「ざけんなよぉおおおお! このカード作った奴ぅ誰だぁ!!」

 アイリアの身体から黄金色の光が漏れ出す。

 「ふぇえ! お、王女さま??」
 「く、クレイ殿! アイリア様の様子がおかしいぞ!」

 うわぁ……来て早々かよ。

 「キレた……」
 「ん……もう止められない」

 「く、クレイ殿、ティナ様、キレたとはどういう……!?」

 「エトラシア、説明はあとだ! なんとしてもアイリアを押さえ込むんだ」

 俺はポーチから戦闘ポーションを取り出して、一気に飲み干した。

 「兄貴がこんなクソザコ設定なわけがぁ、ないだろうがぁあああ!」

 片手でバンっと叩いたダイニングテーブルが、ビキッという音を立てて真っ二つに割れる。

 「あ、あんな細い腕で……簡単にテーブルを……」

 「アイリアは直魔力で身体強化ができるんだ!」

 しかもアイリアの特異体質により魔法詠唱などは不要。身体をめぐる魔力を直に身体強化へと変換することができる。
 もうぶっちゃけチートだ。

 「そ、そんな無茶苦茶な……」
 「今のアイリアに力の加減はできん! 押さえ込めなければ、この屋敷は崩壊するぞ!」
 「ほ、崩壊……!」  


 だが――――――解決策はある!


 戦闘ポーションをクッと飲んだ俺は、瞬時にアイリアの間合いに入り彼女に肉薄した。

 「アイリア、落ち着け! いつものをやる!」
 「うがらぁアアア!」

 ダメだ、目の焦点が合っていない。完全に我を忘れている。

 そこへエトラシアが、背後からアイリアにしがみついた。

 「アイリア様―――ご無礼!」

 「ナイスだ、エトラシア!」
 「うくっ……と、とんでもない力だクレイ殿。この華奢な身体のどこに!?」

 「―――うらァアアア!」
 「ぐっあ……く……」

 あの馬鹿力なエトラシアが、オークに体当たりでひるませることが出来るエトラシアが、ブンブン振り回されている。

 やはり魔力強化されたアイリアの力はとんでもないな。身体から溢れる光は彼女の魔力だ。
 これで相棒のスピアを持たせたら、手が付けられない。今は手元に無いようだが。

 戦闘ポーションで身体強化した俺も、正面からアイリアの両手を掴んで押さえ込むのが精一杯だ。

 握り合った手のひらに押し負けないよう踏ん張る。それはアイリアも同じで、床がギシギシと悲鳴をあげる。

 ぐっ……床に亀裂が入りはじめた……。

 いかん、このままだと床が抜けてしまう。

 「エトラシア、なんとかアイリアの左手を抑え込んでくれ。今こそ日々の鍛錬の成果を見せる時だ!」
 「ああ、わかった。クレイ殿!」

 はじめは面食らって動きが鈍かったエトラシアだが、身体が状況を飲み込んだようだ。
 アイリアの左手をなんとか押さえ込むことに成功する。

 よし、俺の右手が自由になった。
 ポーチに手を突っ込んで。


 「お兄様を馬鹿にしやがってぇええええ!――――――んぐゅ!!」


 ポーションをアイリアの口に突っ込んだ。

 「ふぬぅうう……ゴクゴクっ……?……??」

 じょじょにアイリアの身体から光が消えていく。

 「ふはぁ~ゴクゴクゴクぅ~~」

 一心不乱にポーションを飲み干した。

 「はぁ~~お兄様のポーション。久しぶりですわ~~」

 ケロリとした声をだすアイリア。

 あまりの急変振りに、ラーナたちは理解が追い付いていない様子だ。

 「えっと……クレイさん、今のは??」
 「ああ、アイリアは俺の事をけなされたと認識すると、見境が無くなるんだよ」
 「ああ……だからあんなに怒ってたんですね」

 昔は終始お淑やかな子だったんだが。

 アイリアは生まれつき魔力量が多い子だった。だが、何故か魔法が使えなかった。それこそありとあらゆる魔法の先生が試したのだが、ダメだった。
 俺はそもそも魔力ゼロだし、魔法使ったことがないのでその難易度はわからないが。

 ある日彼女の体内魔力が溜まりすぎて、原因不明の病にかかってしまう。
 どの医者も匙を投げる中、俺が作ったポーションがアイリアを救った。

 体内の魔力を減らすポーションを作ったのだ。

 魔法で体内の魔力を消化できない以上、なにかしらの方法で減らすしかない。
 これにより、一時的に魔力が溜まりすぎるのを抑制することに成功した。体調も戻り、元気になって良かった良かったのはずだったんだが。
 アイリアは、自身に溜まった魔力を直に放出するようになってしまった。副作用なのか、身体の防衛本能がそうしているのか良く分からんが。
 その放出された魔力が、自動身体強化というチート能力へとつながったのだ。

 そして俺に懐くようになり、俺の事に関しては容赦なく怒るようになった。もちろん冗談程度なら怒らないのだが。

 ちなみにさっきアイリアに飲ませたのも、魔力量を減らすポーション、
 【ポーション(体内魔力減少)(アイリアマジックダウン)】だ。

 アイリアはキレるとただでさえ多い魔力が爆発的に増える。こうなると身体強化の制御が出来なくなり、さっきみたいな暴走になってしまう。

 なので、一時的に魔力を抜くのだ。

 そうすると、正気に戻る。

 「ん……アイリアねえは、おにいが追放された時ヤバかった」

 ああ、かもしれんな。
 最終的な追放決定は彼女たちがいないところで行われたし、事後報告にキレたんだろう。

 とまあ、ある程度の事情をラーナたちに話した。

 「そっか、私もクレイさんに万年魔力不足をなおしてもらいました」

 ラーナはアイリアの手を取る。

 「アイリアさまも私と一緒なんだ……」
 「お兄様はわたくしのヒーローですわ。少し変わってますけど」
 「ふふっ、そうですよね」

 ラーナたちと王女たちから、柔らかい笑みが漏れた。

 双方分かり合えたのか、連帯感的なものがでてきたようだ。

 「いいですわね、お兄様」
 「いいですよね? クレイさん」

 「ああ、別にかまわん。部屋は余りまくってるしな」

 ということで、住人が4人増えた。

 「では、正妻問題はおいおい解決していきましょう」
 「そうですね♪」

 いや、そもそもそれは問題とかじゃないだろ。

 俺が口を挟もうとした瞬間―――ぐあぁっ! きた!!
 戦闘ポーション使用後のお決まりのアレがきてしまう。

 悶絶タイムだ。

 「まあまあ、いつものお兄様ですわ!」
 「あ、やっぱりこれはお決まりなんだ」
 「そうでしてよ? あら、ラーナさんたちは動かないのですか?」
 「え? 動く? ってアイリアさま、なにしてんですか~~!!」

 あ、忘れてた。アイリアのクセを……

 「は~~い。いたいのいたいの飛んでけ~~ですわ♪」

 その華奢な身体からは想像できない2つの巨峰が、俺の顔面を挟んでくる。

 「ムグゥ……」

 くぁ……身動きとれん……

 「こうすれば、鈍感お兄様も多少は欲情して堕ちるかもしれないですわ♪」

 「ああ! なるほどぉ!」

 なるほど、じゃないんだよ。

 あ、こら。ラーナまでやめろ!

 ぐあぁ……両方から来たから……息ができん……

 「わあ、ご主人様泡吹いているです」


 俺は別な意味で落とされた……



 ◇◇◇



 とりあえず疲れ切ったので、さっさと寝ることにした俺たち。

 3人の王女と1人の侍女リアナには各部屋を割り振った。
 何度も言うが、この屋敷で部屋は余りまくっている。

 「まあ! なんですかお兄様! 興味ないとかいいながら、ハーレムプレイなんかして! わたくしも入りますわ!」

 第8王女のアイリアが、俺の部屋に入って来た。
 だから部屋は余ってんだけど。

 「ん……ティナも」

 第9王女のティナもか……

 そして第10王女のライムはすでにフェルに抱き着いて、かわいい寝音を立てている。

 さらに……

 「おい、リアナ……なんでここにいる? 自分の部屋があるだろ」
 「クレイ殿下、わたしは王女殿下の侍女兼護衛です。離れるなどあり得ないのです」

 で? なぜ毛布の中に入ってくる? しかもメイドの衣装で。しわになるぞ。

 ふぅ……また増えるのかよ……

 「リタ、もう一部屋つなげてベッドをさらに大きくしよう」

 「ハイですご主人様! いっぱいで楽しいです!」

 ということで俺の部屋の住人も4人増えた。

 もう部屋数多い意味ないじゃん。

 ずっと1LDK状態だよ……。