ラーナとの買い物から戻って来た俺は、さっそくポーション作りを開始する。

 運を上げるポーションか。
 当然ながら、そんなポーションはこの世に存在しない。

 魔法においても、運を上げる効果をもつ魔法などない。

 つまり効果の前例が全くないものを作り出すということだ。

 やべぇ……こりゃワクワクが止まらんぞ……

 てことで、まずは素材を集めてみた。

 ・体力回復草
 ・魔力回復草
 ・俺のポーション水
 ・ラーナの聖水

 これに、旅商人のラズアンからもらった―――

 ・ラックの実

 俺独自の推測になるが、このラックの実は血栓を溶かす効果がある素材とみている。とくに脳血栓の治療に。
 ただし、この異世界の医学においてはその詳細は解き明かされておらず、脳の病気に効く実といった認識である。
 そしてこの実は、異世界ならではの不思議能力を秘めている。

 血栓を溶かす以外の効果として、使用すると助かる率が上昇するらしいのだ。
 そう、分かりやすく言えば運が上がるということだ。実が体になにかの刺激を与えるからなのか、原理は分らんが。
 このラッキー効果は、血栓関係以外の病気にも効き目があるとされている。

 この情報は、王城の書庫で読んだ過去の文献から得た知識だ。
 かつての王国にはラックの実がある程度存在したらしく、色々データがとれたらしいが、今や完全に希少素材となっている。

 実物を見たのは俺もはじめてだ。

 そして俺は考えた。

 これは加工すれば、病気以外でも効果を発揮するのではないか?

 そうラッキーポーションが作れるのではないかと。

 脳内でワクワクしていると、なにか視線を感じた。

 「お、ラーナか」
 「ラーナかじゃないですよ。クレイさん」

 「どうしたんだ?」
 「だって、さっきから素材見てずっとニヤニヤしてるんだもん」

 おっと、ワクワクが漏れ出てしまっていたようだ。

 たしかにラーナの言う通りだな。妄想はここまでにしよう。
 とにかく作りまくるしかない。

 試作を重ねて完成させるのだ。

 「よし、じゃあガンガン作るぞ!」
 「はい! SSS級カード、ゲットしますよぉ!」

 こうして俺は、せっせと夢のポーションを作りまくった。


 そして数時間後。

 「おお、新作なのか! クレイ殿!」

 エトラシアが、ずらっと並ぶポーションを見て赤い髪を揺らした。

 すでによだれが出ている。

 「ああ、運をあげるポーションだ」
 「ええ! 運をあげるだと……??」

 「どうだ、試しに飲んでみるか?」

 「いいのか! 是非飲んでみたい!」

 速攻でポーションを飲み干すエトラシア。
 なんだろう、この女騎士は運に飢えているのだろうか。

 「今日も3回転んでしまってな、これで転ばなくなるぞぉ!」

 なるほど、そういう理由か。
 だが、それは運の問題ではないような気もするが。まあ貴重な被験者だ。ヤイヤイ言わないでおこう。


 「―――さっそく外出してくる!!」


 意気揚々と、部屋から出ていく女騎士。

 さて、もうちょっと作っておきたいとろだが、ラックの実があとわずかしかない。
 なので、エトラシアの結果を待つとするか。

 「ふぁ、クレイさん! もしかしてそれ!」

 店番から戻って来たラーナがきた。

 「ああ、とりあえずの試作品だ。いま、エトラシアが効果を確認中だ」
 「むふふ~~成功するといいなぁ~~」

 そこへドアがガチャリとあいた。お、早いな、帰って来たか。

 「ぐれいどのぉおおお~~」
 「ふあぁ……エトラシアさん、その格好……」

 なんかボロボロだぞ……

 「わぁああ~~クレイ殿ぉ~犬に噛まれて、木にぶつかって、サイフ落として、最後はどぶ川に落ちたぁああ~~」
 「そ、そうか……大変だったな」

 屋敷から出て瞬殺されてるじゃないか……

 「でも転ばなかったぁ」

 もはや転ぶ以上の事が起きまくっているんだが。それは言うまい。

 「グスっ……これは運をあげるポーションじゃなかったのかぁ……クレイ殿ぉ」

 「まあ初めてのポーションだからな。失敗はつきものだ」

 「失敗のレベルを大きく超えているぅう……」

 「……とにかく、よく頑張ってくれた」

 俺は涙目の女騎士をねぎらった。

 「ううぅ……まだいっぱいあるぅう」

 エトラシアがテーブルをじーっと見て唸った。
 テーブルには、彼女が飲んだポーションとは素材の配分率が違うものが、ズラッと並んでいる。

 一連の事象が運に関係するのかエトラシアの日常なのか判断に悩む部分もあるが、エトラシアの運に少なからず影響を与えた気がする。今回は悪い方向にだが。

 てことは―――

 やっぱ、ラッキーポーションの作成は可能じゃないか!

 そして再びエトラシアに視線を向ける。

 「飲むか?」

 「くっ……ワタシは誇り高き騎士だ! そんな誘惑にはのらない……ゴクリ」

 生唾を飲み込む音が聞こえたけど。
 あとなんか身体が小刻みにプルプル震えている。

 「―――クソぉお! このポーションめぇ!!」

 ガバーっとポーションを飲み干す女騎士。

 「クレイ殿、行ってくる!」

 結局エトラシアがたくさん飲んでくれた。

 何度か試飲と検証を繰り返した結果―――

 「凄いぞ、クレイ殿! 今回は転ばなかったぞ!」

 それがすごいことなのかなんとも言えないが、エトラシア的には運が良くなったたんだろう。
 よし最終的なデータは出揃った。

 素材を揃えて―――


 「【ポーション生成】!
 ――――――【ポーション(運上昇)(ラッキーブースト)】!」


 よし、これでラッキーポーションの完成だぜ。

 「わぁ~~できたんですねぇ~クレイさん」
 「ああ、エトラシアが体を張ってくれたおかげだ」

 「エトラシアさん、お疲れ様です!」

 「ああ、構わない。どのポーションも個性的で美味しかったしな。ところでラーナ殿はなぜ運を上げたいんだ?」

 クピクピと完成したラッキーポーションを飲み干したラーナが、ブルンとでかい胸を揺らす。

 「気になりますよねぇ~~。じゃあエトラシアさんも一緒に行きましょう! 決戦の地へ!!」

 「け、決戦だと!……クレイ殿、これはフル装備で行った方がいいのか!?」

 「うむ、まったく大丈夫だ。なんならジャージに手ぶらサンダルでいい」

 「なんだと! 貴殿は決戦を甘く見ているのではないか? ラーナ殿からただならぬ気配を感じないのか!」

 感じないぞ。

 だって、今から行くのは雑貨屋だからな。