずだが、最低限寝間着はきているし、男女のアレコレはしていないからな。
 ここはポーション屋敷であって、ハレンチ屋敷ではない。

 「ふぅ……さてと。素材整理を再開するか」
 「キャンキャン!」
 「よしよし」

 フェルを撫でてやる。はじめは俺の事を警戒していたようだが、今ではこの通りの懐きぶりだ。

 「あ、そうだ! 今日も生えているかなぁ~~♪ むふふ♪」
 「キャ、キャン!?」

 俺の声を聞いた瞬間、ビクっと体を震わし喜びの声をあげるフェル。そうかそうかフェルもお楽しみなのかぁ~
 ずいぶんとフェル語も分かるようになってきたぞ。

 「さあ~~きれいきれいしてあげるからなぁ~」

 後ずさるフェル。子供が遠慮するんじゃないよ。
 喜びでバタつくフェルをガシっと抱き上げて、モフモフをじっくりとかきわける。

 ―――おお!

 モフモフの間から、にょきっとなんか出てるではないか。

 「でかした! 素材を生やしたか!」

 しかもスキンマッシュルームとは違うキノコじゃないか!
 これは……デトックスマッシュルームか。
 たしか体内の不純物を外に出す効果がある。いわゆる下剤みたいなもんだ。

 これは結構なレア素材だぞ。

 よく探すと何個か生えてるので、ブチブチと取ってやる。
 いやぁ~~ほんと凄いなぁフェルは。

 俺がフェルとキャンキャン戯れていると、リビングのドアがバタンと開いた。

 「ああぁ~~クレイさん、またフェルちゃんのブチってむしってるぅ! もっと優しくですよぉ」
 「すまんすまん、新種が生えてたんでついな」
 「クゥ~~ン」

 しまった。興奮しすぎたのか少し乱暴に取ってしまったようだ。

 「悪かったよ、フェル。これでも飲んで機嫌をなおしてくれ」

 ポーチから【ポーション(静寂の吐息)(リラックスブレス)】を出すと、フェルは尻尾を振ってペロペロと飲み始めた。

 うむ、可愛いやつだ。

 「ところでどうですかクレイさん。ほらぁ~~」

 ラーナがドレス姿でくるりと回ってみせる。

 「お、着替えてきたのか」
 「そうですよぉ~ふふ~~♪」

 ご機嫌じゃないか。

 ラーナに続いて、ユリカにリタもドレスを着用して登場して来た。
 さらに後ろには、エトラシアも。なんか「わ、ワタシはいんだ……ううぅ……」とか言っているが似合っている。

 「素晴らしいな」
 「やた! クレイさんに褒められた」

 「いいよ、これはいい」
 「このドレス、けっこう胸元があいてて、着こなせるか不安だったんだけど良かったぁ~」

 「くぅ~~たまらんな」
 「ええっ! クレイさんがついに女の子に目覚めた!?」

 「この形。このつや。かなりの上等品だぞ」

 「……クレイさん、どこ見て言ってます?」

 「え? キノコだけど。見てくれよラーナ、これ新種だぞ!」

 「はぁ……」
 「ダメだよラーナ。そんなすぐには変わらないよ。人って」
 「そうです! ご主人様はそれでいいです!」
 「わ、ワタシのドレスは見なくていいぞ……!」

 いや、ドレス姿はちゃんと見たぞ。みんなかわいい。
 それはもう終わって、今は素材の時間なんだが?

 そこへアイリアたちもリビングに入って来た。

 「ふふふ、やはりお兄様は一筋縄ではいきませんわね」
 「ん……クレイおにい通常運転」
 「……スゥスゥスゥ」

 妹たちからも何やら言われているが、まあ気にしない。
 ちなみにライムは入って来るなり俺の腕の中に入って、即熟睡タイム。

 「ライムちゃんて、本当によく寝ますねぇ~」

 ラーナがライムの寝顔を覗き込みながら言う

 「ああ、この子はちょっと特殊だからな」
 「え? ちっちゃい子だから良く寝るとかじゃなくて?」
 「ああ……この子はな」

 俺が話を続けようとした時、ドンドンと玄関の扉を叩く音が響いた。

 「なんだ? 客かな? 今日は休みんだがな」

 メイドのリアナが様子を見に行くと、すぐに戻って来た。
 うしろにおっさんの影がついてきている。なんかハァハァと肩で息をしているようだが。

 「マットイさんか? ポーションでも切らしたのか?」

 「く、く、クレイ殿……い、一大事ですぞ!」
 「どうしたんだ、そんなに焦って?」

 乱れた呼吸を整えつつ、話を続けるマットイさん。

 「て、敵が……フロンドを取り囲んでますぞ!」

 え? なにそれ?

 「敵ってなんだ? まさか兄貴じゃないだろうな……」
 「違いますクレイ様。さきほど外を確認しましたが、遠方に見えたあの旗は神聖国のものかと。おそらくは教会騎士団です」

 リアナが説明を付け加えた。

 にしても、神聖国だと……?

 「ふぇ……く、クレイさん……」

 てことは、ラーナ絡みってことか。