夕食後のゆったりとした時間が流れるはずのリビング。
 だが突然の来訪者によって、そんな時は跡形もなく崩れ去った。

 王国の王女3人を目の前にして、ラーナとユリカがパニックを起こす。

 「ふあぁ……ふあ、ふあぁ。カードの人ぉ、かーどのひとぉ、ひとぅ……うむぅ」

 それ以降は言葉にならずにパクパクしはじめる聖女。

 よし、ちょっと落ち着け。
 過呼吸に加えて、語彙力が著しく低下しているぞ。

 「え、えっと。これはカードゲームをやりすぎたからですね。ダメだ。もっとしっかりしないと。ちゃんと現実に戻らないと」

 自分の目を引きちぎれんばかりにゴシゴシ擦りまくるユリカ。
 やめろ、普通に目に悪いだけだから。

 「ご主人様、お風呂の改修終わったです。あれ? ラーナの持っているカードの人たちです!!」

 リタも出てくるなり衝撃を受ける。みんなカードから出たと騒ぎ始める。
 まあ、そうなるわな。

 そして最後は―――

 バタンと扉が開いた。

 「クレイ殿、帰ったぞ。って。来客か。ん……あれ? どこかで見たような……??」
 「キャンキャン!」

 「ああっっっあああ!!」

 さすが元貴族令嬢だ……カード情報がなくても理解したらしい。
 いきなり目が点になる女騎士。

 「こ、こ、こ、これは! えとえとえと……王女さまと王女さまに王女さまと……う~~ん」

 女騎士はその場でビターンと卒倒した。


 「あらあら、みなさんいかがしまして?」
 「ん……なんか泡ふいている。たぶん夕食で変なもの食べた」
 「スゥスゥスゥ……んん? にいに?」

 「いががした? は、こっちのセリフだ」

 俺は改めて突如として乱入して来た3人の美少女に視線を向けた。

 彼女たちの視線も俺の方を向く。懐かしい顔が3つ。
 次の瞬間―――

 「お兄様ぁあああああ!」
 「ん……クレイおにい……んん!」
 「にいに~~」

 3人から熱烈なタックル……じゃない抱擁を受けた。

 「ぐあっ……」

 「なんですのお兄様? それが久しぶりに再会したお言葉でして?」
 「ぐはぁ……」
 「ん……クレイおにいも泡ふいている。なに食べた?」
 「ぐにぃ……」
 「グスン……にいにうごかない」
 「ぐほぉ……」

 「ふぁ! あれ私なにして……って! クレイさん死んじゃう!」

 パニックから正気に戻ったラーナが、妹たちの間に割って入る。

 「ちょっとみなさん、いったん離れてくださ~~い!」

 ラーナの乱入により、なんとか抱きしめ地獄から脱出することが出来た俺。

 ほそ腕姫3人の抱擁などたいしたこと無いと思ったら、大間違いだ。
 1人別格のやつがいるからな。

 まあそれはとりあえず置いとくとして。

 「いろいろ聞きたいことはあるが、まずは紹介だな」

 俺の妹たちに、ラーナ、ユリカ、リタ、そしてびーたんと伸びているエトラシアを紹介する。

 そして妹たちも順に挨拶をはじめた。


 「みなさんご機嫌麗しく、第8王女、アイリア・ロイ・グレイトスですわ」


 長身美形の18歳が綺麗なカーテシーを披露する。
 王族としての所作と風格を漂わせるアイリアは「美少女」というよりは、洗練された大人の魅力が溢れている美人さんだ。長身の体は優雅で、黄金の髪が揺れるたびに、まるで光そのものをまとっているかのように輝く。
 そして―――その胸元は、見る者の視線を無意識に奪うほどの存在感を誇っていた。

 「ふふ、よろしくお願いしますわ」

 長身ながらも、引き締まった細いシルエットに似合わぬ膨らみをブルンとさせるアイリア。

 「むむむ……私と同じなうえに張りの良いシルエットが凄すぎるぅ」
 「はぅ……ラーナ級の名山ですね」
 「リタは足元にもおよばないです……」

 ラーナ、ユリカ、リタの3人が人類未踏の大麗山に、驚きの声を漏らす。

 また大きくなったのか……ラーナの巨峰といい勝負だぞ。

 そして次は……


 「ん……ティナ。よろ」


 みじか……

 第9王女の、ティナ・ロイ・グレイトス(15歳)だ。

 小柄な体に黄金色の短髪。どこかぼんやりとした瞳は、まるで夢の中を彷徨っているな無防備な雰囲気が漂っている。その美しさの元は華やかというよりも、あどけなさといった感じだ。
 だが、そのどこか浮世離れした雰囲気が、彼女をただの美少女ではなく不思議な魅力を持つ存在にしていた。

 ちなみに胸元の方は……うん。まったく成長してない。
 安定の平地だ。山脈と言うか丘もない。

 「ふふぅ~かわいい」
 「これならわたしの方が」
 「リタと同じです。親近感がわくです」

 うちの3美少女たちが、ちょっとした勝利宣言をもらす。

 だが、ティナはそんなことには一向にお構いなく、俺の方に小さなあたまをぬっと向けてきた。

 「ティナは相変わらずだな」
 「ん……」

 とりあえず撫でてやる。

 「ん……クレイおにいのにおい」

 ご満悦で目を細めるティナ。変わらんなこの子は。
 王女でありながら、どこかマイペースなんだよな。そう言えば城の侍女たちは、俺に似ているとか噂してたっけか。

 さて、最後は……


 「らいむ・ろい・ぐれいとす。ごさいでしゅ」


 寝起きだからか、小さなあくびを一つしたライム(5歳)。黄金の髪は寝癖でわずかにふくらみ、ぼんやりとした表情のまま、目をしぱしぱと瞬かせる。
 そのちっこい体と相まって、まるで抱きしめたくなるような愛らしさを放っていた。

 「やっぱかわいいな、ライムは」

 「やん、食べちゃいたい~~」
 「あら、とっても可愛らしいですね」
 「妖精さんみたいです」

 ラーナたちもそのちっこかわいさに、目元が緩んでいる。

 俺の前でクッとかかとを上げて、ちいさな両手でばんざいするライム。
 だっこか……まあ拒む理由なし。

 その小さな体を抱き上げて、少しゆすってやる。

 「えへへ~あたかい♪」

 数カ月前までよく抱っこしてたけど、久々にほっこりする。

 が、再会を喜ぶのもここまでだ。

 「さて、これで自己紹介もすんだし、みんな落ち着いたな」

 女騎士1名がいぜん気を失っているが、まあ命に別状はないので放置でいいだろう。

 では本題に入るか。
 肝心な事を聞いていないからな。

 「なんでこんなところに来たんだ?」