「きましたよ! 決戦の地へ!」
 「あら、ラーナちゃん。今日は気合入ってるねぇ」
 「はい、今日は4つくださいな!」

 決戦の地(雑貨屋)のおばちゃんからお菓子を受け取ったラーナ。
 鼻息を荒くして、かなりの興奮状態である。

 4個か……普段は1個(ユリカの分も合わせれば2個)しか買わないようだから、彼女の決戦?への意気込みが伺える。

 「ラーナ殿が言ってたのは、このお菓子のことか。これ妹のユリカもよく食べてるな」
 「ああ、2人ともおまけのカードにはまっているようだ」

 「さあ~~引きますよ~~SSS級カード!」

 フンスと袋を破って手を突っ込む聖女。
 中から紙の包で隠されたカードを取り出した。

 緊張した面持ちで包をあけるラーナ。いや、俺もちょっとドキドキする。

 「わぁ~~王女さまですよぉ!!」

 ラーナが引いたのは、第8王女のアイリア(S級)だった。
 前回ひいた、第10王女のライムに引き続き、俺の妹だ。

 「へぇ、こういうカードが入っているのか。にしてもさすが王女さま。気品あふれる美しさだな」

 まあそうだな。王女だし、姫だし。でもアイリアの性格は……まあここではいいか。

 さらに次のカードも王女だった。
 第9王女のティナ(S級)。またしても俺の妹だ。

 「クレイさん、王女様2人ですよぉ~~前にゲットした王女様と合わせて~トリプルプリンセスアタックができますぅ」

 なんだそのロボットアニメからパクったような技名は。
 ラーナが言うには、カードバトルで使える強力な技らしい。

 にしてもいきなりS級カード2連続か。これは幸先がいいのではないか。

 「これはラッキーポーションの効果が、発動している可能性はかなりあるぞ」

 ラーナの細く綺麗な手が3つ目の菓子袋に入っていく。


 「さあ、いよいよ本番です! ラッキーポーションの力~~見せてあげますよ~~~!」


 慎重に包紙を少しずつ破いていくラーナの手が、ピタリと止まった。

 「クレイさん……」

 ラーナの顔が少しずつ俺の方に向く。

 「やたぁ~~SSS級カードですぅ!!」

 なにぃいいい!

 マジかよ……

 ラーナの持つカード右上からのぞくSSSのマーク。

 「おお、凄いじゃないかラーナ殿。やはりこれはクレイ殿のラッキーポーション効果なのか」

 「ふふふふふ~~そうですよぉお~~やた~やたぁ~~」

 「まあ、凄いわねラーナちゃん。S級だって滅多に出ないのに、SSS級なんてこの店で出たことがないわよ」

 だとすれば、ラーナの運は間違いなく爆上がりしていることになる。
 夢のラッキーポーション完成の瞬間だ。

 「クレイさんっ♪~クレイさんっ♪」

 包をすべて剥がす前から、キャッキャウフフする聖女。
 しきりに俺の名を連呼する。

 いや、そのSSS級カードは俺じゃないと思うぞ……というかたぶん俺のカードは存在しないだろう。
 と言いたいところだが、ラーナがあまりにも上機嫌すぎて水を差すのがためらわれた。

 興奮冷めやらぬラーナが、ルンルンで残りの包紙を剥がしていく。
 が、途中でその手はピタッと止まる。

 「ど、どうした?」

 見事なほどに完全停止した聖女ラーナ。綺麗な瞳からハイライトが消えた。
 デッサンのモチーフかよ……てぐらい止まっている。

 「へぇ~~これがすごいカードなのか。キラキラしているな」

 そこへあまり空気が読めていないエトラシアが、ラーナのカードを手に取りマジマジと見た。

 カードの全容が、俺の視界にもしっかりと入ってくる。

 お、おいこれ……


 「うわぁああんん~~~キモ王子ですぅううう!!」


 その場に膝をつき、泣き崩れる聖女。
 ラーナの言う通りで、カードは兄の第2王子カルビン。しかも金ぴかのゴールドカルビンだ。

 うわぁ……趣味わる……。
 これ間違いなくあの兄自らが指示して作らせたぽいぞ。

 「うぅうう~~この金クソ王子めぇえ! ぬか喜びさせないでよぉ!」

 金クソ王子って言われちゃってる。
 一応SSS級カードで、記載されているパラメーターはもはや上限突破の勢いだけどな。

 SSS級カードが金兄と分かって落胆するのかと思いきや、フンスと最後の袋をあけるラーナ。

 「諦めませんよ~~~不屈の聖女魂を見せてやりますから!」

 ふむ、ぶっちゃけラーナがSSS級カードを引いた時点で、ラッキーポーションの効果は間違いなく確定だ。
 だから、その後のことはもういいような気がするんだけど。

 彼女の熱意に、なんか俺も思わず頑張れよと言ってしまった。

 「うぅうう……最低カードでました……これ滅多に出ないらしいのに……」

 ラーナの手にあるのは、今までとは違う黒い包紙。
 それは、最弱の最低カードを示す色らしい。

 「あら、それもはじめて見たわねぇ。公式では発表されていないから、デマかと思ってたわ」

 雑貨屋のおばちゃんがそんなことを口にした。

 なんにせよ最低カードか。

 ラーナのラッキーポーション効果は、SSS級カードを引くことで使いはたしたのだろう。

 「まあそう落ち込むなよ、ラーナ。今日はいいカードも引けただろ」
 「そうですけどぉ……」
 「カード集めってのはそう簡単にコンプリートできるもんじゃない。ちょっとづつ揃っていくからこそ楽しみがあるんだ」

 ううぅ……と落胆しながらも、黒い包をあけるラーナ。
 その綺麗な小顔は、しおれた花のようにどんより曇っている。

 「……あれ?」

 ラーナの声質が変わった。

 「も、もしかしてこれ!?」

 なんかラーナの顔が、ぱぁ~ッと花咲くように色づいていく。


 「やたぁ~~~~! クレイさん当たったたぁあああ!!!」


 おい、あるのかよ……俺のカード。

 俺のカード、どうやら王族監修を受けずに制作会社がコソっと作成したっぽい。
 パラメーターはすべて最低数値で、文字通りの最低カードなんだが。

 にしてもこれは運が良かったのか? ラッキーポーションの効果なのか?

 「やた~~やりましたよぉクレイさん!」

 大喜びで飛びついてくるラーナ。

 まあおそらくだが……

 運が上がってたんだろうな。

 ラーナが当てたのは黒い最低カードだが、ラーナにとっては最高のカードだったのだから。