ポーション屋敷のリビングでは、女子たちがあーだこーだと話し合いを重ねていた。

 大きなダイニングテーブルを挟んで、一方はラーナ、リタ、ユリカに気絶から回復したエトラシアが横に並ぶ。
 つまりポーション屋敷の先住人たちだ。

 そして反対側に、アイリア、ティナとライムの3王女。そして同行してきた侍女のリアナ。

 俺がよく分からないままに始まった話し合い。
 「これは初めにハッキリさせる必要があります」と、ラーナが鋭い眼光を放っていたが。

 なんだろうか? 部屋割り決めでもするのか? 屋敷の部屋は余りまくってるが、角部屋が良いとかこだわりがあるのかもな。もしくはゴミ捨て当番の順番を決めるのかもしれん。

 ちなみに俺はなにをしているのかというと……
 リビングの中央に、ポツンと座らされていた。

 良く分からんが、女子同士の話し合いを邪魔してはいけないらしい。

 そして女子たちの話し合いは佳境を迎えていた。

 ……たぶん。

 「では、わたくしがお兄様の正妻としての甘々スタートでよろしいですわね」
 「ん……同棲生活かいし」
 「スゥスゥスゥ……」

 アイリアをはじめとした王女たちが、これで会議は終りねといった顔をする。
 ライムにいたっては、すでに寝息を立てていた。

 ふぅ、ようやく終わったか。俺が立ち上がろうとしたところ……


 「ちょっと待ったぁあああ!」


 対面に座っていた聖女ラーナが、椅子をガタンと鳴らして立ち上がる。

 「一緒に住むと言うのはわかりました。王女さまたちの事情も聞きましたし、ここいるみんなもなにかしらの事情があります」

 ふむ。同居は確定事項らしい。

 まあ、彼女たちには認識阻害のイヤリングもあるし、フロンドの住人もそこまで混乱はしないだろう。
 俺としても妹たちが住みたいのなら、それでいいんだが。

 ラーナは別の点に懸念事項があるようだ。

 「ですがぁ……
 ――――――正妻という言葉、王女さまといえど黙認はできません!」

 「あら、ごめんなさいまし。わたくしもそちらの事情は把握できてませんの」

 たしかにそうだな。そもそも俺は誰とも結婚しとらんし。この屋敷は各々が自由気ままに過ごす場所であって、なにかに縛られる場所じゃない。
 ここはガツンとポーション屋敷がどういう場所か教えてやれ、ラーナ。

 「いえ、来たばかりですからしょうがないことです。クレイさんの正妻は、私ラーナなのです。なのでアイリアさまがどうしてもと言う場合は、側室ということになります」


 はい?


 ことになりますじゃないだろ! なに言ってんのこの聖女?

 「まあそうでしたのね……お兄様ったら」

 いやいやいや、違うからな!

 「さらに加えて言うなら、側室枠もリタちゃん、ユリカちゃんとすでに2人が埋まっています」

 うんうんと頷く、リタとユリカ。
 それも初耳なんだが……

 正妻、側室という問題ではなく、俺は誰とも結婚してないんだけど。

 「ちょっと待ってくれラーナ殿! ワタシが入っていないんだが!?」

 そこへ意味不明なテンションで割り込んでくるエトラシア。

 「あ、エトラシアさんもですね。うっかりでした」
 「い、いや……ワタシは別に希望しているわけではなく、そのなんだ……なんか仲間外れ感が気になっただけというか……決してクレイ殿とどうこうなりたいとかでなくて……モジモジ」

 「ちょっとめんどくさいです。エトラシアさんは、いったん側室枠から外します」
 「ひどいっ! いつものラーナ殿じゃない!!」

 バッサリと切り捨てられた女騎士。

 にしてもさすがにこれは良く分からんぞ。
 俺の正妻とか側室とかはそもそも存在しない。ここだけはハッキリしとかんとな。

 間違いは正さねばならん。
 俺は、静かに右手をあげた。

 「なんですかクレイさん? お口チャックですよ」
 「お兄様は本件での発言は、許可されていませんわ」

 ええぇ……無茶苦茶やん、この聖女と王女。

 「ラーナさん、あなたのいう正妻と言うのは、お兄様とすでに事を成しえた後。という認識でよろしいのかしら」

 「いえアイリアさま。残念ながら事は成されていません。アイリアさまもご存じの通り、クレイさんですから」
 「ふふ、そうですわね。お兄様ですわね」

 むぅ……俺だった男なんだぞ。自重しているんだからな。

 「なので正妻・側室の設定は女子側でつけてるんです。クレイさん抜きで」

 そこ抜いたらダメだろ……

 にしてもそんな設定があったのか?
 ち~っとも知らんかったけど。

 「ら、ラーナ殿! ワタシはその設定とやら、知らないんだが!?」

 あ、知らん奴もう一人いた。

 「ということは、正妻はなったもの勝ちということにもなりますわね?」
 「そ、それはダメです! アイリアさまはそもそも、クレイさんと家族じゃないですか!」
 「ふふ、母親も違いますし。もとよりそんなこと、愛にとっては些細なことでしてよ」
 「そうかもしれないけど……王女さまの美貌とそのスタイルは反則ですぅ……あと私と同等の2つもぉ」

 「まあまあ、ラーナさんは鏡を見たことがありませんの?」

 アイリアの問いかけに首を傾げるラーナ。

 「あなた、とんでもない美少女でしてよ。ライバルとして敵に不足なしですわ」

 「ふぇえ!? 私が……? 王女さまと……!!?」

 急にアワアワし始めるラーナの様子を見たアイリアが、俺の方にため息交じりの視線を向けてくる。

 「まったくお兄様は……変わりませんわね」

 まあ、追放されても変わらずポーション作りまくってるけどな。

 「ちゃんとラーナさんを褒めてあげてますの?」

 「もちろんだ。ラーナの聖水にはとても助けられている。あれは最高の素材だ。半永久的にレア素材がでるとか、足むけて寝られないぞ」

 おっと、思わず発言してしまった。まあいいか、事実だし。

 だが、アイリアとラーナは同じように落胆のため息を「ふぅ……」とつく。

 初対面なのに息が合ってるな、この2人。

 「ふむふむ、なんとなく事情は察しましたわ、ラーナさん。正妻の件は現状結論はでないですわね」
 「ううぅ……そうですね。アイリアさま」
 「ぽっと出のわたくしたちに押しかけられて、戸惑う気持ちもわかりますわ」
 「そうですよぉ~~押しかけ女房はズルいですぅ」
 「うふふ、そこは生活しながら最善策を探しましょう。もう全員でなってしまってもいいかもしれませんし」

 なるってなんだ?
 相変わらず女子たちの会話は難解だな。

 「よし、そろそろ話はまとまったようだな?」

 もう1時間以上も話たし。
 ライムは完全に寝息を立てている。
 お開きにしようと、俺は立ち上がった。

 「あら? それはお兄様のカードでして?」

 アイリアが、テーブルの隅に積まれていたカードの一枚を指さした。
 そういえばカードバトル中に、妹たちが押しかけて来たんだっけな。

 「はい! そうですよ~~私のクレイさんカードです」

 ラーナがにこやかにカードをアイリアに手渡した。

 まてよ……あのカードって。


 ――――――しまった!!


 「ラーナ! アイリアからカードを奪うんだ!」
 「ふぇ? 奪うって……? なんで??」

 「ん……クレイおにい、もう手遅れ」

 ティナがボソッと声を漏らした。


 「ああっ? なんだァアこれはァア? 数値ゼロ、デバフ効果? 最低ランクカードだとぉ!」

 アイリアの身体から黄金色の光りが漏れ始める。
 目視できるほどの強力な魔力だ。


 「あんだこのカードはぁあああ! お兄様を舐めてんのかぁ、ごらァアアアア!!」


 「え……く、クレイさんこれなに? アイリアさま、なんか口調がへんですよぉ~」

 そりゃそうだ、アイリアは完全にブチ切れてるんだから。

 俺はポーチから戦闘ポーションを取り出した。