「あ、やった。王様カード引いたよ。ほら~~全取り~」
 「むぐぐぅ……」

 ここはポーション屋敷のリビング。
 今日も1日が無事に終わり、みんな夕食後のひとときをゆったりと過ごしている。

 エトラシアは自身の鍛錬ついでに、フェルを連れて夜のジョギングお散歩。
 リタはお風呂いじり。なんか新しい機能を追加したいとか。

 俺は、ゆったりとソファーに腰かけてコーヒーを楽しんでいる。
 この異世界においては紅茶が主流なのだが、王族時代に僅かながらもコーヒーがあることを知り、手に入れたのだ。

 いま飲んでいるのは、当時のストックである。女神からもらったポーチにできる限り詰め込んできたからな。

 で、残りの2人であるラーナとユリカだが。

 「フフッ、もう手が無いようね。ラーナ」
 「むぐぐぅ……」

 俺の眼前で、熱いカードバトルを繰り広げていた。
 カードは、ラーナたちがハマっているお菓子のおまけである。

 どうやらラーナはこのターンで決めないと、負けてしまうようだ。

 「あ、騎士団長を引いたよ。これは決まっちゃったかな~~はい、ラーナの番」
 「むぐぐぅ……」

 この聖女、さっきから「むぐぐぅ」しか言ってないな。

 ユリカが出したカードは相当強いのか、ラーナの眉間にしわが寄る。

 そんなラーナが、テーブルの上に詰まれたカードの束に手を伸ばした。


 「ここで聖女の引きをみせてあげますぅう!! フンスっ!!」


 ユリカに見られないよう、引いたカードを僅かに浮かして中身を確認するラーナ。
 とたんに聖女の口角がこれでもかと言う程つり上がった。

 なんだろう? いいカードでも引いたか。

 「ふっふ~~、勝負です。ユリカちゃん」

 自信満々のラーナからめくられたカードは―――


 「クレイさんカードですっ!」


 俺かよ……

 「は~い。じゃあわたしの勝ちね~~」

 そして一瞬で勝敗は決した。

 「な、なんで……クレイさんなのにぃい……」

 ラーナの手から、手持ちのカードがバラバラとこぼれ落ちた。

 その落ちたカード数枚を手に取って、やれやれとため息をつくユリカ。

 「なんで王女様カードを出さなかったの? 3枚も持ってるじゃない」
 「だってぇ~~せっかく当てたクレイさんを世に出してあげたいからぁ~」
 「気持ちはわかるけど、クレイ様のカードじゃ……」
 「いいもん、いいもん! 数値全ゼロのオール能力ダウンデバフ効果自動発動なクソザコ能力なんて関係ないもん!」

 なんか俺、カード越しにディスられてないか。

 しかしアレだな。
 自分のカードを手に取り、改めて思う。

 「すげぇ数値だな俺のカード……」

 マジで全数値が0じゃないか。
 このカードを引いて、うちの聖女はなぜ口角が上がったんだ。


 「ううぅ……そんなの嘘ですぅ……本当のクレイさんは、もっと凄いのにぃい」


 ラーナにとって俺カードは、ゲームの範疇を超えて思い入れのあるカードとなっているようだ。
 まあ、当てたい一心が実ってゲットしたカードだからな。

 「うふ、まあクレイ様のカードを崇める気持ちはわたしも一緒ですけどね」
 「ふぇ……そ、そうだよねユリカちゃん」
 「わたしも早くクレイ様、手に入れたいなぁ~~」
 「ふふ、そしたらクレイさん勝負ができますね」

 0数値のカード同士だと、永久に勝負がつかない気がするが……にしてもこの2人仲いいな。
 歳も近いし、フィーリングが合うのかもしれん。まあ中身おっさんの俺には、美少女の感性とかわからんけど。

 「わぁ~~王女さまカードいいなぁ~」
 「へへ~~3枚揃ってるからねぇ」

 ユリカが王女3人のカードを手にして、瞳をキラキラさせている。

 「クレイ様は王女様たちと実際にお話ししてたんですよね?」

 「ああ、そうだな。妹たちとはそこそこ仲が良かったからな」

 「ふぇ~クレイさんって、やっぱり凄いんだ……」

 「いや、まあ王城に半引き籠りだったからな。妹たちも俺のポーション作りを見に来たりする事が多かったんだよ」

 実際外に出るのは、素材取りの時ぐらいだからな。
 やはり欲しいレア素材は、自分の足で行かないとゲットできないのだ。

 「王女様たち、すごく綺麗で可愛いです。いいなぁ~~」
 「だよねぇ~~私もこのカード好きだなぁ~クレイさんの次に」

 確かにな。妹たちはさすが姫なだけあって、美しさと可愛さは王国随一だ。
 とくに俺に懐いていた彼女たちは。

 元気にやっているだろうか。

 少しばかり王族時代のことを思い出していると、屋敷に近づく気配が。

 ―――バタン

 玄関の扉が開く音だ。エトラシアとフェルが帰って来たな。

 いや……

 ――――――違う!

 気配は3人だ。

 客が間違えて入ってきたのだろうか。いや、さすがに遅すぎる。とうに閉店済だ。
 とすれば、また黒服たちか?
 しかし殺気はまったく感じないな……それにこの感じ……

 店舗であるエントランスから、足音がリビングに近づいてくる。
 俺はラーナとユリカに、リビングの入り口から下がるようにハンドサインを出す。そして、静かに剣の鞘に手をかけた。

 3人のうちの1人から声が聞こえてくる。

 「まあまあ、見張りの兵もいないなんて、不用心ですわ。呼び鈴もありませんし……」
 「ん……クレイおにいのにおい。こっちからする」

 おい……この声は……

 そしてリビングに現れた3人。

 「まあ、やっと見つけましたわぁ!」
 「ん……クレイおにいいた」
 「スゥスゥスゥ……」

 俺が固まっている傍で、ラーンとユリカが声をあげる。

 「ふぇえ!! か、カードのひとたち!?」
 「ち、違うよラーナ。えと、いや違わない……??」

 マジかよ……

 「「も、もしかしてこの人たち……」」

 ラーナとユリカの声がハモる。

 「そうだな、俺の妹たちだ」

 「「い、いもうとってことは……」

 「そうだな、王女たちだ」


 「「ええええぇえ~~本物きたぁああ!!」」


 再び2人の声が重なった。